第4章ー第40話 ここからがほんばんこうしょう
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「遺体1体に付き1万G。損害賠償額1億Gだと。」
「安いものだろう。ダンジロウ侯爵殿の個人資産の1割程度と聞いている。払えない金額じゃ無いだろう?」
交渉を早く終わらせるつもりでパリスさんから、今ダンジロウ侯爵がすぐに動かせるであろう金額を聞いてある。本当を言えば何十年も掛かって払えるような金額を請求すべきだが、チバラギ国の被害額が少なすぎる。
それにエルフの里とドラゴン国からの請求額のほうが国家財政を直撃するだろうから、遠慮がちな請求内容にしたのだ。
「くそ雌狐め。」
パリスさんには走り回ってもらい。翌朝の交渉に取り付けた。礼儀がなっていないな。
「警告しておくが、そちらに払わないという選択肢は無い。既にこれだけの国民の皆さんが集まって頂いているんだ。彼らの目の前で、3000体取り出した遺体を損壊させることもできる。キレイな状態の遺体を受け取りたいだろう? それに戦場では進軍が開始されているようだから交渉が長引くほど遺体の数は増え続けることになる。」
これだけの国民の前でそんなことをすれば、首相退任だけでことは済むはずがない。責任追求されて当主の座から引きずり降ろされるだけでなく、侯爵家自体責任を取らされることになる可能性さえある。
まあ俺は悪魔扱いされるだろうが、他の国民に悪魔扱いされても痛くも痒くも無い。逆に抑止力になっていいかもしれない。
「何っ。まさか、遺体を持ってきているというのか?」
ギョッとした顔をされてしまった。思ってもいなかったのだろう。
「ああ言ってなかったが、俺は空間魔術師で3000体の遺体は自空間に取り込み済みだ。なんなら1体取り出してみせようか?」
「えっ。初代チバラギ国王と同じ? や、止めてくれ。わ、わかった。そちらの言う額で手打ちとしよう。枢機卿の上位の指揮官を派遣したいのだが、連れて行って貰えるだろうか?」
こちらでも初代チバラギ国王の名前は鳴り響いているようだ。いったいどれだけ辛辣なことをやったんだか。
相手の痛そうな腹を探るのは得意みたいだったからなあ。
「彼女がこちら側の『勇者』の渚佑子だ。『転移』魔法が使える。彼女に対して下手な交渉はしないほうがいい。俺より数十倍冷酷な人間だからな。渚佑子頼んだぞ。」
「はい。辺境伯。後で話があります。」
うわっヤベ。ちょっと言い過ぎたかな。
そのまま、ダンジロウ侯爵と冒険者ギルドまで同行し、ギルド経由でチバラギ国へ損害賠償額の振り込みを確認した。間違い無いようだ。
そして首相付けの騎士団まで同行し、遺体を並べていく。
「わ、わしはどうなるんだ。」
3000体もの遺体を目の前にしてやっと現実がわかってきたらしく。怯え始めた枢機卿だった。
「別に何も。身代金もいらなければ、何の要求もしません。ダンジロウ侯爵に引き渡すだけです。貴方は俺にとっては1Gの価値もありませんから。」
下手に危害を加えてカルト教団の憎悪を引き出しても仕方が無い。
逆にダンジロウ侯爵は責任を追求せざるを得ない立場である。当然何らかの処罰を加えざるを得ない、そうなれば、教団の憎悪がそちらに向かうことになり都合がいいのだ。
「なんだと。1Gの価値も無いだと。」
まあイヤミくらいは言わせてもらうけど。俺の真意がわかったのか。ダンジロウ侯爵は苦々しい顔をしているようだがな。
「処罰は教団のほうで待っているでしょうから。下手に手出しをするよりも、貴方に取っては恐怖なんじゃないですかね。まあ俺とは一切関係がなくなりましたので勝手にやってください。ではお達者で。」
枢機卿はその場で崩れさった。まあ貴方が全ての責任を取らされることは仕方が無い。わかっていたことでしょう?
「待ってくれ。昼食でも如何かね。」
「すみません。何分、後処理に追われている身でして、チバラギ国にいらっしゃるようでしたら、歓待しましょう。エルフの里やドラゴン国への言付けも条件によっては受けられると思いますので、両国の将来のために一肌も二肌も脱ぐ用意はありますので遠慮なく、お訪ね頂きたいものです。」
「そうか。それは残念だ。」
「では、ごきげんよう。」
パリスさんを連れて、パリスさんの屋敷に戻る。
後処理とはパリスさんとの昼食会だ。
いままでの交渉なんて前哨戦だ。今からが本番だ。
数々のお願い事を素直に聞いてくれた代わりに何をお願いされるのだろう。
ハリスさんのことに関しては恩を売ったつもりだが、交渉の材料にもならないかもしれない。
ここからの交渉内容はトムの口からは一生語られることは無かったという。
さてこの2人にいったいなにがあったのか・・・(笑)




