第2章-第16話 ぴんく
お読み頂きましてありがとうございます。
宴会場にお膳が並べられている。料理人は居ないので近くの仕出し屋から料理を運んでくるらしい。
今回、旅館経営するにあたって料理をどうするか決めあぐねている。草津も下呂も有馬も雪深い山奥にあるため、本当の意味で地元で採れる食べ物が無いところだ。牛も豚も鳥も魚も蟹も野菜も全て余所から運んできたものを調理している。
それならば、調理の大部分をセントラルキッチン工場に任せて、チルド品を輸送し簡単な調理だけを旅館で行なうことで輸送費と料理人という人件費を削減することができる。と思っているのである。
それにその輸送ルートを開拓することで、今まで難しかった牛丼のスキスキ、ミスドーナツ、メッツバーガー、ファミレスのカカス、かんぴょう寿司といったフランチャイジーも導入可能だ。
観光客にしてみれば興ざめかもしれないが、そこに人が住んでいれば、そういった需要が必ずあるはずだ。温泉地ということを踏まえた外観にしておく必要はあるだろうが・・・。
*
全ての料理が並んだところで少し俯き加減のひとりの女性が宴会場に入ってくる。
なにやら、透けた布の下は下着姿という格好だ。
ピンクコンパニオンという温泉地で働く接客業の人間だろう。だが草津温泉には、そういった人間を派遣している所はないと聞いていたんだが・・・。
幸子か。と周囲を見渡すと、ちゃっかりとさつきとは反対側の俺の隣を陣取っていた。
いくら幸子でも、会社の仕事で来ていてその宴会場でそこまで過激なことはしないよな。
じゃあ、あれは誰だ?
宴会場の中央付近まで来て、綺麗に正座してみせる。ハリはあるが筋肉がついていない太腿が艶めかしい。
「トムも男の子ね。」
食い入るように見つめてしまったのだろう。隣から幸子の茶々が入る。
「今日は当館にお越し頂きまして誠にありがとうございます。」
そこに女将さんの声が響く。目の前の女性から発せられているようだ。
「何も御座いませんがご飲食ご宴席をお楽しみください。」
その言葉の後、彼女と同じような格好をした女性たちが数人駆け込んでくる。見た顔ばかりだ。そう女将さんと同世代の従業員たちが現れたのである。
「女将さん、これはどういうことですか!」
俺は立ち上がり叫ぶ。こんなことは頼んでもいないし予定にも入っていない。ましてや周囲の人間たちは名目上我が社の社員と言ってあるが奥さんたちである。
その気も無いがここは完全に否定しておかなければ大変なことになるのは必至だ。
「私がご説明致しましょう。」
男性の声が発せられる。発せられた方向には番頭と紹介された人物が立っていた。
「うるさい! 俺は女将さんに聞いているんだ。黙っとれ!!」
指環の『鑑』で確認したこの男に△△組準構成員という肩書きがあったのだ。どう考えても、碌な内容じゃ無いに違いない。
元々、借金を抱えさせた旅館の経理部門の人間など再雇用するつもりもないので放っておいたのだ。
「女将さん! ここに居る人間で元従業員は居るんですか?」
「いえ、あの、その。」
どうやら、元の従業員たちは居ないらしい。あの還暦過ぎの女性たちも数合わせで集められたらしい。
「居ないんですね。連絡したときに言いましたよね。元従業員を集めてくれと再雇用するつもりだからと。誰が彼女たちを手配したんですか、この番頭さんですか?」
「はい・・・。」
今にも消え入りそうな返事が返ってくる。
「部外者は帰ってくれ! 皆、すまないが彼女たちを追い出す手伝いをしてくれ!!」
俺は奥さんたちに指示する。
「おい番頭! お前も出てけ! さっさと出て行くんだ!!」




