第5章-第45話 ふぉろーおねがい
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そのときだった。
車の中に居るはずの渚佑子が消えて、また現れた反応が指輪から返ってきた。
『転移』魔法を使ったらしい。
あの任務に忠実な渚佑子は途中でエスケープするような人間じゃない。何かがあったらしい。空間範囲を100キロ四方に広げて、場所を追ってみると居た。あのモデルルームに移動している。
やはり、渚佑子を対象とする『召喚』魔法を打ち消して移動したようだ。
「どうした。何故やらんのじゃ?」
お義父さんが鬱陶しい。今ソレどころじゃないんですけど。
「ちょっと待ってください。今考えているところですから。」
適当なことをお義父さんに言って意識が一瞬、渚佑子から離れた。
再び指輪から渚佑子の気配が消えた反応が返ってきた。
ま、まずい。
反転の魔法陣が上手く機能しなかったのか。とにかく現場に急行しなきゃ。
「お義父さん。すみませんが後のフォローをお願いします。あとそれから土日を挟んで2日ほど休暇を頂きます。」
俺はそう言い捨てると目の前の核シェルターの分厚いドアを自空間に取り込んで『移動』魔法でモデルルームに移動した。あれだけ、だだをこねたんだから、お義父さんがフォローくらいやってくれるだろう。
念のため、さつきにはSNSで連絡を入れておく。2日くらいは持ちこたえられるよな。
*
モデルルームの扉は開けっ放しだった。
中には・・・人が居た。
「すみません。お待たせいたしました。今、女性が此処に居たはずなんですが、皆さん理由をご存知ですよね。」
ついつい怒りがこみ上げてきそうになったが、出来るだけ穏やかな口調で質問する。
全くどいつもこいつも、人の迷惑を省みずに召喚なんぞしやがって。
指輪の『鑑』で確認すると意外にも目の前の人たちの中に『勇者』が居た。
「す、すみません。『召喚』の術式に魔力を投入したら、この場所に出て来ました。ここは、何処なんでしょうか?」
ひとりの女性が前に進み出てきた。黒髪黒眼の若い女性だ。ただ顔の作りは若干日本人とは異なっており、つり目のようなアイラインが特徴的な女性だ。何か意味があるのだろうか。
しかも『聖霊の滴』という称号持ちだ。称号持ちは異世界転移者である『勇者』たちのスキルと同等以上の能力持つから厄介だ。
『聖女』であるマイヤーも神に呼びかけて、回答を貰うことができるらしい。あまり役に立たないらしいけど。
渚佑子が居ない今、こんなのと戦って勝てるだろうか。
彼らが此処に居るということは反転の魔法陣が上手く機能しなかったわけじゃないらしい。
「ここは・・・、日本と言われる島国で、あなた方の世界から見て異世界にあたります。」
周囲に居た2人の『勇者』たちからはホッとした気配が漂ってくる。
安心するのはまだ早いと思うんだけど。なにせこのレベルの平行世界はたくさんあるんだから、彼らが来た日本とこの日本が全く同じという保証はどこにもない。
「それで、あなた方が使ったという『召喚』の術式というものを詳しく聞かせてもらえないだろうか。」
渚佑子がどうなったか早く聞きたかったが心を押さえて質問する。こういうときはズバリ質問するのがいいだろう。
「はい。『召喚』の術式は3人の『勇者』を勇者召喚する機能と1人の人物を特定して召喚する機能があり、今回は『大賢者』という人物を召喚しました。国の危機を救ってくださる方を召喚したかったのですが、万が一失敗しても、その後に発生する『送還』の扉で前回来て頂いた『勇者』たちを送り返すつもりだったのです。」
「なにっ。もしかして『召喚』と『送還』がワンセットになっているのか?」
「そうです。そして、私たちの前に現れた女性は、目の前でかき消えました。いったいどうなっているのかさっぱりわかりません。」
そうか!
『召喚』の術式に反応した反転の魔法陣はこのモデルルームに『送還』ならぬ『召喚』の扉を作ってしまったんだな。そして、うっかり渚佑子がその扉に触れて、彼らの世界に召喚されてしまったのか。
とにかく、反転の魔法陣を巻き戻して・・・いや待てよ。巻き戻したら、『召喚』がなくなったことになり彼らは元の世界に戻る。ここまではいい。『送還』の扉も無くなる。
けどこの『送還』は、反転の魔法陣の範囲外だ。渚佑子が戻ってくるとは限らない。いや多分戻って来ないだろう。
ならば、俺が『境渡り』魔法で追っかけるか?
無理だ。俺が知っている世界しか渡れないと思う。
通常の召喚ならしばらくは召喚の痕跡が残っているから、調べればどの世界に渡ったかわかるはずだが、今回は魔法陣を調べるほか無い。だが何時間もかけて調べている間に渚佑子が危機に陥っていたら、どうする?
実際に彼らの世界の国は危機状態にあるらしい。
よし。『召喚』の扉へ飛び込むのが一番だな。向こうの世界がどんな風になっていても、最悪『境渡り』魔法で戻ってくればいいな。
「女性・・・渚佑子はどの辺りで消えたか教えてくれるか?」
「そんなことより、どうなっているか教えてくれ。」
1人の『勇者』が痺れを切らしたように口を挟んでくる。
「そんなことだと! 君たちは安全な日本に居るんだから、ここでしばらく生活できるだろう? だが、異世界に渡った渚佑子はどんな危機に陥っているかわからないんだぞ! どちらが優先順位が高いか一目瞭然だ。サッサと答えろ。」
渚佑子さんを召喚したのはこの小説の主人公フラウです。
「バージン悪役令嬢の初体験」
http://ncode.syosetu.com/n8187dx/
少しの間だけ小説がクロスリンクします。
両方の主人公の視点で同時進行していきます。
よろしくお願いします。