第4章-第30話 ゆうかい
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「私ね、ミスドーナッツがいいな?」
よかった。エトランジュ様に毒されていないみたいだ。
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次のFCはアキエの言葉をヒントに、ミスドーナッツにすることにした。調べてみると意外とドーナッツは、バックヤードで売れ筋を予想して大量に作られる反面、予想が違うと廃棄されることが多いらしく。原価率が異常に低い商品なのだ。
予想するなんて面倒なことはしない。全種類1回ぶんずつ完成した途端、腐敗しない袋に入れる。そして、店頭で売れた分ずつを袋から取り出す。売れたものからバックヤードで作り、袋に保存すればいい。
こう書くとかなり利益が上がるようであるが、意外なことに毎日同じ商品を売るわけでもないので、翌日には売らない商品が袋に残ってしまったりする。腐敗しない袋を使いまわすだけでは、それほど利益が向上するわけでは無さそうである。
結局、残った商品は異世界に持ち込むこととなった。
実は、メッツバーガーの隣に入っていたミスドーナッツの経営権を譲って貰ったのだが、以前はメッツバーガーの競合店であり店同士の仲も悪かったようだ。
それが同じ会社になったことで、ランチ・ディナー時にはメッツバーガーに応援でアルバイトに入ってもらい。それ以外の時間帯はミスドーナッツへ応援する形でお互い店員の融通がうまく噛み合わせたことで採算もある程度向上した。
そして意外だったのは、それぞれお互いの店舗のお客様の廃棄物を同様に処理することで評判が格段に向上したことだ。
つまり、ミスドーナッツの店員がメッツバーガーのゴミやテーブルを綺麗にしたり、メッツバーガーの店員が席を立ったミスドーナッツのお客様の食器を返却することを積極的に行ったところ。それぞれ、好印象を与えたらしく、スーパーのご意見をお聞かせくださいの用紙にも記載されるほど評判になっている。
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木曜日、いつも通り出勤しようとしたところ、いつか来るであろうと思っていた警察が自宅へやってきた。ツトムが公表したあのボンボンの件であった。
ツトムの所在を質問されたが知らないと答え、最後に会った場所と日時を聞かれたのでツトムの自宅でヨウツブへ公表した当日夜に無断欠勤を理由にクビを言い渡したこと、容疑者の逆襲を恐れていたことなどを話した。
さらに俺の株取引にまで触れてきたので、あらかじめ用意してあった証券会社との取引記録を渡して動画が公表された後であることを説明した。
捜査状況について質問したが、ろくに答えて貰えなかった。俺がカジノで勝ったことを密告していたこと、ツトムではなく俺が指示してやらせたかのように容疑者が何度となく言っていたことを教えてくれた。
次の確定申告の際には7億円ほど税金が必要だが、それはわかっていたことだ。まあ、ツトムがまた甘えたことを言ってきたときに脅しで使うぐらいだな。
容疑者の身辺は警察が監視しているので、危険性はないと言われたが用心しておくには越したことはないだろう。
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金曜日、スミス金属の株は、第3者引き当て増資の件が公表されても、ストップ高が続いており、増資用の50億円の調達もなんなく完了し、更に200億円ほど余った。
フィールド製薬の株式は下落幅が落ち着いているようだった。しかし、まだ下がりそうだったので、そのまま据え置きにして、さらに信用売りを追加しておいた。
昼は各都市の貴金属買取を周り、すべての買取代金を回収した。そのあと、なにやら黒塗りの車を目にすることが多くなった。警察が密かに身辺警護でもしてくれているのだろうか。
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それは一瞬の出来事だった。
突然、横に白いワンボックスが横付けされたと思ったら、中から、拳銃を持った男が出てきた。思わず立ち往生していると一言だけ言った。
「乗れ。拒否したら、この場で撃つ。」
それでも、黙っていると、男は威嚇発砲をしてきた。後方の窓ガラスが割れ、銃が本物であることがわかった。
辺りは悲鳴が鳴り響き、騒然としだしたが身体が硬直してしまい走って逃げることも叶わず、男に腕を捕まれ車の中に引き摺りこまれた。
車はそのまま急発進し、車通りの少ないオフィス街を抜け、高速道路に入ったようだ。
「お前、意外と冷静だな。怖くないのか?」
指輪を念のため『守』に変えている。これはバリアみたいなもので、1発や2発の銃弾なら大丈夫なのである。これからどうなるのか考えると恐怖が無いわけではない。
男がじっと俺の方をみて、納得したようだ。
「なんだ、震えて喋れないだけか?よし、説明してやろう。組の資金源の1人である、田畑洋治が捕まったのは知っているだろう。奴が言うには、今回の公表は、お前の指示によるものだという。まあ、俺達は信じていないがね。奴が不用意に喋ったのが原因なのは明白なんだから。でも、この3文芝居につきあってくれねえか?」
これだけ情報をもらえれば、俺にも筋書きがわかる。ある程度、こいつらにも仁義があって、ボンボンに顔向けしなきゃいけないが俺がその資金源になることで、開放してやろうというのであろう。それじゃ、その芝居に乗るしか生き残る道は無さそうだ。
「年間いくらなんだい?」
「話がはええな。おう、1億円だ。」
「わかった。数日囚われるだけで、ケガさえしなきゃ、用意しよう。奴はどうなるんだい?」
「御大尽は違うね。まあ、金の切れ目が縁の切れ目かな。あとは言わなくてもわかるだろ。」
「ああ、キレイに処理しておいてくれよ。キャストは運転手とお主と・・・おおっと、名前は聞かないよ。」
「あとは、奴をつれてくる係りが1人だな。これくらいのヤマでは、組も碌に手をだしてくれなくてよ。」
「とりあえず、奴が来たら、命乞いでもして見せればOKか?」
「おう、そんなもんだな。わかってるじゃねえか。相当修羅場踏んできたのか?」
まあ暫くは3文芝居に付き合うか。明日には異世界に渡れるから、その時に逃げ出せばいいだろう。状況が変わって殺されるのは勘弁だから、指輪はこのままでいこう。
車はあるICを降りて、小さな飛行場に到着する。ここは、確か静岡に出来た当初から採算が合わないと言われている飛行場だ。暴力団に場所を貸す必要があるほど、金に困っているんだな。
ここで小型ヘリに乗せられ、富士山の方向に飛び、森林の中に到着する。
森林の中には、森の影に隠れるように別荘が建っていた。
「ここは、奴の別荘だ。組の倉庫としても利用させてもらっているがね。」
中に入り、奥の部屋に連れ込まれる。
「ここで、待っててくれ。奴が来たら芝居再開するからよ。よろしくな。」
なかには、ソファがおいてあった。組の倉庫ということは、やっかいな物が沢山入っているのだろう。これが公けになれば、さらに株価は下落し、俺はさらに儲かるだろうが、田畑会長の心中を思うと・・・。
だがまずは、俺が生き残るそれだけだ。
急展開に戸惑われているかもしれませんね。




