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第2章-第18話 おんせんどろぼう

お読み頂きましてありがとうございます。

「そんなことを仰られましても私は聞いていません。」


 目の前には初老の男性が息巻いている。


「女将さん。そちらの方はどなたでしょうか?」


 とりあえず紹介してもらわなくては話が始まらない。


「山田社長。お騒がせして申し訳ありません。こちら、旅館組合の組合長でお隣で旅館を経営されている白岩さんです。」


「初にお目にかかります。株式会社山田ホールディングスの社長兼Ziphoneの副社長をしております山田と申します。実は内々ですすめさせて頂いていたのですが、ここを所有されている銀行様からZiphoneに話が持ち込まれまして事前視察に参りました。旅館組合様にはいずれご挨拶に伺おうと思っておりました。」


 俺は自空間から取り出したZiphone副社長の名刺を手渡す。少しズルいがここはZiphoneのネームバリューを利用させてもらおう。


「Ziphoneですか。そんな巨大資本がこの草津に・・・。」


 草津温泉には、関東の鉄道会社資本のホテルもあったはずだが、意外と気が小さい男性のようだ。


「いえ、持ち込まれたのはZiphoneですが何分畑違いですので、私個人が興味を示しているだけです。最終的には、株式会社山田ホールディングスの子会社を設立するつもりです。」


 俺がそう言うと男はホッとした様子だ。


「それで女将さん。何を騒いでたんですか?」


「それがこちらの方の旅館にお湯が出なくなったと仰っているんですが、私はなんのことだか皆目見当がつかなくて。」


「そちらの自家源泉から引かせて頂いた口からお湯が出ないんですよ。なんとかしていただけませんか。」


 先程までと違い、丁寧な口調に変わっている。女将さんを若い女性と思って侮っていたのだろう。


「話に割り込んですまない。あの自家源泉は川に流していたとお聞きしてましたが。」


「えっ。」


 男は驚いた様子だ。


「申し訳ありません。実はあの自家源泉は私個人の持ち物なんです。あの源泉だけは銀行の査定で低く見積もられてしまったので手元に残しておいたんです。この旅館を買い取った方と直接交渉しようと思っていました。」


 何か隠していると思ったのはこのことか。ということは、俺も銀行の担当者に騙されたということか。いや旅館のことはこちらで調べたことだから、銀行の担当者が黙っていただけなんだろう。だがそのことで値引き交渉は可能だな。


「それでこの白岩さんにお分けしていたんですか?」


「いえいえ、とんでもない。この旅館が買い取られても、すぐに交渉できるように川に流すだけにしていました。」


「女将さんはこう仰っていますが、そちらさんはどうなんでしょうか?」


「冗談じゃない。わしはそちらの番頭さんの申し出により毎月代金を払っとるんだ。」


 あの男、こんなところで詐欺を働いてやがる。行きがけの駄賃のつもりなんだろう。


「申し訳ありませんが契約書か何かをお持ちですか?」


「いや、そんなもんは無いが。」


 まあ、そうだろうな。契約書を結ぼうと思えば、所有者の署名や実印が必要だ。偽物であってもそんなものまであの番頭が用意できるとは思えない。


「ではお湯が供給されたのはいつでしょうか?」


「こちらの旅館の休業の張り紙が出されて2ヵ月後くらいだったかな。」


「女将さん。あの番頭を解雇されたのはいつですか?」


「そうですね。休業に際して経理に関しては銀行の担当者と進めていたのでそ2ヶ月前には解雇通告を出してその15日後には出て行かれました。」


 確実にあの男はこの旅館の従業員じゃなかったわけだ。この組合長には可哀想だが、若い女だと侮ったツケを払ってもらおう。


「つまり源泉の所有者でも無い方にお金を払ってお湯を供給して貰っていたわけです。旅館組合の組合長となれば、これがどういうことか分かってらっしゃいますよね。」


「わしが『温泉泥棒』。そんな・・・わしは騙されておったのだ。いわば被害者だ。」


「被害者なら被害者らしく加害者を訴えるなりされてはどうでしょう。まさかこれ以上泥棒を続けようなんて思わないですよね。」


「だが、もう客から苦情が来とるんだ。白旗の湯からの湯量を調整してもらうにしても最低でも1ヶ月は掛かるんだ。なんとかならんだろうか。」


 まあそうだろうな。温泉の出ない温泉旅館なんて一気に信用を失ってしまうだろう。まあ全て自家源泉に頼っていたわけでも無いだろうが、これからゴールデンウイークだというのに高い金を払って泊まりにくる客に対して、一部入浴施設を閉鎖なんてことになれば確実に信用を失うに違いない。


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