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第7章-第63話 つかわなくてはいけない

お読み頂きましてありがとうございます。

 ハラッキヨはそのままズンズンと胸を張って歩いて行った。再来年は戦力外が決定だな。那須くんを含め『勇者』の誰かが一軍登録できるようだったら、途中からでも外してやる。


「申し訳ありませんでした。」


 とにかく謝るしかできない。いま甘いことを言っても不審に思われるだけだ。


「そんなに頭を下げないでください。そろそろプロテストの受付が始まるんですよね。すみませんが案内していただけませんか?」


 俺が頭を下げ続けたのが効いたのか嫌がられたのかわからないがフォローの言葉が聞けた。


「うん。そうだ。一緒に行こうか。お詫びに今日のプロテストの内容と審査基準を教えてあげるよ。」


     ☆


 ただの見物客も含まれているだろうがプロテストは2000名ほどの受験者迎えていた。まあ来年からはもっと減るだろう。50メートル走を行なうだけでも大掛かりになっている。各自にICタグ付きの名札をつけてもらい10人ずつ特定のルートを走って貰った。


「あれっ。山田さんも走るんですか?」


「ああ自分でも体験しておけば来年のプロテストの改善点が見つかるかもしれないだろ。」


 この辺りはあくまで建前だ。本当は40歳過ぎの球団社長でもこれだけの運動能力を持っているんだぞと受験者や現役選手・監督・コーチに見せ付けるのが目的だ。監督・コーチのみならず現役選手でさえも練習に手を抜く傾向が見られているので『渇』を入れる目的もある。


 いまは那須くんがどんなスキルを持っているか確かめるのが主な目的となっているが手は抜かないつもりだ。


 50メートル走は6コンマ5秒が足切りの数値とスカウトから示されているが7秒でも7コンマ5秒でも他の種目が良ければ取っていこうと思っている。


 早く走るという単純な競技でも専門の指導者から教育を受けている人間と受けていない人間では明らかに数値が変わってくるからだ。1年間育ててみてからでも遅くはない。野球協約上育成選手の上限は設定されていないのだ。良い人物が居たら100人でも採用するつもりだ。


 1年間育ててみてプロ野球選手になれなくともそれぞれの専門の指導者に向いていれば球団職員として採用していくつもりである。


 那須くんは指の先を舐めて、まるでゴルフで風を読むような仕草をする。だがドーム球場内は風は人工的に発生させており一定だ。それに気付いたのか彼は少し赤くなった。天然ボケの傾向もあるようだ。


 だが陸上競技において風は重要な要素のひとつだ。短距離走だと追い風が発生している場合と向かい風が発生している場合では2~3割以上違う。陸上競技を経験していない彼はそういった知識があるとは思えないから、そういうスキルを持っているのかもしれない。


 しかし、この場で陸上界にスカウトされかねないような運動能力を見せ付けるつもりはない。少し流す感じで那須くんと同着を狙ったのだが少し置いていかれてしまった。各競技の結果はすぐにメールで指定のメールアドレスに送られる仕組みになっており、俺の数値を確認すると6秒フラットで走っていたから6秒を切っていることになる。


「山田さん凄いですね。僕は貴方の年齢でそこまで走れるとは思えない。」


 那須くんを褒めようと思ったが先に褒められてしまった。


 まあ電光掲示板の数値でも2人ともトップ10に入ってしまった。少しやり過ぎたかもしれない。


     ☆


 次は打撃テストだ。いろんなタイプの現役投手の中から3人の選手が投げるストライクをヒット性の当りを見せれば得点だ。


 投げる側には伝えていないがどんな場面であっても正確にストライクを投げられる人間であることの判断材料とされる。


 コマーシャルでは冗談で『球団社長のボールを打ってみないか』というコピーを使用したが打撃テストに加味される点数は僅かだがある。希望者にだけ俺が球を投げた。


 真面目に受験しに来た人間ほど希望しなかったが、チャンスがあればどんな人間の投球でも打ってみようと思う気概が無いと見られて減点の対象となる。


 那須くんは、俺に配慮したのか希望して遠慮せずにホームランにしてくれた。気持ちのいい人間のようだ。


「社長のボール。俺が打ってやるよ。その代わり俺のボールを打てるものなら打ってみやがれ、ホームランにしたら年俸1000万円返上してやるよ。」


 面倒だな。ハラッキヨが挑戦してくる。まあいい、他の投手は俺に配慮したのか緩いストレートしか投げてくれなかったのだ。こんなところで手を抜かれても減点になるだけだということがわからないらしい。


 俺は本気で打ってやろうと指環を『思』に変える。これは思考スピードを10倍に高めてくれるものだ。感覚的には1秒が10秒に感じられる。実際に身体の動く速度は変わらないので高度な判断が必要となる場面でしか使っていない。


 1球目はタイミングドンピシャだったが空振りだった。なかなかいい球を投げやがる。これが悪ければずっと二軍にしてやれるのに困ったものだ。


 2球目は投球コースを読み、当りはしたがタイミング僅かにズレた。ハラッキヨの目が丸くなる。かすりもしないと思っていたようだ。


 3球目はハラッキヨが動揺したのか暴投した。それも頭付近の危険球だ。俺はバットを投げ捨て素手で受け止める。


「ワリィ。」


 全然悪く無さそうな顔で言われても困る。もしかしてわざと頭を狙ったのかもしれないな。


「ハラッキヨ。今日は無償奉仕な。それで勘弁してやる。それから受験者にデッドボール食らわせたら即座に解雇してやるから、しっかり働けよ。」


「ちっ。わかった。わかった。」

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