第4章-第36話 めをかがやかした
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「渚佑子。枢機卿をこの手錠で拘束してきてくれ。」
『勇者』2人が使った『転移』魔法は距離が短かったため、ブルードラゴンの威圧の範囲内に居ることは空間魔法で掌握済みだ。後は指環を『目』に変えて彼らを見ると地べたに這いずって泳ぐようにして逃げようとしているところだった。
俺は首輪付きの手錠を『移動』魔法で送り込み、『遠隔操作』魔法で拘束することを完了する。
渚佑子は投げ渡した手錠を持ち、その足で歩いて移動し易々と手錠を掛けている。この威圧を解除できる魔法を使っているようだ。チートすぎる。
俺は『勇者』のところまで『移動』魔法で行き、王宮の宝物庫にあった隷属の首輪を彼らに嵌めて本当の意味で拘束を完了した。
「次期族長、すみませんがあの重騎士たちから装備を剥いでそれを軍資金に狼王国の再建を手伝ってやって頂けないでしょうか。よろしくお願いします。」
あれだけの数の装備の剥ぎ取りや弔いをこちらから人間を送り込んでやっていたら、行き掛けの駄賃とばかりに欲しがる奴が出てこないとも限らないからな。まあ、あれだけあれば再建資金の足しにはなるだろう。
その点、エルフの里の次期族長なら信用に足る人物だから、きっとエルフの里から持ち出しても、狼王国の再建に取り組んでくれるに違いない。
「さあ、行こうか。」
*
「まさか。もう終わったんですか?」
俺がアヤに捕虜を引き渡すとそう呟いていた。
「うん。もっと手ごわいと思ったんだがね。ブルードラゴンが手伝ってくれたんで早く終わった。」
「なあ、兄ちゃんも『勇者』なんだよね。いろいろチート過ぎるよ。」
こちらの男も気安く話しかけてくる。だが死んだ『勇者』よりはマシだ。
「違うぞ。俺はこの世界の人間で異世界召喚や送還を使えるんだ。だから、アメリカ製のミサイルや機関銃を持ち込んできただけだ。」
「でも、オリハルコン製の空飛ぶ戦車をぶち抜いたのは、どうやったんだ。普通の弾丸じゃあ無理だよね。」
「あれはこちらからオリハルコンのインゴットを日本の金属メーカーに持ち込んで再現して貰い大量生産して貰っているんだ。それをさらに日本の技術力で鍛え抜いて弾頭に仕上げたものを弾薬メーカーに持ち込んだだけなんだ。」
「日本の技術力の勝利か。それはどうやっても負けるよね。だってよ枢機卿。絶対に勝てないよ。」
日本の技術力を過信している世代なのか。俺の説明であっさりと白旗をあげる。
「お前たち、何を言っているかさっぱりわからんぞ。」
まあそうだろうな。枢機卿に簡単に分かって貰っても困る。
「そうだなあ。アルメリア国のドワーフに作って貰ったと言っていたよな。あの空飛ぶ戦車。」
「もちろんだとも、あれでアルメリア国の国家予算の3年分をつぎ込んだんだぞ。帰ったら絶対に文句を言って返金させるぞ。あんな不良品を掴ませやがって。」
「まあ聞いてよ。例えば、ドワーフの隠れ里のドワーフに武器を作らせたら、どうなると思う? 簡単に壊れそうだよね。あの戦車。そんな存在が異世界の日本には居るんだ。」
なるほど、わかり易い説明だ。
「ドワーフの隠れ里なんかあるのか?」
聞くほうがバカじゃあ、わかり易くてもどうしようもないか。
「たとえ話だって言ったよね僕。チートなスキルが異世界転生者に簡単に手に入る国だよ。あると思わないか?」
彼も無いと分かって言っているのだろうがそこまで例え話が出来るなんてかなり頭が良い証拠だ。
「この人はその国とこちらの国を行き来できる。そうだよね。ええっと山田さんだっけ。日本名もあるんだよね。」
「ああ、向こうでは自分の会社を社長と携帯電話会社の副社長を兼任している。」
「へえ。いいなあ。スマートフォン。こちらの世界でもあれば、一攫千金が目論めたんだけど、いかんせん僕らの記憶力じゃ向こうの学校で習った算数くらいでこちらの世界でお金の計算に誤魔化されなかったくらいしか役に立たなかったからな。」
「あるぞ。スマートフォン。この辺りならWifiで繋がるからネットにもつなぎ放題だ。もちろんネットワークは向こうの世界に通じている。流石に課金アプリまでは使わせてあげられないが。」
そう言って、『勇者』2人にスマートフォンを手渡す。
「えっええええええええええええええええええっ。やっぱりチートだよ。その能力。そうか、チバラギ国に生まれていればこんな苦労をしなかったわけか。はあ。」
「それだけじゃないぞ。そちらの建物の中には、ファーストフード店も入っている。牛丼のスキスキやミスドーナッツ、メッツバーガーだ。好きなものを頼んでもいいぞ。」
俺は彼らをその建物の中に連れて行く。
「うっそぉー。本当にあるのぉ。私、ドーナッツとチーズバーガーを頂くわ。」
今まで黙り込んでいた『勇者』の彼女が目を輝かす。
「僕は牛丼だ。ご飯なんてこちらの世界で生まれて初めてだよ。」
「私はあるけど、パサパサして美味しくなかった。ねえねえ、お兄さん。ここのお米は向こうの世界のもの?」
「ああ今はそうだな。だが将来的には向こう世界の稲とこちらの世界の稲を掛け合わせたものを作っていくつもりだ。このあたりの土地は稲作に向いているようなんでね。」




