第6章-第51話 おおあたり
お読み頂きましてありがとうございます。
なるほど、王宮の劣化コピーだな。急激に文化水準が上がってきているようだ。
だが中身は野蛮そのものかもしれない。やっかいだな。
「フラウ・・・お前・・・。」
「オーディン。何でそんなところに座っているのよ。」
『聖霊の滴』を捨てた男が基準か。ゴブリン側も何らかの意思疎通手段があると見える。それはそれで一方的に騙す結果に終わらなくていい。
「ゴブゴブゴブ。ゴーブゴブ。ゴブゴブゴーブ。」
(異世界の『勇者』たちよ。ようこそいらっしゃいました。ジャイア王国のアロウ一世です。)
赤い個体か。この個体が何らかの意思疎通手段を持っていると見て間違いは無いだろう。
「トムだ。昨日『勇者召喚』により、この世界に渡ってきたが別の異世界のただの亜人だ。少し魔族の血が混ざっている。」
あまりくどくど説明はしたくないが俺がそちら寄りであることさえ伝わればいい。そしてできれば交尾の対象外と認識しれくれればなおいい。
流石の俺もゴブリンとエッチしたいと思わない。目の前の男に忍耐強さには頭が下がる思いだ。
「渚佑子です。昨日『勇者召喚』により、この世界に渡ってきた『勇者』です。」
渚佑子が打ち合わせ通りに挨拶する。渚佑子ももうちょっと空気が読めると楽なんだが、まあ努に比べればまだマシのほうだけど。
「フラウです。10年前『勇者召喚』により、この世界に渡ってきた『勇者』です。こに世界では『聖霊の滴』と呼ばれています。」
『聖霊の滴』を連れてきたのは謝罪の意図だ。責任を取りたいという強い意志があったので殺されても文句は言わないと『勇者』たちに言い聞かせて連れてきたのだ。
本当に差し出せと言われたら困るが、そこまで言うほど文化水準が低く無さそうである。
「ゴブゴブ。ゴブゴブゴブ。」
(貴女が『聖霊の滴』なのですか。)
「この男はあなた方が占領したヴァディス王国の隣国にあるヴィオ国の王子です。俺がこの世界を去ったあとの人族側の交渉役として連れてきた。そちらの男性のことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
オールド王子の交渉役がこの男なら厄介だ。
「ゴブゴブ、・・・ゴブゴブ。ゴブゴブゴーブ。」
(この男は、・・・そうですね。ただの種馬兼アドバイザーです。)
エライ言われようだな。何故か忌み嫌われているらしいことは伝わる。何故だ。
「そうなんですね。この世界ではそこに座られるのは王の伴侶なのですが違うようですね。」
そうなんだ。チバラギとは違うな。チバラギではそこまで王妃の権限は強くない。王の配偶者であってそれ以上でもそれ以下でもないからだ。施政者としての役目は全く無い。
まあエトランジュ様のことだ。セイヤを尻に敷いているのだろうし、裏で助言もしているのかもしれないが。
「ゴブ。ゴブゴブゴーブ。ゴブゴブゴブゴブ。」
(なんですって! 思い上がるのもいい加減にしなさい。貴方はただの種馬です。)
なるほどこの男が勝手にやったことらしい。やはり文化水準が低い分だけ騙され易いか。こればかりはどうしようもない。
それこそいい経験になっただろう。
「止めてください。」
だから勝手に動くなよ。情が残っていたのか。人間らしいのかは知らないができれば放置して欲しかった。男の表情を見ても恍惚としていてキモい。散々辛酸を舐めた経験から虐められることが快感になっているようだ。
「ゴブゴブ・・・ゴブゴブゴブゴブゴーブ。」
(貴女は・・・この男を憎くは無いの?)
「何故、それを。」
そうでなくては面白くない。女王は男の記憶を読む手段があるんだな。
「ゴ、ゴブゴーブ。・・・ゴブ、ゴブゴブゴーブゴブゴブゴーブ。」
(ちっ、しまった。・・・それは私が身体を重ねた男の記憶を読み取れるのよ。)
よかった。
『聖霊の滴』が暴いたおかげで公然と身体を要求してきても突っぱねることができる。
それはこの世界の高貴な方に犠牲になっていただこう。そこそこ高貴で何も知らない男がひとりやふたり必ず居るだろうからな。ゴブリンに犯されるなんて人身御供もいいところだな。
「では、俺が居なくなったあとの交渉役は彼に担わせるつもりだったのですか?」
これはあくまで役目だ。なんらかの権限を持ってはいないのだろう。その場で話したことを読み取るだけの存在。まあそんなところだろうな。
「ゴーブ。ゴーブゴブゴブゴーブゴブゴブゴーブゴブゴブゴブゴブゴーブ。」
(そうだ。こんな酷い男でも王族としての知識だけは使い道があったわけだ。)
それならば、オールド王子と女王と直接交渉をしていただこう。この男は不要だ。
「その役目は不要だ。この男はそこの男の兄だが出来は月とスッポンだ。この男に言葉を交わせる魔道具を渡しておいた。今後はお互いに通訳者を育てていくだけでいい。」
「ゴブゴブ。ゴブゴブゴーブゴブゴブー。」
(そうか。ならばこの男は臣下に払い下げるとしようか。)
「そ、そんなぁ。」
悲鳴をあげながらも男はさらに興奮している。ゴブリンに犯される夢を見て興奮しているのだ。
「本当に通訳者を育てられるでしょうか。先程から聞いていても、『ゴブ』としか聞こえないんですが。」
ありゃ。参ったな。オールド王子が弱音を吐くとは思わなかった。
「ん。わからぬのか。比較的簡単そうだぞ。もっとあるのかも知れないが『ゴブ』と『ゴ』と『ゴーブ』と『ゴブー』のそれぞれに俺が聞き分けられただけでも10の発音があるようだ。これで40の言葉が言い表せる。さらにそれぞれの組合せによって意味が変わってくるといったところじゃないかな。」
現代世界の言葉に置き換えると中国語のそれに近いのかもしれない。
『マー』という発音には4つあり、それぞれ違う漢字が割り当てられている。つまり、漢字一つにつき読みは一つなのだから日本語よりもよっぽど簡単だ。
これから文化水準が上がっていくにつれ言葉が増えていくのだろうが。
「ゴブゴーブ。ゴブゴーブゴ。」
(すごい。その通りよ。)