第6章-第49話 ごぶりん
お読み頂きましてありがとうございます。
謁見の間から出て行こうとすると『勇者』たちがエラン王子に呼び止められる。彼女たちの領地をゴブリンたちへの割譲の一部として割り当てたいらしい。
まあ確かにそれなら話が早いことは理解できるが、自分たちに交渉力が無いと露呈しているようなもの。俺だったらプライドが許さないところだ。
だがそういったプライドは持ち合わせていないらしい。やっぱりダメだな。ゴブリンたちとの休戦協定を纏めたとしても長続きしないだろうな。どうしたものか頭が痛い。
エラン王子は俺の顔色を伺ってばかりいる。そして何を誤解したのか。領地の代わりに宝物庫で見繕ってくれと言い出した。『勇者』たちから領地を取り上げて終わりにする気だったらしい。
「歴史的価値とか美術的価値には関係無い。君たちの『鑑定』スキルで全体重量から金と白金の成分をグラム換算して価値を決めろよ。過去5年間分、その領地を持っていた貴族に入ってきた収入額に見合う額だ。渚佑子、この世界の金貨を単純に潰した額を日本円で算出してやれ。」
俺はざっくりと宝物庫を見回して領地を日本で換金する手法を助言する。渚佑子に『知識』スキルから書類になっている過去5年間の収入額を『勇者』たちに伝えていく。
この国の領主たちだから、多少誤魔化しはしているだろうが領地にあるはずの裏帳簿はゴブリンたちとの戦いで消失しているだろうし、国で管理している金額のほうがインパクトは強いに違いない。
案の定、エラン王子が驚愕の表情を浮かべ、宝物庫の担当者が青ざめる。思った通り、宝物庫にその金額に見合ったものは置いていなさそうだ。
エラン王子は汗を掻きながら、金貨が殆ど無いことを告げにくる。篭城戦の際に隣国から食糧を買い付けたらしい。なんだ『勇者』たちは食糧倉庫代わりに十分働いているじゃないか。
日本円にして一般家庭の世帯収入が10年分といった金額が『勇者』たちに提示された。
「そうか。貴金属買取ショップに持ち込むんだな。それに日本円に換算すると安いな。日本の物価が高すぎるだけか。でも大量に持ち込んで不信に思われたりしないだろうか?」
このリュウキという『勇者』は中々賢いらしい。俺も散々悩んだものだ。結局、行き着いたのは貴金属買取ショップを経営することで木を森に隠しているのである。
「俺の会社には貴金属買取ショップがあるから、大量でもネックレスとか指輪とかなら問題無く買い取れる。王冠とか金貨は、渚佑子に頼むんだな。錬金術で成分分離くらいはやってくれるぞ。」
時々、渚佑子個人のものもショップを通じて流れてくるが錬金術を使って成分抽出を行なったらしい。金属の塊が入っていたとフランチャイズ本部から報告を受けて汗を掻いたことがある。
そのときは金歯などに見せかけろと注意しておいたが守っているだろうか。
渚佑子に頼むと手数料を取られるだろうけど。その辺りは話し合いで決めてほしいものだ。
「このダイヤモンドのネックレスは高そうだけど無理なのかな?」
もうひとりのシセイという『勇者』はバカなのか大きなダイヤモンドのネックレスを取り出してきた。
「ダイヤモンドなどの宝石類はカットし直しだから価値は下がる。一応ルートは持っているが大量には無理だな。そのダイヤモンドは大きすぎるから出所を疑われる恐れがあるぞ。それ以前にダイヤモンドの価値が解るのか。光具合や内包物でとんでもなく価値が違うぞ。」
幾らなんでもそのダイヤモンドは大きすぎる。イギリス王室で見せて頂いた『アフリカの星』よりも大きいのではどう考えても裁けない。
「君たちは日本に帰ったら、俺の会社かZiphoneで働いてもらうことになるから、生活費は気にしなくても良い。まあこの世界に誘拐されて監禁された慰謝料だと思ってガッツリと貰って置くんだな。」
「私も働かせて貰えるんですか?」
『聖霊の滴』の彼女は10年前に『召喚』されてきたのだという。しかも日本人じゃないらしい。元の国に戸籍が残っていればいいが無かったら、戸籍を作ってもらう必要がある。これはやっかいだ。アメリカの市民権を都合してもらうか。
「君は国籍の問題があるんだったな。元の国に戻りたいのなら手配はできるが、日本に居たいのならアメリカ大統領に話して市民権を取って貰わなければならない。君はどうしたいんだ?」
まず本人に聞かないと始まらない。単に不法滞在させるだけなら見つかりにくいが働かせるとなるとまずクリアにしておかなければいけない問題である。
「アメリカ大統領に個人的な伝手って、どれだけだよ。」
この『勇者』バカすぎるだろう。こいつだけ、こちらに置いていこうかな。いやいや待て待て。こいつを置いていったら、再び『召喚』される可能性が高くなってしまう。日本で再教育するしかないか。
「日本に居たいです。元の国には戻りたくないです。でもご迷惑ですよね。」
そこから彼女の個人的な話になった。彼女はある国の重要人物だったらしい。だがその国に裏切られ日本に来たところを『召喚』されてしまったようだ。
しかも、アメリカが暗躍した形跡がありそうだった。あの国は時々傍迷惑な自由を振りかざすときがあるからな。彼女はその犠牲者なのかもしれない。
「CIAかFBIが絡んでいそうだな。そういうことなら、大統領に借りを作らずに済む。逆に貸しかもしれないな。安心していいぞ手配するだけで済みそうだ。」
☆
控え室に戻り、オールド王子が帰るというので一緒に付いていくことにした。ヴィオ国にも挨拶くらいはしておきたいし、出来れば頼みごともしておきたい。
「過剰な接待は受けたくないからな。まずは王宮を出て、ゴブリンたちに話を通しておこう。明日の朝には戻ってくる。」
接待を受けても何も変わらない自信はあるが、なにぶん時間が勿体無い。開いた時間は有効活用しないとな。
『勇者』たちと同行していたのでは信用を得られないので俺と渚佑子だけで出て行き、ゴブリンたちに話し掛けた。
「ゴブ・・・ゴブゴブゴブ。ゴブゴブ。」
(新たな『勇者』だと・・・それをどうやって証明するんだ。)
俺は渚佑子にどれでもいいからと王宮の前の建物に向って爆破魔法を唱えさせた。
珍しく少し躊躇する様子を見せたが、意を決したようにある建物に向って唱えるとその建物は崩れ去った。凄い威力だ。
「ゴゴゴブ・・ゴブゴブ・・・ゴブゥ。」
(わわわかった。・・言う通りに伝える・・・だから、その女をこちらにこさせないでくれ。)
ゴブリンたちは酷く怯えた表情を見せる。
ヴァディス王国側の簡易砦に明日の朝に伺うことを伝えると礼儀正しく頭を下げていった。この国の人間たちよりもデキがいいかもしれない。
誰の屋敷が壊れたかは想像つくと思いますが
この話で「バージン悪役令嬢の初体験」の48話目とリンクしています。
『欠陥品の烙印を押された勇者が超感覚で世間を渡る』を公開しました。
http://ncode.syosetu.com/n5087eb/
この話も『山田ホールディングス』シリーズの一部となります。
異世界勇者帰還モノ。球界無双と事件モノの予定です。
想像はつくと思いますがZiphone所有のプロ野球の球団社長に就任したトムが出てきます。
おそらく本編でも後々描く予定です。




