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第2章-第19話 はつしごと

お読み頂きましてありがとうございます。

「そうだ。改めて温泉利用権を買ってはいかがでしょうか。女将さんそれで如何ですか?」


 自家源泉自体は、彼女の足元を見て俺が借金と同額で買い取ってもいいのだが、それは俺のやりかたじゃない。


「はあ。値段によりけりですが山田社長のほうはよろしいんですか?」


「そうですね。この旅館に付いている白旗の湯の利用権だけで十分です。元々、湯温が下がったときに余分に利用できるように買い足していらっしゃるようですから。」


「そんな、ここの相場からすると10年間で1000万円は下らない。そんな金は直ぐには用意できない。」


 やはり、それくらいは必要なんだな。良く聞く別荘地への温泉利用権でも200万円くらいが相場だというからな。単純に利用量が5倍としても1000万円くらいはするだろうな。


「では分割払いなら如何でしょう。ちなみに今は幾ら用意できますか。完済はいつくらいならできそうですか?」


 こういう交渉は相手が払う気になっている今がチャンスだ。


「そうだな。今は200万円が精一杯だ。だがこのゴールデンウイークが終われば全て用意できる。」


 凄いな。普段1室1万5千円のところをゴールデンウイーク料金で2万円取ったとして原価はそれほど変わらないと考えると1日1室1万円以上は確保できるんだろう。100室あれば1日100万円、10日あれば1000万円か。


「女将さん。あとは貴女の交渉次第ですが如何でしょうか? 本当のことを言えば迷惑料込みでもう少し出して頂けると思ったのですが・・・。」


 脅すようなことを言ったのは現在、女将さんと俺に利害関係が無いからできるのだ。ここを既に買って彼女が従業員だった場合、下手をすると脅迫罪が成立してしまう。


「迷惑だと!」


 まだこの男は被害者意識が強いらしい。ここはビシッと言っておかなくてはいけないよな。


「ええそうですね。ほら俺が旅館組合にお伺いしたときにポロっと喋ってしまうかもしれないでしょう。いや貴方も被害者だということは皆さん分かってらっしゃるとは思うんですが、『温泉泥棒』なんてレッテルは「待ってください。」」


「お売りします。1000万円頂ければ十分です。」


 俺がさらに追い込もうとしたが彼女に止められてしまった。まあ1割2割金額が上がるよりは恩を売っておいたほうが得策だ。それに今自分がどういう立場に居るか十分わかったようだしな。


「だそうですよ。良かったですね。では、この場で契約書を作ってしまいましょう。幸子さん、静香さんを呼んできて貰えませんでしょうか?」


 静香の『代筆者』としての初仕事か。日本でも通用するとわかれば、活用範囲は随分と広がるはずだ。


「・・・・・。」


 幸子が呆けている。


「どうしたんですか? 幸子さん。幸子さん!」


 俺が幸子の肩を揺り動かすと一瞬何かを言いたそうな顔をする。


「あ・・ああ、ごめんなさい。静香ですね。呼んできます。」


     *


 静香に頼み、『代筆者』としての仕事をしてもらう。


「期間開始日は給湯の始まった月の1日から10年間でいいですね。」


「それじゃあ、わしは・・・。」


「二重払いになりますね。それは加害者から取り戻すなり、勉強代と思って涙を飲むなりしてください。そこまでは責任持てません。」


「私は今日からでも・・・。」


「いやいや。それだと組合長が『温泉泥棒』していたという証拠が残ってしまうので双方に取ってもよろしくないと思うわけなんですが如何でしょう?」


「そうだな。ここは諦めて払うことにしよう。毎月払うべき湯量に応じた供給料金も遡ってお支払いする。だから、このことは・・・このことだけは内密にお願いする。」


 温泉利用権とそれに付随する供給料金は白旗の湯に順ずると一筆書き加えた上で、専用のインクで拇印を双方に押してもらった。これで契約に違反するようなことがあっても自動的に賠償されるはずである。


「では、手付けの200万円と引き換えに給湯を開始することにしましょう。女将さん貰ってきてください。領収書も忘れずに・・・。」


 これであの番頭もこの草津温泉には居られなくなるだろう。それだけでも俺にとっては十分な収穫だ。


     *


「なあ渚佑子。幸子はどうしたんだ。なんか部屋に篭ってしまったみたいなんだが・・・。」


「恐かったんじゃないですか?」


「誰が。」


「社長が。」


「俺がか? 俺、幸子になにかしたか?」


「いえ私にとってはいつも通りの社長でしたが、あんな人を追い詰めるような言い方を鈴江さん以外に対して言っているところを見せていなかったからでしょう。」


「・・・ああなるほどな。」


 まあこれから、アメリカに渡ってイロイロな交渉が必要になるだろう。そんなときに騙されないようになってもらわなくてはならない。もちろん、現地ではフィールド製薬の子会社の人間がサポートするし、主要な契約は事前に俺がチェックするが、本人に自覚が無くてはどうしようもない。


「そんなにあの女将さんが気に入りましたか?」


 渚佑子が片眉を上げて聞いてくる。どうやらピンクコンパニオン姿の女将さんが気に入らないようだ。ガン見しすぎたか?


「ははは。まあ欲しい人材ではあるな。」


 あれだけ、物事を思い切りよく進められる人材はそう居ないに違いない。旅館の休業の件しかり、ピンクコンパニオンの件しかりだ。


 元々雇われ女将として、この旅館の切り盛りを任せるつもりだったのだが、旅館経営全体の子会社を任せたい人材だ。将来は親会社の取締役に抜擢できればいいとも思っている。

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