第7章-第64話 けがをしないこと
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ハラッキヨ相手に大人気ないとは思ったが『消える魔球』を使った。それもヘロヘロ球で3球三振にしてやった。
「なんでこんな球が打てねえんだよ。くそっ。」
ハラッキヨがバットをベンチの備品に叩きつける。治らないな。コイツのあたり癖は。全く。
「罰金だぞ。弁償だぞ。わかっているんだよな。」
「わーかった。わーかったよ。何度も言うんじゃねえよ。」
いや全然わかってないだろ。罰金を払えばいいと思ってやがるな。備品にあたるのはかまわないがそれで怪我をされてしまっては意味がないんだがなあ。契約更改をしたお前の身体は球団の財産なんだぞ。
次は守備だ。那須くんは外野手を希望しているが今回はテストなので内野手も外野手も両方とも行う。ゴロ、ヒット、ライナー性の当たり。この辺りは経験がモノを言うのでそつなくこなしていく。俺はお手玉をしないように『思』を使い慎重に掴み取り投げている。
那須くんは特に肩が強いらしくて外野の深いところからキャッチャーミットにストライクをいれてくる。俺なんか距離が足らなくて思わず『風』魔法でズルをしてしまった。
「ダメだな。」
思わず口をついて出てしまった。
目の前で那須くんが固まっている。
フライを上げるコーチたちには、ワザとファールグラウンドのフェンスギリギリの球を上げて貰っているのだがフェアーグラウンドから走ってきて取ると肩がフェンスにぶつけてしまう。
みんな良いところを見せようとなんとか取ろうと頑張る。大抵は取れずにフェンスにぶつけてしまう。那須くんはその難しい球を少しとはいえ肩をフェンスにぶつけてキャッチできたのだが、ここは見逃して欲しかったのだ。
この後もテストは続いていく。こんなところで怪我をしてしまったら元も子もないのだ。ファインプレーはプロ野球に取ってある種の見せ場だが1点を争うような場面でもこの球を取れば優勝だというときにしか取って欲しくない。取る努力はしてほしいのだが無理なものを根性で取ろうとして怪我をして貰っては困るのだ。
「なるほど。だから僕は落とされたんだ。」
俺がそれを告げると何かを言いたげな表情をしていたが納得してくれる。さらに続いて出た言葉に驚く。那須くんは他の球団のプロテストを受けて落とされたらしい。
さらに突っ込んで聞いてみると、大リーグのスター選手でもこなせないような活躍ぶりを見せつけたらしい。それでも引っかからないなんてどんなテストをしているのか。何か裏があるのだろう。うちの球団も関わっていると拙い。少々詳しく調べてみなくてはいけないな。
次は走塁だ。何故、こんなテストがあるのかがわからなかったが担当者に聞いてみると投手には癖があり牽制球を投げるフォームと投げない場合のフォームが微妙に違うらしい。そこを正確に読み取れることや2塁で捕手が投手に対してサインを出す際のサインを盗み見る技術。ギリギリまでリードを取れる技術とたくさんの観点があるらしい。
那須くんが1塁から2塁、2塁から3塁と進塁を決める。なんの躊躇いも無い走塁だった。
これは出来そうに無いと思った俺はテストが終わった那須くんに教えて貰う。
「えっ! ここから捕手のサインが見えるの?」
担当者が言っていたのは2塁に進塁後の話だ。1塁ベース上からは指輪を『目』にしてみても全く見えない那須くんの持つスキルはもっと高機能なのだろうか。
視覚がカーブを描けるとか?
それはいくら何でも無理だろう。理論上無理がある。
「あのう・・・影の動きで判断しています。」
ああびっくりした。チートスキルが世界の物理的法則まで歪めてしまうのかと思った。まあ渚佑子のスキルを見ていると何でもありだという気がしてくるからな。
なるほどね。それなら俺でもわかる。
室内球場のため、あらゆるところに光源があるそれを利用したわけだ。賢いな。
10年以上野球をやってきたことでスキルが野球に特化しているんだな。
指輪の『目』で見ていると確かに影の動きが違う。でも何回かリードを取って確かめていると牽制球でアウトになってしまった。
穂波くんや麻生くんもこの1ヶ月ほどで新人プロ野球選手として申し分無いほどの成長ぶりを見せているがここまでチートじゃなかった。これは那須くんなりの工夫の成果なのだろう。これからどれだけの成長ぶりを見せてくれるかと思うと楽しい。
那須くんのスキルは始め身体の運動能力を上げてくれるものだと思ったが違うようだ。今のは視覚だよな。でも神から貰えるスキルが視覚だけ向上させるものとは思えない。
初め出会ったときに犬を見つけたとすると探索が出来るはず。でもハラッキヨの言う通り車から犬が居た場所までは視覚で見通せないよな。警察犬のように臭いを辿ってきたとすると嗅覚。指で風を読もうとしたこともあったということは触覚か。
流石に視覚・嗅覚・触覚とこれだけ揃えば見えてくる。人の感覚が向上するスキルなのだろう。




