第5章-第33話 きばらし
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気晴らしに出かけることにした。マイヤーもいっしょだ。近くの森に出没している魔獣を狩りに行く。それもライフルを使ってみることにした。次に使うまでには、躊躇いなく引き金を引けるようにしておきたいからだ。
別荘では自分の命が掛かっているにも関わらず、躊躇いがちに引いたのだが、それでは問題だ。本当は覚悟を決めて命を奪う必要があったのだ。
まあ、対魔獣と対人間では心境が全く違うが生き物の命を奪うという点では同じだ。今まで、そういったことを遠ざけてきた分、余計に慣れなくてはいけないだろう。
原付スクーターに二人乗りして、森に向かった。山裾に原付スクーターを停車すると獣道と思われる道を進んでいく。マイヤーが『探索』を使い、見つけた魔獣を片っ端から、ライフルで倒していく。遠くのヘリを撃つのに比べれば楽なものだ。
「その武器はすばらしいですね。生命力の強い魔獣も一撃で殺せるとは・・・。」
まあ、大抵の生き物は、頭を撃ち抜けば即死だからな。
途中でいきなり、指輪の『目』の届く距離が伸びた。どうやら、レベルアップしたようだ。ライフルで殺しても問題なく俺の経験値になっていることは確かだ。
帰り道、冒険者ギルドに寄り、マイヤーが持ち帰った魔獣を引き渡した。俺は身分を隠す必要があるため、冒険者ギルドに登録しなかった。登録して、いきなり王族とギルドカードに出ないとは限らない。
マイヤーに聞いても出た例は無いというばかりで、王族が冒険者ギルドに所属した例があるかさえもわからないようだった。
合計25頭で10万G、中々の収入だ。半分はマイヤーに渡した。
「え、こんなに頂けないですよ。ほとんど、何もしていないのに・・・。」
「いやマイヤーが『探索』で見つけてくれたこそ、簡単に倒せたんだ。半分ずつだ。それとも、王宮の給与の内に入ってしまうのか?」
「いえ、王宮の給与はそこまで入っていません。特に軍人は、領内を見回っては狩りをして収入を得ています。特に陛下が将軍を兼務している右軍には、少佐や大尉より収入の多い少尉、中尉がごろごろ居ますね。」
「ほう、アルム少尉なんかも収入が多そうだな。」
「アルム少尉をご存知なのですか?そうですね。右軍で1位、2位を争うくらい稼いでいらっしゃいますね。」
道理でポンと自転車を買ってくれたわけだ。あの値段設定は、不味いかもしれないな。マウンテンバイクだけでなくて、安い自転車も置く必要があるかもしれない。
「では、3割だけ頂きます。冒険者ギルドのランクもアップしましたし、半分では、私の方が得をしてしまいますから・・・。」
俺はそれを了承し、これからは、マイヤーと狩りに行く場合は3:7とすることにした。
・・・・・・・
「セイヤさん、お願いがあるのですが・・・。王宮の宝物庫へ案内してくれないでしょうか?」
「なにか、必要なものでもあるのか。そうだ、防御下着はどうだ?指輪の『守』よりも激しい攻撃にも耐えれるものだ。」
「へえ、いいですね。まあ、それよりも日本に持ち込めない武器を沢山持ってきてしまったんです。こちらに置いていきたいのですが、宝物庫が一番安全でしょうか?」
「ああ、宝物庫ならば開けるのにわしの許可が必要だから、簡単には開けられない。」
セイヤとマイヤーに宝物庫に連れていってもらった。マイヤーはこの宝物庫の管理責任者でもあるのだという。
セイヤに見せてもらった防御下着は、・・・・・・ひもパン?辛うじて、股間は隠せるもののあとは、タダの紐にしか見えない。まあ、誰に見せるわけでもないから、別にかまわないのだが・・・。
「ちなみに、指輪の『洗』で身に付けたままで洗うことも可能だぞ。」
「ああああ、私が魔法で洗って差し上げようと思っていたのに・・・。」
俺がコレを穿いて、マイヤーの前に立つのか?いやいやいや、それはないだろう。セイヤに教えてもらってよかった。知らなかったら、理由を付けて洗われていたかもしれない。
宝物庫には別荘から持ち出した武器をライフルを除いて、すべて収納した。さすがに拳銃を持ち歩いたり、機関銃やロケットランチャーを使う機会はないだろう。ライフルと弾薬だけは念のため、本人しか扱えない袋に入れて持ち歩くつもりだ。
・・・・・・・
セイヤに社長室に送還してもらった後、まずしたことはマイヤーの服を買いにいくことだ。いつまでも、ミスドーナツの制服を着せておくわけにもいかない。
事前にネットで調べたところ、遅くまで開いているところは、高級ホテルのブランドショップくらいだった。そのホテルのスイートルームに部屋を取りチェックイン後、そのブランドショップに行く。
さすがに教育が徹底されている。ミスドーナッツの制服だろうが、耳が多少尖っていようが全く顔に出ない。淡々とマイヤーに似合いそうな服を揃えてくれる。もちろん下着もだ。髪の毛も軽くセットしてくれた。いったい、どこのお嬢様かと思う出来だった。
そのまま、事前に予約してあった。ホテルの53階にあるラウンジにつれていく。
「すごい眺めですね。」
「ああ、マイヤーの連れて行ってくれた空の上よりは、落ち着いて過ごせるだろ。」
「あれは、お気に召しませんでしたか?」
「うん、実は怖かった。でも、ワクワクもした。」
「あら、あなた・・・。かわいいお嬢さんとごいっしょね。紹介してくださる?」
変なところで出会うな。そういえば、昔出合った頃、こいつと此処にきたことがあったな。きっとこいつの社交範囲なんだな。ここは。
「お前、男は放っておいても大丈夫なのか?」
「ええ。この人は、器が広いのよ。あなたと違ってね。」
「マイヤーだ。俺の新しい恋人だ。将来、アキエの母親にしてもいいと思っているし、もう既に懐いているぞ。」
俺はすこし見得を張りながら答える。隣でマイヤーが赤くなっている。勝手に恋人だなんて・・・まずかったかな。
「ほう、アキエのことは知っているのね。器の広いお嬢さんだこと。あなたには勿体無いわよ。」
「マイヤー、これがアキエの母親だ。」
俺がそう言った瞬間、マイヤーの目が鋭くなる。
「まいったわね。全て知っているのね。相変わらずね。あなたは・・・。」
「お前の方こそ、大丈夫か?お前の前の男、コレもんと付き合いがあったらしいぞ。早く高飛びでもしたほうがいいんじゃないか?その器の広い男にお願いでもして・・・。」
指で頬を切る真似をすると、サッと鈴江の顔がうっすらと青くなった。こいつ、結構修羅場を潜っているのかもしれないな。それよりも隣で余裕を見せていた男の顔色のほうが真っ青だ。
そりゃそうだろう。どんな人間だろうが暴力団の知り合いの女だったなんて聞かされたら・・・青くなるしかない。
「なによ。また、邪魔をするつもり?あんなの怖くないわよ。じゃあね。お邪魔さま。」
なんだろう、この余裕は・・・。何か見落としているのか。
・・・・・・・
あいつが居なくなっても、その場の雰囲気は悪くなったままだ。
先ほどまでのキラキラした風景が、色あせて見える。仕方が無いので、部屋に戻った。
さあ、部屋に戻ったら・・・。