第7章-第62話 みつけた
お読み頂きましてありがとうございます。
今週からクロスリンクする小説です。
『帰還勇者のための第二の人生の過ごし方』
http://ncode.syosetu.com/n5087eb/
既に完結済みですのでどこでクロスリンクしているか探してみてください。
尚、9年後の穂波志正くんも登場します。
続編は連載中です。こちらは本格推理ファンタジーになっています。
『帰還勇者のための休日の過ごし方』
http://ncode.syosetu.com/n7440ed/
このプロテストで規制緩和をするのにはもう一つ狙いがある。
召喚の術式を解読したところ、3人一組になっているらしく。フラウさんが麻生くんと穂波くん以外にもう1人居たが『送還の扉』により帰ってしまったらしいのだがその1人の行方が解っていない。
一緒に召喚された麻生くんによると召喚されたのは東京お台場で開催されていたコスプレーヤーの撮影会で、周囲にいた人間は10代もしくは20代の男性だったことから、あらゆる規制を緩和したプロテストを餌に釣り出そうというわけだ。
どんなスキルを持っているかわからないが一部例外を除き魔法に関するスキルは使えない趣旨のことを神が言ったそうだから、個人の能力を伸ばす関係のスキルではないかと考えている。
フラウさんの場合、俺の秘書の千代子さん同様にこちらの世界でも魔法のような能力が使えていたため、その例外に当てはまったのではないかと想像している。
ちなみにフラウさんの国籍はアメリカ国籍になり、初めからアメリカに産まれていたことになっている。前大統領の時代のことだったので特に詳しい話は聞いていないが裏でCIAが暗躍していたらしい。
☆
プロテスト当日の朝、球場の周囲を歩いている。アポロディーナには天井を優先的にダンジョン化して貰っており雨漏りはしないはずだ。それに合わせてスタンド席を陸上競技用から野球用に変更しているところである。
買い取った当初はこのドームを建設したJVが見積もりを持ってきたが信用できないので、他の業者を交えて合い見積を取ったところ3割以上違った。
やはり新国立競技場の建築予算削減で甘い汁を吸い損ねたJVに対する補填の意味合いが大きかったようである。維持管理費も5割削減できたことから、このドーム建設はかなり甘い汁だったことがわかった。
「ちょっと待て! おかしいだろう。お前が居た場所からここまで見えている筈はねえ。さては盗んで隠してやがったな。」
ちっ。また、ハラッキヨだ。アイツの声は大きい。大きい声を出せば大抵のことは通ると思っている節がある。詳しい話は聞こえなかったがアイツが少年に向って荒げた声を出していることは確かだ。
「本当に見えたんです。」
「お前。那須とか言ったな。覚えておいてやるよ。へっ残念だったな。」
「おいハラッキヨ。あれほど言葉遣いを直せって言っただろうが。ファンサービスも立派な仕事なんだからな。お前のそういうところが減棒対象なんだぞ。」
相手の少年の顔を見ると泣きそうになっていた。この少年はプロテストの応募書類で見たことがある。スカウトの話では夏の甲子園大会が始まる前は注目選手の1人だったが、決勝戦直前にご両親が亡くなりメンタルがズタズタになったためか暴投を連発させ敗退したそうだ。
メンタルが弱い野球選手は取りたくないらしくどの球団もスカウトに動いていないらしい。
両親が亡くなっても動揺しない18歳の少年なんて居るものか。俺だって父が亡くなり母が居なくなったときにはボロボロになった。逆にそういう経験をしていない人間と比べればメンタル的に強くなっているはずだ。
いまいち、スポーツ界の常識が理解できないのは俺が体育会系の人間じゃないからかもしれないが、そんな場合、普通は動揺して当然で周囲の人間がフォローしてしかるべきだと思う。
名前をどうしても思い出せない俺は指輪を『鑑』にする。
『勇者』だ。麻生くんの言っていた年代にも当てはまる。夏の甲子園が終わった球児がコスプレを見に来たというシチュエーションは理解できなくもない。
「君、プロテストを受けにきた・・・ゆ・・・那須くんだ。甲子園は惜しかったね。」
全くハラッキヨめ。『勇者』取り逃がしたらどうしてくれるんだ。万が一、そんなことがあったら開幕一軍登録はしないで1年間二軍で使い続けてやるからな。
「なんで、僕の名前を。」
「プロテストに応募してくれたでしょ。これでも一応目を通しているんだよ。おいハラッキヨ、何度言ったらわかるんだ。今回のお客様はプロテスト応募者なんだから、愛想良くしろよ。何をイジメているんだ。本当に減棒にするぞ。」
ハラッキヨめ。絶対に減棒にしてやる。最悪だ。
「仕方が無いだろ。コイツが俺のペットを盗みやがったんだ。」
何を考えたらそんな考えに行き着くんだ。ありえないだろ。全く。
「ちょっと待て! お前、それ証拠があって言っているんだろうな。間違っていたら、罰金ものだぞ。」
詳しい説明を両者から聞き取る。
「だっておかしいだろ。コイツが立っていた位置からはここは死角になっていて見えないはずなのに、真っすぐここに連れてきたんだぜ。怪しいと思うだろ。」
那須くんは確かにあやしい。でも『勇者』ならば固有スキルを持っているはずだ。それを使って探し出したことは容易に想像できる。
「それは状況証拠にもならないぞ。那須くんはこちらの方向から歩いてきたわけじゃ無いよな。お前の車のあった位置から700メートルは離れているじゃないか。車から飛び出た犬を抱え込んでここまで走ってきてリードを絡ませて車の傍の位置に戻るのに掛かった時間がたった1分か。2分だというのか?」
だがハラッキヨの話は物理的な時間で破綻している。1400メートルを1分や2分で戻ってくるなんてどうやったら出来るというのだ。ちょっと考えたらわかりそうなものだ。
「あれっ。おかしいなあ。そうだ。きっとそこらに共犯者が居るんだよ。」
那須くんを疑っていないが俺の空間魔法には何も引っ掛からない。思いつきで喋っているようだ。
「だから、思いつきで喋るなって。そんなに都合良く共犯者が居るか。そもそもそんなことをしても誰も得をしないだろ。金品を要求されたのか。違うだろ。那須くんはきっと走っていく方向を見ていて一生懸命に探してくれたんだ。偶然向かった方向に行ったら、偶々見つけた。そうじゃないかな?」
「そうなんです。」
ようやく那須くんが顔を上げてくれる泣き笑いと言った感じだ。
「おい。那須くんに謝れ! 全くこんなトラブルばっかり起こしやがって。」
「誰が謝るかよ。怪しいもんは怪しいだよ。そんな奴に謝れるかよ。罰金でもなんでもすればいいだろ。」




