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第5章-第32話 こうかい

お読み頂きましてありがとうございます。



 奴らが死んでもいいと思った。殺すつもりは無かったという言い訳のために腕や足を狙った。


 でも本当は逆襲されないためにも殺す必要があった。青木樹海の中で動けない状況にすれば、勝手に死んでくれるだろうという期待もあったのは確かだ。


 奴は死んだ。仲間の組員の手で。だが、俺が殺したも同然だ。いくら言い訳しようとも、それは誰にも覆せない。


 他の組員は死ななかった。でも死んで欲しかった。だから青木樹海の奥に追いやった。別荘も破壊した。

 生き残ったら、逆に殺されるかもしれない。でも生き残ってほしいとも思う。偽善的だが、そういう思いもたしかにあるのだからしかたがない。


「どうしたのか、大丈夫かの。」


 セイヤが気遣う表情で近寄ってくる。


「パパ、どうしたの?」


 アキエが真っ先に抱きついてくる。おもわず、膝をついて抱きすくめてしまう。涙がこぼれそうだ。


「パパ・・・パパ・・・どうしたの?大丈夫?」


「トム、なにがあったんだ?」


 俺はそのまま、アキエを抱っこして寝室に向かう。とにかく、日本の状況が知りたい。ノートPCでニュースサイトを調べる。流石にまだ、なにも情報はでていないようだ。


 エトランジュ様にアキエをお願いし、リビングに向かう。


 そして、日本で誘拐されたことヘリを撃ち落としたこと、奴が死んだこと別荘を爆破したことをポツリポツリとセイヤに言った。たぶん、何も伝わっていないだろうが、自分の中で整理するために話していった。


「では、トムはあちらに帰ったら危ないのではないかの?」


「さあ、状況によりけりだろうと思う。」


「このまま、この世界に居るか、わしは別にそれでもかまわないぞ。」


 それも、選択肢の一つなのは解っている。命を最優先に考えるのならば、絶対そうするべきだろう。しかし、日本の会社のこともある。すべて放り出すことはできない。俺がそういうとセイヤがこう言ってくれた。


「マイヤーを日本へ連れて行け。どんな相手だろうが、彼女に敵うものはいない。もちろん、相手を殺すことも躊躇わないだろう。トムを守るためならば・・・。」


「はい、連れて行ってください。きっと、お役に立てます。」


 相手は巨大な組織だ。あの場に居たのが俺だとわかったら、全力で殺しにくるだろう。そうだ。これだけはセイヤに聞いておく必要がある。


「俺を送還する場所を前回に送還した場所にすることは、できるか?」


「ああ、全く問題はない。」


 よかった。青木樹海の別荘の近くにしか戻れないのでは、いろいろと面倒だからな。


 既に前回から自社ビルの社長室にある仮眠室に召喚元を変えているから、そこなら突然行っても大丈夫だろう。


「マイヤーとりあえず、クララにいつものメッツバーガーの袋を、ツトムにも袋を渡してきてくれないか。流石に今日は、ここを離れられないし、離れたくもない。ましてや商売などできるはずもない。今日はゆっくりとアキエの相手をして過ごすよ。」


・・・・・・・


 しばらくはネットで情報を探しながら、アキエとドーナツを食べたりして過ごした。


 昼過ぎにようやく、青木樹海の山火事がニュースになっていた。随分広い範囲が燃えている。近くには民家は無いため、ほとんど問題はないが、自衛隊がヘリで消火活動を行っているらしい。


 それからしばらく経って警察庁から田畑洋治に逃亡の恐れがあり、指名手配したと発表があった。しかも暴力団との関係も匂わせる内容だったため、一大ニュースになっていた。


 週明けの株式市場はとんでもないことになるだろう。


 まあ、そんなことよりも大事なのはあの組員たちの行方だ。火災の広がりの方向は、ちょうど奴らの逃げた方向なのだ。もしかすると消化剤を撒く自衛隊のヘリに救助されてしまうかもしれない。反対に火事に巻かれて死んでいるかもしれない。


 夕方まで、ネットで状況を確認していたが昨夜一睡もできなかったのが尾を引いたのかいつのまにか眠ってしまったようだ。


 翌日、火事が鎮火するとともに組員達の死体がいくつも見つかった。煙に巻かれて一酸化中毒で死んだらしく遺体はほとんど焼けていなかったという。


 生存者が居るという報道はなかったから、皆死んだんだろう。そのニュースを見て、ホッとしている自分に愕然とする。


 死体からは弾傷も見つかり、暴力団同士の抗争という見方が大勢のようで、田畑洋治と繋げての報道はしていない。


 まだ、洋治の死体は見つからないようだし、燃えた別荘が洋治が建てたものという報道はされていない。きっと、資金だけ出して建てたのは組の関係者なのだろう。このまま、洋治の死体だけ見つからなければと思わず祈らずには居れなかった。


 そのとき、スマホのスカイペが鳴り出した。異世界に居るときは、スカイペしか繋がらないと言ってある。でも、昼間から後宮に居ることはほとんど無いから、繋がった試しはないらしい。Wifiの届く範囲をもっと広げるつもりなのだが、さすがに専門家ではないので、どうしたらいいかわからない。


 試しにネットで質問しようかとも思っている。専門家には冗談のような話でも、ネットの質問箱ではマトモに答えてくれる人がいるのだから面白い。


「はい。ああ、変わってくれ。」


 相馬くんだった。警察が話を聞きたいと自社ビルのほうへやって来ているようだ。


「はい、そうですね。そこまで解かってて、なぜ。ええ、偶々助かりました。今ですか、出来れば言いたくないのですが・・・、ええ、絶対安全なところです。では、明日朝10時でいかがでしょう?はい、では失礼します。・・・ん、明日は出社する。ああ、お休み。」


 警察では、もう洋治と暴力団。そして俺が連れ去られたことまで掴んでいた。俺は途中で隙をみて逃げ出したことにした上で、隠れていることを伝えた。流石に異世界に居るとは言えないので場所は誤魔化した。


 まあ、警察のことだから、IPアドレスを辿って100円ショップのネット回線まで到達しているかもしれないが、それ以上は無理だろう。


 ちなみに、社長室は勝手に出入りするからと別室にしてありセ○ムも別だ。流石に今は自宅に戻る気にもなれない。一晩や二晩は過ごせるように着替え等もおいてあるので、帰ったらネットで状況を確認しつつ、マイヤーといっしょにどこかのホテルで過ごすことにしよう。


 まだ帰るまでの時間はたっぷりあるが、こんな気分では、にこやかに商売はできそうにない。なにか、気晴らしになることをマイヤーに聞いてみた。


気晴らしといいつつも・・・。

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