第5章-第34話 あんこく
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翌日、マイヤーの髪の毛をホテルの美容室で軽くセットしてもらい。自社の社長室に向かった。
マイヤーを秘書ですと言って同席させたいところだったが、詮索されても面倒なので、仮眠室の方へ待っていてもらう。
暫くネットで情報収集していたが、何も昨日から新しく解ったことはないようだ。とりあえずフィールド製薬の株は300円から徐々に買い戻す設定にする。
おそらく、50円を切るくらいまでは下がるとは思うが、300円も50円も大した違いはない。せいぜい数億円違いが出るくらいだ。それよりも、さっさと含み益を現金化する。
いろいろ設定しておくと、警察がやって来たと受付から連絡があった。この時間にしたのは、1階の保育園にお母さんなどが居ないときにしたかったからだ。変な噂が立つのは不味いからな。
・・・・・・・
警察には、根掘り葉掘り聞かれたが事前に考えていた通りの返事を、少し考え考え答えただけだ。あまり、すらすら答えても怪しまれるだろう。
俺が誘拐されかけたことは、被害届をださないことで無かったことになった。被害届を出しても被疑者は死亡しているし、逆に他の組員に因縁を付けられることになっては何もならないからだ。
警察は話を聞くとさっさと帰って行った。俺は、その後直ぐ行動を起す。ここに程近い、組事務所を銃撃するためだ。今、暴力団抗争と言われてはいるが、その後、なんの報道もされていない。ここで、組事務所に銃撃されれば、カモフラージュとしては最適だ。
マイヤーと組事務所からおよそ1.5キロメートル離れたビルの近くで食事を摂る。案の定、朝来た警察官が乗る車が遠く離れてついて来ているようだ。まさか、300メートル以上先の車の中の人間の顔がはっきり見えているとは思わないだろう。
せいぜい、こちらを向いているなくらいで怪しまれてないようだ。
食事が終わるとさらに近くの老朽化のため、閉鎖しているビルの裏手に回りこみ、マイヤーに『フライ』で屋上に連れて行ってもらった。屋上のドアも確認したが、閉まっていて問題は無さそうだ。わざわざ、警察官の近くでライフルを撃つのは、ある意味アリバイを作るためである。
銃撃があっても、ここから組事務所までに低いビルが沢山あり、角度や距離から言って、ここで発射したものとは思われないだろうという思惑で動いたのだ。
しかし、射程距離が伸びた指輪の『目』を持ってすれば、銃弾を撃ち込むのは容易いと思っていたのは間違っていたようだ。街を歩いている人は、そこが広域暴力団の関東ブロック長の組事務所であるというのは知らないらしく、結構人通りが多い。間違って一般人を撃ってしまっては後悔なんてものではすまない。
結局、そこで2時間くらい粘ってみたが撃てなかった。やはり1人で暴力団に敵対することが無理だったんだ。俺はマイヤーにお願いして隣のビルに移ってもらい、下の出口から歩いて出た。ちょうど、下では俺達を探す警察官がうろうろしていたので肩をたたいて聞いてやった。
「どうしたんですか?こんなところで。」
「お、おまえ、何処行っていた?」
「ええ、あそこです。」
出てきた出口を指し示す。そこは、ラブホテルの出口だった。
「そ、そうか。なるほど、だから2時間も・・・。」
「もしかして、俺を探していたんですか?なにか新しいことでも解りました?」
こちらが呼び水をむけてやると乗ってきた。
「ああ、あちらの車でお話ししたいのだが、よろしかったですかな?」
「私、エトランジュ様に頼まれごとがあったんだわ。席を外してもよろしいかしら?」
なんだろう?また、スイーツかな。少し表通りに出れば有名な洋菓子店があるのかもしれないな。
「ああ、もちろんだとも、あとで連絡をするから。いいですよね?」
マイヤーには、自社から持ち出した社有のスマホを渡し、使い方を教えこんであるので迷子にはならないだろう。
「まあ、いいでしょう。では、こちらに。」
車の中では、相手の組員の名前など、少し詳しい情報を教えてもらえた。あのとき、仲間同士で呼び合っていたのでだいたいは解かってはいたが、知らない振りをした。その時だった、突然ドンという轟音とともに、遠くのほうから煙が上がっているのが見えた。組事務所の方角だ。
さらに、車の無線に連絡が入り、組事務所が爆発したという。俺は、その場に降ろされ、警察官たちは現場に急行するようだった。
降ろされてすぐに俺はマイヤーに連絡を入れる。もしかして、巻きこまれたりしたら・・・と思うと取り返しがつかないからだ。電話は直ぐでてくれ、周りからは何にも音が聞こえないところをみると、現場の近くではなさそうだ。マイヤーとは自社ビルで落ち合うことを約束しタクシーで戻ることにした。
社長室に戻り、ニュースサイトで情報を検索すると、あの組事務所ばかりが5箇所も爆発していることがわかった。しかも、昨日重点的に下調べをした組事務所ばかりだ。そこで、ある一つの仮説が浮かぶ。そんなばかな!でも、そう考えると辻褄はぴったり合う。
マイヤーが帰ってきた。
「マイヤー、どうしたんだ!袖口が少し焦げているぞ!」
「え、うそ。頂いた服を汚さないように気をつけたのに!・・・焦げていないじゃないですか。・・・あ・・・。」
語るに落ちていると解り、口を手で塞ぐがもう遅い。
「やはり、マイヤー、君だったのか。」
下調べをした際にマイヤーにも、説明をしながら最適な場所を選んでいったのだ。これが偶然とは思えない。
「ええ、これが、暗黒の聖女と呼ばれた私の仕事ですから。」
「人殺しがかい?」
「ええ、教会に都合の悪い人間を幾人殺したか・・・。そこから救いだしてくれたのがエトランジュ様でセイヤ様でした。そのセイヤ様の大事な、そして、私の大事な貴方の曇った顔を見逃すわけには参りません。全力で排除するのみです。」
「そうか。でも、もう十分だ。ありがとう。」
「そうですか。わかりました。もう、攻撃しません。あとは守りに徹します。」
いったい、彼女はどんな人生を歩んできたのか・・・。