第5章-第31話 俺はスナイパー?
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特にスマホも取り上げられなかったので、確認してみたがアンテナは立っていなかった。異世界でも2本は立っているのにいったいどんな僻地なんだここは・・・。
魔法の袋の持ち歩いていた分は、全て首からぶら下げるタイプのパスポート入れに入っており、取り上げられなかった。
特にすることもないので、部屋や外の風景などをスマホで撮った。あとで何に役に立つかわからないものな。ツトムの動画のように・・・。
基本的に袋には、武器になるようなものは入れていなかった。日本で見付かると、簡単に捕まってしまうからだ。
唯一、本人しか扱えない袋に向こうで狩猟をして経験値を獲得するために異世界に持ち込もうと思っていたクロスボウがあるが、あれは接近戦向けではない。
あとは、異世界に持ち込む予定の商品ばかりだ。
1時間くらい経過しただろうか。暇で座り込んでいると遠くからヘリの音が聞こえてきた。ようやく今回の敵役のおでましらしい。
とりあえず、指輪は『守』になっていることを確認し、その人物と組員が並んでいる写真も撮っておいた。
・・・・・・・
「よくも、ハメてくれたな。お陰でもう人生終りだ。」
「鈴江はどうした。」
とりあえず、話したいこともないから、元嫁の話でも聞いてやる。
「ああ消えたよ。また、どこかのバーでも潜り込んでいるのだろうよ。」
「まあ、そうだろうな。アイツはそういう奴だからな。楽することしか考えられない奴だ。一緒に苦労しようとお願いしたら、逃げられたクチだからな、俺は。」
「そんなことは、どうでもいい。奴はどうしたツトムとかいう小僧は?」
「お前、ツトムに何を言ったんだ。お前がツトムを切れさせなきゃ、ツトムはあんなことをしなかったと思うぞ。」
「ああ、鈴江にろくでもない奴と聞いたんでね。少々凹ましてやっただけだ。カジノでトランプを使ってな。お前が残していった資金を全て取り上げてやったら、泣きそうになってたかな。」
ツトムはタイマンを張ったのか。勝負事で、金持ちに喧嘩売ったのか。そりゃ、どうやっても勝てないわ。金持ち側は掛け金を倍々に吊り上げていけば、必ず勝てるからな。
「ツトムの居場所は、こっちが聞きたいくらいだ。突然、無断欠勤をして行方を眩ませているんだ。もしかして、この連中をチラつかせたのか?」
「ん、ああそうだ。お前の店を見に行ったときに会ったな奴に・・・。こいつらを連れて行ったんだった。」
それで、あんなに怯えだしたのか。異世界に連れて行って正解だったな。そうでなきゃ、もう、バラされていたぞ。
「とにかく、すべての責任はお前にある。その命で償ってもらおう。やれ!」
先ほどの組員たちがこちらに近寄ってくる。どうやら、本気のようだ。
「すまないな。この方にすでに前金を頂いているんでな。なあに、ほとんどなにもしないさ。すこし痛い目にあってもらって、この別荘に監禁するだけ。簡単だろ。ここはな、多分聞いたことがあると思うが青木樹海と呼ばれるところだ。あきらめな!」
俺は殴る蹴るの暴行を受けた。但し、『守』が効いているので痛みはない。痛がった振りをしているだけだ。
「そのへんでいいだろう。ロープでしっかりと縛りな。それでいい。じゃ、10日後に死体を引き取りにくるから、できれば、樹海で死んでてくれると助かる。」
この場で殺さないのは、きっと死体を青木樹海に遺棄するつもりなのだろう。弾キズなどがあったら、ひと目で他殺だとバレてしまうからだろう。
奴もその他の組員たちも引き上げるようだ。外でヘリのローターの音が鳴り始めた。
俺は後ろ手で縛られたまま、指輪を『炎』に変えて念じる。少々熱かったがロープは簡単に切れた。まあ、奴らが逃げ出すだけの時間を稼ぐためのものなのだろう。
扉も厳重に鍵が掛かっていたので、指輪を『移』に変えて念じる。これは文字通り、移動する魔法だ。たった50センチだが、扉も壁もスイスイと通り抜ける。そして、他の部屋に片っ端から入ってみると、3つ目の部屋にようやく、お目当てのものを見つけた。
あの組員が倉庫にしていると言っており、こんな樹海のなかに隠しておきたいものは、ただ一つ、武器だ。俺はそれを片っ端から、袋に詰め込む。
すべて入れたあと、さらに奥に見つけたものはダイナマイトだ。信管と起爆装置もあるようだ。これはいくらなんでも、異世界に持ち込むのは危険すぎる。
その部屋にあったライフルを持ち出すと指輪を『目』にして、周囲を探す。よかったヘリは、まだ移動を始めたばかりのようだ。
俺は殺傷能力のある武器を人にむけることに一瞬躊躇したが、ここで見逃しても、いずれ報復されるのは目に見えている。やるしかない。ライフルを構えヘリの方向へ向ける。
相手からしたら馬鹿みたいな距離だろうが、韓国の射撃場での練習でも500メートルを10発中3発当てているのだ。
弾薬は十分にあるのだから、当てるのはそんなに難しくはない。狙いはヘリの操縦士の腕、撃墜すべきなのは解っているが出来ないものはできない。
ヘリは民間機なためか。簡単に穴があく。15発撃ってやっと操縦士の身体に当てられた。
当てた途端、ヘリはふらふらと左右に移動して墜落していった。死んだかもしれないが生きているかもしれない。もうすぐ夜だ。
『目』越しに覗いたかぎりだと、皆生きているようだ。しかし、奴は凄い形相でこっちに向かおうとしている。しかし、お荷物に思ったんだろう。背後から仲間の組員に射殺されていた。
こっちは、武装しているのだ。組員からすると近寄りたくもないのは理解できた。暫く『目』で追っていたが、およそ1キロメートルのところで野宿するようだ。
結局、朝まで一睡もせずに見張っていたが、相手も朝を待っているようだった。朝になり辺りが明るくなったのを見計らい、組員の足を狙い射撃を再開する。3人共なんとか当てることができたが、『目』の射程外へ逃げられてしまった。さらに別荘から離れるように遠ざかっていった。
あとは、すべての痕跡を消すためにダイナマイトに信管を付けて、ギリギリの距離まで遠ざかる。良し指輪が光りだした。俺は指輪を『送』に変え、起爆装置を使ったところ、遠くで爆発音がした。
別荘の屋根は吹っ飛び、他にもダイナマイトがあったのか、ドーン、ドーンと誘発している。その瞬間、異世界に飛んだ。




