第3章-第29話 わがままなおうじ
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そのときだった。
遠くのほうで、『ドーン』と大きな爆発音が聞こえた。
「トム! 大変です。この会場に爆弾を仕掛けたとの情報が入りました。」
ジェミーが報告に駆け込んでくる。
おかしい。この会場に入る際に一通り『探索』魔法で武器、弾薬、爆弾等テロ活動で使われると脅威になりそうなものは調査し、警備担当が持つ武器以外は何もなかったはずなんだが・・・。
俺が会場入りしたあとに誰かが持ち込んだのか。警備担当がよほどの間抜けでないかぎりありえないのだが・・・。
「わかった。調べてみる。」
再び『探索』魔法で調査を試みる。やはり無い。MI6で情報を更新したのは数ヶ月前だぞ。そんな新型爆弾がテロ組織で開発されたなら、真っ先に使われるのはアメリカ軍か要人相手だろうに。
ケント王子狙いだろうか。
いや、それは無いな。ケント王子には悪いがケント王子を殺しても体制に全く影響が出ない。むしろ、英国国民やイギリス連邦の国民の反感を買うことでどんな組織でも活動しにくくなるはずだ。
「トム。探索範囲を広げてみてください。情報は会場内の人間を外部に釣りだす作戦かもしれません。」
なるほど。流石は長い期間、英国王室で警備担当を行なっていたジェミーだ。
あるわ。あるわ。周辺道路の車やビルの外壁、それに報道陣にまぎれて機関銃を持ち込んでいる人間までいる。
「ジェミー。よくやった。正面に居る報道陣の中に機関銃を持ち込んでいるぞ。それに爆弾は、ココとココとココだ。」
俺は机に広げた地図に印を付ける。
「ジェミーはアメリカ軍の特殊部隊へ連絡。渚佑子は、警備担当と主催者に掛け合い。誰もここから外に出さないように手配したあとここでケント王子を守っていてくれ。俺は準備が出来次第、正面の機関銃を使用不能にする。」
ジェミーと渚佑子が手配に走る。俺は自空間からSASの制服を取り出して装備していく。最後に帽子を被り、指環を『偽』に変えウィルソンに化ける。もちろん、例によって紐パンにはMPを投入済みだ。
「大川さん。彼はいったい・・・。」
しまった。スギヤマ監督の前だった。
「今の彼は英国アルドバラン公爵家のウィルソンという人物です。内緒でお願いします。」
「あ・・・ああ。もちろん、分かっているよ。私が何かを喋ったとしても次作映画の話だと思われるのがオチだからな。」
一応納得してくれたらしい。
「監督。そのカメラをお借りしてもよろしいでしょうか?」
監督はこういった場にもカメラを持ち込んでくるのは有名な話だ。もちろん、相手の了承を取ってのことなので、俺は一般人という理由で始めにお断りしている。
「現場を撮るのかね?」
察し良く返ってくる。
「そうですね。何かの資料にして貰ってもいいし、テレビ局に売り込んで貰っても構わないですよ。俺の顔さえ入ってなければね。」
そう言ってウインクしてみせる。こういった人物の場合、対テロ戦の実写映像はかなりの価値を持つものになるはずだ。黙っていてもらう報酬の意味合いもある。
「わしが直接撮りたいんだが・・・。」
「命の危険を冒してですか?」
まあ俺の身体にくっついていてもらえば安全なんだが、そこまで秘密を明かすのもなんだしなあ。
「僕がサポートするよ。」
俺が悩んでいると横から賢次さんが話に割り込んでくる。賢次さんなら、どこまでが安全な範囲なのか飲み込んでいるはずだ。
最近2人で行動することが多く外国では常に例の紐パンにMPを投入しているからその範囲を教え込んである。ただ何か大きな音がするたびに抱きついてこられるのはうっとうしいんだけど。
「僕も行きたい!!」
「「「「ダメです!」」」」
何を勘違いしたのかケント王子まで付いてくるという。要人を最前線まで連れて行くバカが何処にいる。四方八方から阻止する言葉が飛んでくる。
「良い訳ないです。ケント王子、こんなときに我儘言わないでください。」
SPの女性が必至に説得している。
ケント王子は周囲の軽蔑の視線を感じたのか小さくなっていく。
「心配しないでください。お義兄さんは絶対に守りきってみせますから。」
俺はケント王子の正面に行って宣言する。
「・・・はい。ごめんなさい。」
ケント王子の頭が冷えたのか。小さく大人しくなってしまった。こんな王子でも英国近衛隊の隊長でもあるのだ。活躍したいのはやまやまなのだろう。
*
会場正面のレッドカーペットが敷き詰められたところから、少し離れた位置に居る人物の横に置かれた大きなカメラが偽装された機関銃のようである。人々が飛び出してきたところを撃ち殺すつもりのようだ。
「なるほど、見たことが無い型のカメラだ。」
俺がその場所を指し示すと監督がカメラを覗き込んで呟いた。
賢次さんが左横から抱きついて、それを真似て監督が右横から抱きついている。
俺は愛用のライフルを取り出す。そして、もう一個指環を取り出して右手に付ける。セイヤから取り上げた分だ。その指環を『目』に変えて準備完了だ。
一応、特殊部隊の照準もあのカメラの周辺に居る人物を捉えているはずだ。
おそらく、こちらから見て右隣に居る人物と左隣に居る人物が懐に自動拳銃を隠し持っていることから、テロ組織の人物のようだ。
そのことを監督にも伝える。俺のライフルがカメラに偽装された機関銃を黙らせたことを合図に特殊部隊から左右の人物を射殺する予定だ。
銃を装備していないだけで他にもテロ組織に関わる人物が居る可能性があるので、直接接触するわけにはいかないのだ。
俺が機関銃を打ち抜き暴発させるとほぼ同時に両隣の人物が倒れる。特殊部隊はかなり腕前を持つ人物を派遣してくれたようだ。
「右から4番目の人物が怪しい!」
カメラを覗いていた監督が怪しい人物を発見したようだ。俺はスコープを通してその人物を見ると周囲が騒然とする中。徐々に後ろに下がって行き身を翻して逃げていく。もちろん、マーキングはバッチリしてあるから、何処に逃げよう追跡可能だ。
俺はそのことを無線を通じて特殊部隊の人間に報告しておく。
最終的に辿りついた組織の隠れ家を特殊部隊が殲滅して完了だ。それまで、俺はここに足止めになりそうだ。
拙作「腐男子御曹司の彼」が完結しました。
賢次さんも登場しています。トムは名前も出てきませんが・・・。暗躍してます(笑)
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