第5章-第42話 ゆうかいとせっとう
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「今度は、どうしたと言うんだね。」
CM俳優陣との契約延長も決まり、ようやく撮影が始まった。
だが撮影が進まないという話を聞いて、急遽現場に飛んできたのだ。
「猫のお母さんがちっとも言うことを聞いてくれません。」
「それは所属事務所の付き添いの仕事だろう。そんなことで呼び出したのか?」
「あの・・・その、すみません。以前、現場で猫のお母さんが拗ねたときに副社長が説得したと聞いたものですから・・・。」
「説得って、頭を撫でてあげただけだろう。」
実は違う。本人から指環の『翻』で話を聞くと前日に違う猫からノミをうつされたらしい。そこで猫に『洗浄』魔法を使って、ノミを追い出して、ノミに食われた頭を掻いてあげた。
そのときはプロにあるまじき失態と本人が謝っていたんだが、今度はどうしたんだろう。
「まあいい。それで猫のお母さんは何処に居るんだ? お気に入りだったソファには居ないみたいだが・・・。」
頭を撫でてあげたときに使っていたソファは、それ以来この現場には無くてはならなくなった。彼女が気に入って使ってくれたらしい。
「はあ。それがソファを嫌がりまして。あちらのゲージの中に入ってます。」
俺はゲージに近付いていく。
あ、あれは・・・。
「おい。貴様っ。猫のお母さんこと『チョン』は何処だ。」
ゲージの傍に居た所属事務所の人間に問い質す。
「何を言っているんですか。目の前に居るでしょ。」
「これは違う猫だ。俺に『チョン』を見分けられないと思っているのか?」
「『チョン』『チョン』ほら、返事をするでしょ。」
所属事務所の人間がゲージの中の猫に呼びかけると猫はうるさそうに『にゃあ』と鳴いた。
だがゲージの中の猫を指環の『鑑』で見ると名前が『ちょん子』になっていた。
普段から『ちょん』と呼ばれているのだろう。返事くらい返す。だが違う猫は違う猫だ。
俺はゲージの中に手を差し込み頭を撫でる。よし取れた。
「あくまで同じ猫だと言い張るつもりなら、こちらにも考えがある。この毛とあっちのソファに付いている毛をDNA鑑定してもらう。そう所属事務所の社長に伝えろ。違約金と損害賠償を払ってもらうからな。早くしろ!」
呆然とする男を叱りつけるとようやくスマホで電話を掛け出した。
*
数日後、話し合いの場を持つことになった。
既にDNA鑑定の結果は出ており最終通告は出してある。
「さて、それでも『チョン』を出演させられない理由を教えてもらおうか?」
「盗まれたんだ。」
「本当か? 何故直ぐに報告しない。重大な契約違反だぞ。」
「本当だ。『チョン』は我が家に住んでいるんだが、泥棒に入られて盗まれてしまったんだ。」
「『チョン』真っ白な猫だが、雑種と言ってなかったか? 他に被害は?」
「それが不思議なことに何も取られていない。無造作に現金も引き出しに入れてあったんだが、取られていなかった。」
「そうすると何か。見知らぬ泥棒が価値があるかどうかも分からない猫だけを盗んでいったというのか?」
「そうなんだ。被害額も書けないような猫じゃあ、被害届も出せなくて途方にくれていたんだ。」
「わかった。とにかく、被害額は違約金の額で被害届を出せ。『チョン』が居ないことで被害を受けているんだから、警察も納得するだろう。」
所属事務所社長に同行して、被害届を出してもらった。
そして大々的に『チョン』が誘拐されたことを記者会見で発表してもらう。
彼は元俳優らしく涙ながらに返して欲しいと切々と訴えた。
猫のお母さんには固定ファンまで居るらしく大きな反響があった。
しかもCMで競演していた女優たちが涙ながらにテレビカメラに向かって訴える姿が映し出されると今まで興味が無かった視聴者からも大反響があり、中には日本最大手携帯電話会社であるドッコデモの陰謀という説まで流れ出した。
当然、それらはドッコデモからZiphoneへMNP契約変更件数へ直撃した。記者会見からわずか1週間で前年度の契約件数を上回ったのだ。
慌てたのはドッコデモだった。急遽記者会見を開くが火に油を注ぐ結果となってしまった。翌週の契約件数はさらに倍となってしまったからだ。
それ以降も情報が錯綜している。
あるテレビ局のカメラが捉えた映像では、ドッコデモの会長宅に居る猫の様子が映し出されたりして、映し出された猫連れでドッコデモの会長が記者会見を開いたりしている。
その猫のお腹には黒い線が入っており、明らかに違うと証明されたが違う猫を連れてきたという憶測まで飛び交っている。
「そろそろ、止めてやってくれないか。余り放置しておくと反動が恐いんじゃ。」
お義父さんから突然、呼び出されたと思ったら、そんなことを言い出した。
「勇者召喚に巻き込まれた悪役令嬢」
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コスプレ・スマホ・漫画家・アニメ・ゲーム・デフォルト名・イージーモード。
異世界の言葉に翻弄されながらも自分の正体がバレないように必死に頑張る女の子の物語です。
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