第7章-第59話 きゅうじょう
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『東京さくらドーム』
東京オリンピックの新国立競技場の総工費膨張が取り糾された時期に建てられた競技場である。
新国立競技場がデザイン優先で費用圧縮されたため、競技施設の基準を満たさなくなり東京オリンピックでは開会式と閉会式のみ使用されたのに対し、東京さくらドームは陸上競技のメイン施設として使用された。
総工費350億円。
当時、読々シャイニーズの本拠地として有名だったドーム球場を模して作られており、その技術内容はこなれた技術だったにも関わらず、東京オリンピックが終わった翌年から次々と手抜き工事による雨漏りが頻発し、とうとう昨年に閉鎖にまで追いやられてしまったらしい。
俺はこの使われなくなったドームを所有者の第3セクターの運営会社からほぼ土地代で購入した。解体する費用だけでも100億円ほど掛かるらしく、さらに維持費だけでも年間5億円ほど掛けないといけないのが買い手がつかなかったのが原因らしい。
「この建物をダンジョン化すればいいの?」
建設中の高層マンションの地下で生活しているアポロディーナは建設作業員の出す澱を吸収し、若々しくなっている。高層マンションも建設の進み具合に合わせたダンジョン化を進めて貰っているが、建設スピードのほうが遅いらしくそのダンジョンは地下へ広がり始めているらしい。
「そうだ。出来るか?」
「大丈夫よ。周辺道路の五芒星化が完成したから、千葉県全域からの澱が集まってきているわ。特に舞浜辺りから入ってくる量が凄いのよ。」
「屋根部分は内部だけダンジョン化。建物自体は外観もダンジョン化しても大丈夫だぞ。」
以前、高層マンションのダンジョン化を相談した際には内部のコンクリートをダンジョン素材に置き換えるには細かいコントロールが必要らしく神経を使う作業と聞いている。
なのでこのドーム球場の外観はあえてゴツゴツとしたダンジョン化を指示しているのだ。元々、手抜き工事なのは世間にバレており、観客には手を入れていることがわかったほうが安心するためである。
ある種、昔の甲子園球場のようにツタで覆われているような雰囲気が出てくれるといいと思っている。
「ところでクリスはどうしたんだ?」
クリスはアポロディーナほど精密なコントロールができないらしく主に地下のダンジョン化を行なっていると聞いていた。だから、外観のダンジョン化はクリスの担当にするつもりだったのだが、現われたのはアポロディーナだけだった。
「なにやら新宿歌舞伎町という場所が気にいったらしくて、その地下をダンジョン化しているらしいわ。」
「おいおい。大丈夫なのか? あの辺りの地下には何が埋まっているか解らないぞ。地下鉄やリニア新幹線は避ければいいだけだが、東京大空襲の爆弾でも埋まっていたらどうするつもりなんだか。」
「さあ拗ねているだけじゃない。自分の存在があまりにもスッと受け入れられたもんだから。」
「そうか騒動の元になるとでも思っていたのか。」
クリスの存在は俺が意外と思うほど、奥さんたちに受け入れられたのだ。マイヤーとさつきに聞いてみたのだが、どうも俺の子供ならどんな人間でも受け入れられたらしい。
しかもクリスは長寿種族だ。下手をするとマイヤーよりも長生きするかもしれないとあって、奥さんたちに安心感を与えているらしい。
「今は貴方に貰ったお金でホストクラブを経営するのだとか張り切っているわよ。そこで行なわれる人間模様が面白いんですって。」
なるほど、俺に似てない彫りの深い顔立ちとクリスティーに似た高身長ならば、あの世界でもやって行けるに違いない。165センチしかない俺にはとても無理だ。
☆
Ziphoneフォルクスの本拠地移転は割りとすんなり世間に受け入れられた。
球場の運営主体は当初ゴネていたが、10年単位の契約も終わっており法律的にもなんら問題が無い。しかも1日の球場使用料が2000万円を越えており、誘致当時の100万円を大きく上回っていることを発表すると沈静化していった。
当面の間、静岡から千葉までの高速バス込みのナイターチケットを格安で売り出すことで静岡のファンも受け入れてくれている。




