第2章-第15話 じかげんせん
お読み頂きましてありがとうございます。
すみません遅くなりました。
「山田様。お待ちしておりました。織田でございます。」
若い女性がしっかりと着物を締めて出迎えてくれる。この旅館の前の経営者の女将さんだ。自分の母親が亡くなり、旅館を受け継いだときには借金だらけで受け継いでから半月で閉館という大英断ができた人物らしい。
「人数が増えちゃってすみません。ごやっかいになります。」
女将さんの他に番頭だった男性と還暦をはるかにすぎている女性が数名と逆に女将さんと同世代と思われる若い女性が数名が居るばかりだった。
これは厄介だ。閉館したのだから大黒柱たる男性がいないのは仕方が無いにしても中間の年齢層の女性たちがいないのは困る。
老舗としての洗練されたサービスは見込めないかもしれないな。
「いえいえ、構いませんよ。どうぞごゆっくりしていってください。向こうの方は外国の方ですか? 英語は通じますか?」
女将さんは英語が喋れるそうで他にも韓国語と中国語も少し喋れるという。凄いな。
「ええ、彼女たちはイギリス人なので大丈夫です。」
俺はジェミーとケント王子とその護衛たちを紹介する。
「あと彼らはこちらで通訳しますので何かあれば、私たちに仰ってください。」
アポロディーナとクリスはセイヤの召喚魔法を受けていないので通訳が必要だ。
*
この旅館は自家源泉がある所為か内風呂が3つと露天風呂が1つある。全てかけ流しらしい。
旅館自体が斜面に建てられていることから、建物から突き出して浴場ができているため、必ず途中に階段が設置されており、バリアフリーには程遠い作りになっている。
「アヤ。どうだった?」
アヤは、内風呂に入る女湯と書かれた暖簾から出てくると近くのソファに腰掛けていた俺の隣にくっついてくる。暑くないのだろうか。
「とってもいいお湯でした。」
良く温まったようで、火照った身体を冷やすように浴衣をはだけだした格好のアヤ。メンバーの中で水魔法を一番得意としているから少し調査をして貰ったのだ。
「問題無かったか。俺の気の所為か。」
ここの露天風呂は女湯のほうが若干高い位置に作られている。源泉そのものが高温のため気にするほどでは無かったのだが・・・男湯に入ったとき源泉から注がれているにしては若干温度が低い気がしたのだ。
「問題ありありですよ。女湯の排水溝から男湯の湯口に繋がっているみたいですね。」
この自家源泉は一時期温度が下がっていた時期があったそうで旅館には加温循環する設備がある。その設備が動いているようである。ここのところは女将さんに質問しておかなくてはいけないな。自家源泉分は他の旅館に売られていて一時的に使用されているだけの可能性もある。
「本当ですね。あれ・・・おかしいですね。川に流すポンプも動いているわ。すみません。手違いがあったようです。」
女将さんの話では、くみ上げポンプを止めると源泉が出なくなる可能性もあるので止めていなくてそれをそのまま川に流していたそうだ。
「切り替えれば男湯にも源泉が注がれるんですね。」
「はい。さっき切り替えましたので男湯にも女湯にも源泉が注がれているはずですし、溢れたお湯は川に流れているはずです。」
どうも機械を始動するときに切り替えを間違えただけのようだ。
「ちなみにこの設備で、男湯の排水溝のお湯を加温循環させることもできるんですよね?」
「ええ、そうです。加温ろ過循環させて女湯の湯口に出るようにすることもできます。」
どうやら、この旅館の借金の一因に自家源泉を維持するのに必要な設備を整えることがあったようだ。
俺の計画では、下呂温泉と有馬温泉で旅館を買収後は温泉のパイプを空間連結で繋ぐことで複数の温泉を楽しめる旅館にするつもりなのだ。建前上は他の温泉は加温ろ過循環施設なので、こういった設備があったほうがいいのだ。