第4章-第34話 こうしょうのてーぶる
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「なんだこれは。」
停戦交渉のテーブルは隣国にある大平原が指定されていたため、以前一度使用したことのある冒険者ギルドにある転移場所に到着する。
「酷い。」
前に一緒に来たマイヤーが呟いている。俺にとっては単なる通過点に過ぎなかったが彼女にとっては良く知っている国に違いない。
冒険者ギルドの建物は瓦礫の山と化していた。転移場所は使用されているのだろう。周囲が綺麗に片付けられていた。
建物があったと思しき場所から道無き道を進み大きい通りに出ると見渡す限り、瓦礫の山だった。
「ここには人族とも妖精族ともなじみ深い犬の王国があったのですが、どうやら滅ぼされてしまったようです。」
狼王国の次は犬王国か。怒りしか覚えないな。
とにかく許しておけない事態になってきているのは確かだ。これは何が何でもチバラギに入られる前に止めなくてはいけない。
「アルメリアの目的は何だ?」
「この土地でしょうね。今、アルメリアでは人口増加の割りに開拓が進まず貧困に喘いでいます。そこで人の土地を奪い取って利用しようというのでしょう。もう既に狼王国があったところにはアルメリアから開拓民が押し寄せてきているそうです。」
日本だけでは無いが、自給自足できるだけに数に人口を抑制しようという考えが足らない。日本中の土地で食料を作ったとしても1億の国民全てを養えない。約1割の1000万人が限界だと言われている。そして他人のものを奪うために結果として戦争に突入してしまう。
どこでもやっていることは同じということか。
そして宗教の名前を借り聖戦という名前の略奪行為が横行してしまう。
「ということは、相手も我が国やエルフの里、ドラゴン国と事を構えたくないのかもしれんな。」
「さあどうなんでしょう。確かに侵略の進みは遅かったですが、ここまで強引に進めてきたからには攻め落とせるだけの材料を持っているのかもしれません。とにかくエルフの里としても友好国に侵略された事実はありますし、ドラゴン国においても自国の国民を傷つけられているわけですから、気持ち的には敵だと認識しています。」
「そうだな。チバラギとしてもいつまでも狼王国の難民を引き受け続けることなどできないだろう。犬王国の方々には悪いが、最低限この土地を取り返して、狼王国を再建させる必要がある。そのためにも今回の交渉は大切だ。」
「ですが事前情報として相手方には異世界から転生した勇者が3名居るそうです。」
「それも分からない。彼らが転生してきた先が上位世界の日本だと考えるとあの戦争嫌いな現代日本人が率先して戦争に加わりたいとは思えないんだがな。」
「そこは強制されているようです。異世界から転生した勇者は教団の保護下に置かれて、援助という名前の借金を背負わされているようで、戦争が始まった途端、借金を返すか参加するかの2者択一を迫られたようですね。」
「そうでしょうね。私たちは悪の魔王討伐という世界の共通命題を背負わされた分、心理的にまだ余裕がありましたが、これが単なる侵略となれば心理的圧迫は計り知れないでしょう。」
それまで黙って話を聞いていた渚佑子が重い口を開いた。彼女は魔王討伐のために異世界召喚され紆余曲折を得て、目的を果たして現代日本に無事戻ってきた人間だ。
彼ら異世界転生しただけの日本人たちとは経験も違えば、責任の重さも違うことを経験してきているのだ。だからこそ、相手が3人の勇者と聞いても全く負ける気がしない。
「そうか。それならば戦争に突入しやすいな。」
「魔王が攻めてきた本当の真実は別のところにあったんですけどね。今までやってきたことは何だったのかとやりきれない気持ちで一杯になりました。それもあって、その世界に居たくなくて逃げ出してきたんです私は。」
その本当の理由を聞いた俺は、そのあまりの残酷さに聞いていて吐きそうになった。これだから、人間ってやつは・・・・。
*
交渉のテーブルは、大平原に置かれた大きなひとつの円卓テーブルだった。さえぎるものも何もなく。周囲には侵略軍と思しき重騎士が数千と巨大な箱のような物体が浮いていた。
既にブルードラゴンとエルフの里の次期族長が席に付いていた。
「チバラギ国王セイヤ・チバラギの従兄弟にあたるトム・ヤーマダ・チバラギだ。今回の交渉の全権大使と思ってもらえばいい。こちらに居るのが我が妻のマイヤー・ヤーマダ・チバラギでこちらに居る次期族長の妹にあたる。そして、アドバイザーとして大賢渚佑子を同行させてもらった。彼女は異世界召喚経験者で、そちらに居る『勇者』と同じの称号持ちだ。」
マイヤーに危害を加えれば、暗にエルフの里を敵に回すぞ。と脅し、こちらにも『勇者』が居ることで正当性を主張できないぞ。と遠まわしに言ったのだが、理解できただろうか。




