第4章-第35話 きゅうだん
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「アルメリア教団ゲロ・トウフロスキー枢機卿である。我が軍は無敵である。無条件で降伏致せば国民の命まで取らぬ。」
「おいおい、オッサン。相手方にエルフと『勇者』が居るなんて聞いてないぜ。」
隣に居た『勇者』の1人が口を挟む。
「どうせ脅して連れてきておるのじゃろう。怯むことないわ。」
「おいおい。脅して俺たちを無理やり連れてきたのはオッサンだろ。どうみても、そのエルフ、目がハートマークしてるぜ。リア充は嫌いだが、正当性が無いのは俺たちだぜ。」
「うるさいわ。お前たちは黙って従えばいいんだ。」
いきなり身内で喧嘩が始まった。ボケとツッコミが機能しているということは、いつもしているのかもしれない。油断を誘うつもりかもしれない。
「ほう『勇者』を脅すとは流石にアルメリア神の声が聞こえない教団のことはある。」
「そうよ。アルメリア神は嘆いているわ。」
マイヤーが追い討ちをかける。
「なにをほざくか。この魔族の末裔がっ。」
下らない。犯罪者の子供は犯罪者だと言っているようなもの。前回出現した魔王はドラゴンだったのだ。その魔王に従わなかった魔族も多かったと聞く。
「それしか無いのか。アルメリア教団の正当性は。この混血が進んだ世の中にいったいどれだけ魔族の血が混じっていない人間が居ると思っているんだか。まあいい。その言葉で魔王を輩出したドラゴン国を敵に回したことだけは確かなようだ。」
「そうだ。黙って聞いていれば、ふざけたことを。何か魔王を輩出したドラゴン国の国民は魔王の民だと言いたいのかね。そういう理屈を言っているのだ君たちの教団は。」
今度は神明アキラことブルードラゴンが口を挟む。
「ち、ちがう。」
「違わないぞ。既にそちらにいる『勇者』に我が眷族を攻撃させているのだ。十分に敵に回しているのだということを忘れないで貰いたい。」
「うるさい。うるさい。うるさい。我が教団の正当性は永遠に変わらない。それにこの空飛ぶ戦車さえあれば、占領できない国など無いのだ。やってしまえ、お前たち。」
枢機卿は突然、キレると隣に浮いていた乗り物の中に入った。どうやら、戦闘に入るらしい。こんなキレやすい指揮官でいいのか?
このまま、先制攻撃されるのを待つつもりは無い。ここは日本でも自衛隊でも無いのだから、命を惜しいと思えば先制攻撃も辞さない。
思った通りこの四角い箱状の物体は向こうの新兵器のようだ。
「ヘエヘエ、オッサンは人使いが荒いんだから。この箱はただの箱じゃねえぞ。オリハルコン製だ。そちらのドラゴンが踏んでもつぶれない。」
よほど自信があるのか単なるバカなのかこちらの疑問に何も言わずに答えてくれる。きっと考えたのは彼で自慢したいのだろう。
「まずは俺からいかせて貰おう。」
俺は以前、アメリカ大統領機を襲った戦闘機が飛ばしてきたミサイルを重騎士兵のど真ん中に2発、自空間から取り出す。あれだけ密集していれば10キロ爆弾クラスの威力で十分に違いない。俺はミサイルを見送ると機関銃を取り出す。
「おいおい。ミサイルの次は、機関銃かよ。どうなっているんだ。やってられるかこんなの俺は1抜けた。「2抜けた「3抜けた」」」
やる気を無くした勇者たちと箱に向けて、機関銃をぶっ放す。
「うわぁぁ。」
『転移』魔法で逃げようとした彼らの魔法を渚佑子が『魔法キャンセル』スキルでキャンセルを試みる。
最後の1人の魔法がキャンセルされたようで機関銃の銃弾から逃げ遅れ穴だらけで絶命したようだ。
さらに空飛ぶ戦車に向けて銃弾をバラまく。当然、こちらも弾頭はオリハルコン製だ。しかも日本の技術力で徹底的に鍛え上げられたものでこちらのドワーフ製のオリハルコンのインゴットをぶち抜けることは確認済みだ。
当然、空飛ぶ戦車の装甲は穴だらけになり、空飛ぶ機能が失われたのだろう。失速して落ちていく。目の端に枢機卿が映るが放っておく。きっと何もできずに終わるはずだ。
さらに落ちる地点を予測して、周囲の土地の100メートル四方を自空間に取り込む。
それを見たブルードラゴンが元の大きさに戻り、空飛ぶ戦車を穴の中に突き落とす。ナイスコンビネーションだ。あれなら中に生きている人間が居ても気絶しているだろう。
俺はブルードラゴンが足を引き抜いたのを確認すると土砂を元の位置に戻す。その後、ブルードラゴンが踏み固めているのが笑えるが、この威圧感だけは勘弁してほしい。
敵も味方も関係無く地に伏してしまった。
「さてどうするかな。そちらの『勇者』たちを解放したら、見逃してやってもいいぞ。」
俺は地に伏したままの姿で言う。なんか、最後だけ絞まらないな。