第3章-第27話 いんぺいたいしつ
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「では豊臣特命執行役員、読み上げてくれ。」
俺は株主総会での六菱航空機の社長就任後の初めての取締役及び執行役員会議を俺の会社で開催している。出席者は営業担当、飛行試験担当、技術担当の3人の副社長と各室長及び本部長たちだ。
六菱航空機には六菱重工をはじめ、有名自動車メーカーや有名電機メーカーなどが出向者を出しているが、ここに集まった人間は六菱重工出身者ばかりだ。
「読み上げます。偽装問題再発防止策としまして、先月導入いたしました匿名のフリーメールを使った投書の件数10件、その中で営業に関するものが1件、飛行試験に関するものが1件、特許技術に関するものが1件、合計3件見つかりました。」
静まり返っていた室内から「ほう」という声が漏れる。
「残り7件はどうなんだ?」
「はい。7件のうち1件は社会的道義的に一般社会で認められないと思われましたのでこれも資料を纏めてあります。残り6件は法令違反でもなく社会的道義的に問題ないと思われますので簡単な資料だけ付けさせて頂きました。」
執行役員から4部の冊子とA4用紙6枚に纏められたものを手渡される。
それぞれ冊子には問題点の概要とこれから発生しうる費用などが詳細に載っている。
「君たちからの回答はこれでいいんだな。」
「といわれますと?」
「俺が別ルートで調べたものはもっとあるはずなんだが。」
「そんなはずはありません。」
「何故、俺が社長就任前に六菱航空機にファイアウォールを導入したか分かっていないようだな。本当のメール件数は138件あった。その中で比較的問題の無さそうな10件ピックアップするとは恐れ入る。投書の犯人探しまでして、派遣は終了に社員は左遷に。最悪だな君たちは。」
「何を根拠にそんなっ。」
営業担当である福田副社長がかみついてくる。
「まあいい。渚佑子、残り128件の資料を取りにいこうか。」
「128件中3件は福田副社長が今お持ちの鞄の中に。24件は福田副社長の役員机の引き出しの中に。17件は福田副社長が統括していらっしゃる営業本部の管理ロッカーの中にあります。」
渚佑子は『知識』を使い資料のありかを教えてくれる。彼らはその全てのメールをひとつひとつ丹念に調査し資料に纏めた上で報告しなかったようだ。
「さあ、福田君どうだね。その鞄の中身を見せてくれないか?」
「何故……そんな……。」
「何故じゃない! 隠蔽の現行犯ということで福田君は懲戒解雇。そして持っているこの3件分に関しては刑事告訴を行なうから、そのつもりで。」
「では君たちにもう一度聞くが資料を提出してもらえないだろうか。今なら降格処分で済むように取りはかろう。懲戒解雇は行なわない。」
俺がそう言うと出席者が皆一斉に立ち上がった誰一人として隠蔽に関わっていない人間はいなかったというわけだ。
「さて岸田社外取締役、六菱重工は大丈夫かな。確かメールの中に6件ほど重工が関わりのある件が含まれていたはずだが……。」
「君はソレを見つけてどうしようと言うのだ。」
「もちろん六菱重工にも泥を被ってもらおうと思っているだけさ。なにせ隠蔽に関わっている人間は元六菱重工の社員ばかりだから、そんな人間を送り込んだ側にも責任があるはずだろう?」
「断ると言ったらどうするつもりだ?」
「別に。今からどこに資料があるかを聞き出して取りに行くだけさ。俺の持つセキュリティカードは隣の六菱重工内も全て入れるはずだからな。もちろん、その場合は公表するタイミングはこちらで決めさせてもらうが……。」
「断れないみたいだな。ひとつ提案なんだが、君は六菱重工の社長も兼任するつもりは無いか?」
「無いな。それよりも岸田さん貴方が成ればいい。六菱航空機と六菱重工の同時公表により、重工側のトップの首の挿げ替えは避けられないだろう。西日本重工出身の貴方が適任だ。」