第6章-第50話 いってみたかっただけ
お読み頂きましてありがとうございます。
リンク小説が完結してしまいましたので少し更新ペースを上げます。
『勇者』たちを侯爵領に置いてきた。少々愚図られたが、凶器を持って話し合いに行くバカは居ないと言ったら分かってくれた。
『聖霊の滴』だけを連れて行く。彼女のほうが凶器の度合いが大きいはずだが女性であるのが大きい。手を出そうとしたら殺すと脅しておいたから大丈夫だろう。
ヴィオ国の王宮に到着する。グズグズしていたヴァディス王国と違い、さっさと謁見の間に通された。
「異国の方、オールドの足を治して下さり礼を言います。これで問題無く退位を進められる。」
こんな公式の場で言うのだから、本気なのだろうがちょっと待って欲しい。こちらにも都合というものが存在する。
「陛下! 早すぎます。」
オールド王子はポカンとした顔をした後、抗議をする。この世界で最大の権力を持つのは建前上王だが実質的には王太子と首都を任されている人に二分されているらしい。
王は王太子を出した案を最終承認するだけだという。
現在、その両方を兼ねるオールド王子に今退いて貰っては困るのだ。
「そうだな。少し早すぎる。オールド殿にあと10年は働いてもらうつもりだ。」
どう考えてもヴァディス王国の奴らはオールド王子ほど信用できない。
「私にも何か仕事を与えてくださるわけですね。」
「ああ。あの国が純血主義のままでは休戦協定が上手くいったとしても長続きすまい。ヴィオ国が援助すると見せかけて経済的に息の根を止めてしまえ。形式的にはエミリー王女を主軸とした新国家設立でも何でも構わない。10年後を目途に併合しろ。」
隣で聞いていた『聖霊の滴』がよろめく。あの国が信用できないことは彼女も分かっているのだろうが、感情がついていかないらしい。まあ仕方が無い。
「その仕事は頂けませんな。」
オールド王子が反対をする。流石に喜んで乗ってこないか。俺でもそんな面倒なことはしたくない。
「どういうことだ。」
俺は意外そうな顔を作る。こんなものかな。
「あの国があるからこそ、亜人に対するわが国の優位性が誇れるのですよ。今後ゴブリンたちのような国が次々と建国されていくならば、仲良くできる勢力が増えるというものです。対立構造があったほうが解りやすいじゃないですか。」
オールド王子がニヤリと笑う。
「ふふふ。お主、なかなかの悪だな。わかったわかった。生かさず殺さずといったところだな。その優位性を確実なものにするためにも、これはお主に渡しておこうか。」
このセリフは一度使ってみたかったのだ。『聖霊の滴』にはさぞかし悪代官に見えているだろう。
俺はオールド王子に小さなピアスを渡す。あのモデルルームに転移してきた召喚者たちが日本で生きていきたいと言い出したときに渡すつもりだったもので俺の指輪の下位互換で『翻』だけ使えるものだ。
「これは何ですか?」
「相手の言葉が解りこちらの言葉が伝わる魔道具だ。」
「『勇者』の『翻訳』スキルみたいなものでしょうか?」
これは話が早い殆ど同じだからだ。母国語しか分からないのでロシア人が英語を喋っても理解できないが大差無い。
「この世界ではほとんど同じだな。」
「それは素晴らしい。それをわが国が頂けるんですか?」
長期間に渡って1国に所持させるのは危険なので言い方を替えてみる。
「もちろん、お主に渡す。この国と聖霊教会が持つ術式に関する書籍と交換だ。渚佑子。」
渚佑子が思い切り良くオールド王子の耳朶にピアスを突き刺す。相変わらずドSだな。人がビビるのを見るのが楽しいらしい。困ったことだ。そして『治癒』魔法で耳とピアスが一体化する。外すときも血が出るが死ぬまで持ち続けてもらわなければ困る。
「これはお主専用だ。他人が着ければ呪いが掛かる。お主が生きているうちに翻訳辞書を作れ、通訳を育てろ。大変だぞ。」
この魔道具もいつかは壊れる壊れたからと言って亜人と会話が出来なくなって貰ってはこまるのだ。まあ呪いと言っても病気が血液感染したり、次に使う人が耳を消毒しなければ化膿してきたりするだけだ。