第3章-第30話 たじゅうとらっぷ
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「なにっ! 分かった。総員退避。後は任せておけ。監督と賢次さんはここで待機してください。」
「何があったのかね。」
「工作班が隣のビルの時限装置に解除に失敗したようです、あと5分で爆発します。規模から言ってこちらのビルに影響を及ぼすほどではありませんが王子の所まで行ってください。」
俺はそう言い残すと『移動』魔法で爆弾が設置してあるところまで行く。
「申し訳ありません。トラップに引っ掛かってしまったようです。」
工作班の担当者が待っていた。責任を感じているようで項垂れている。
「大丈夫だ。他の爆弾は全て解除できたんだろ。即座に爆発しなくて命が助かった分だけ良かった。俺の背中に回りこんで良く見ておくんだ。」
こういった同じ型の爆弾を処理する場合は、同時並行して進めるのが常道だ。もし1人がトラップに引っ掛かっても即座に方針変更できるからだ。
隊員を俺の後ろに回らせて、爆弾を覗き込む。この距離ならばミスリルでも無いかぎり俺をキズつけることはできないはずだ。
指環を『鑑』に回す。正面から見て下半分から、底に向かって爆薬が仕込まれている。
既に時限装置が開始されたということは、正規の手順は外している。ここから解除することは不可能に近い。
ならばどうするか。
答えは簡単だ。爆薬を減らしてしまえばいいのだ。そうすれば、爆発しても影響は最小限に抑えられる。
でも最近の爆弾には重量センサーも付けられており、何度かに分けて取ることはできないようになっている。爆薬の専門家で休暇中に爆弾を見つけチマチマと爆薬と小麦粉を入れ替えたツワモノもいるとMI6で聞いたが、そこまではしたくない。
空間魔法で爆薬部分だけ、自空間に取り込んでしまえばいいのだ。万が一のことを考え、取り出すときにさえ、広い空間で取り出せば問題ないはずだ。MI6の研究室に持ち込めばいいだろう。
信管を取り込まないように気をつけながら、およそ9割の爆薬を自空間に取り込んだ。
パン。
あっけないほど簡単に爆発するが破壊されたのは時限爆弾自体と壁の一部だけだ。自空間に取り込んだ際に一緒に取り込んだ壁のほうが大きいくらい。
「見たか? 重量センサーはやはり付いていたみたいだな。ん、どうした?」
「重量センサーが働き、爆発するまでが3秒ほどでしたが、時限装置は止まりませんでした。時限装置自体がトラップの可能性があります。」
「それじゃあ、他の爆弾も重量センサーはまだ生きている可能性があるということか。やっかいだな。他の爆弾を回収しないように連絡しろ。」
「イエッサー!」
程なくして重量センサーの解除にも成功したとの連絡が入った。もう少しで工作班に犠牲者が出てしまうところだった。
*
俺は入口から会場内に入る。
「監督。まだいらっしゃったんですか。安心してください。爆弾も全て回収しました。」
入口付近にはスギヤマ監督がカメラで撮影を続けていた。ジェミーも渚佑子も賢次さんも一緒だ。
「あれは何だ!」
「えっ。何のことです?」
「パッと目の前から消えたじゃないか。」
しまった。監督の目の前で『移動』魔法を使ってしまった。
周囲を見回すと皆呆れた表情だ。自分でも呆れるしかない。しかし緊急事態だったことには変わりはない。
「えっと、何のことですか。俺はその扉から飛び出していきましたよ。」
俺は入ってきた扉を指し示す。
とりあえずここは惚けるしかない。まあバレたからと言って支障があるわけじゃないけど、否定しておけば面倒なことにならない。そんなことを言い出す本人が疑われるのが普通だからだ。
「ほら、ここだ。この次のコマにはもう消えているじゃないか。」
カメラを再生モードで見せてくれる。確かに1秒間に60枚のコマ送りの途中で俺の姿が消えうせている。
「意地悪を言ってもいいですか? そのカメラってデジタルデータですよね。出て行ったシーンだけ削除してしまえば、今みたいに見えません?」
「あっ。……良く知ってるんだな。カメラのことを……そうだ。今はカメラの編集モードだけで加工が可能だ。わしとしたことが……役に立たんなデジタルじゃ、アナログだったら加工の痕跡を残さないのは難しいんだがな。」
「そういうことで、そのカメラのデジタルデータは証拠になりません。なりませんが……どうしても知りたいですか? 俺のこと。1度知ったら後戻りできませんよ。」
「知るためには何が必要なんだ。わしにできることならば、何でもするつもりだ。映画監督として、こんな不可思議な現象を見て、見なかった振りなんかできんのだ。」
「わかりました。そこまで仰るなら……。ジェミー。今回のことを報告がてら大統領にお会いしてくるよ。渚佑子は一緒に。賢次さんはケント王子のフォローをお願いします。それから、ブリリアントリリー賞が再開されるようなら連絡をしてくれ。」
俺は監督と渚佑子を連れて、ホワイトハウスに『移動』した。




