第2章-第14話 ぐらん
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すみません遅くなりました。
「いやなんで、ここに居るんですか?」
俺は賢次さんに問い質す。流石に新婚旅行について来られるのは勘弁してほしい。
「仕方が無いじゃないか。ケントが温泉に行きたいと言い出したんだから。大使館経由で申し込んでもよかったんだが、公式訪問で動くと鄙びた温泉地をパニックに陥れることになりかねないから、遠慮したと言うんだ。」
そもそも、日本に来たことさえも非公式なのに突然、温泉地にケント王子が現われたなんて情報が駆け巡ったりしたら、迷惑もいいところだ。
「この時期にどこかの旅館を独占使用させるわけにもいかないだろう。だから、ここに連れてきたんだ。一応、護衛は女性のみにしてもらったから目立たないだろ。」
ケント王子の周囲には、清楚なワンピースを着た女性たちが数名同行している。でも清楚なのはワンピースだけで隠し切れない腕の筋肉や足の筋肉と眼光の鋭さは異様だ。これを目立たないなどとはとても言えないと思う。隣にジェミーやさつきを立たせれば違和感無いかもしれないが・・・。
ついて来たものは仕方が無い。追い返すわけにもいかない。各旅館の印象や気付いたことなど、参考意見を貰うことと極力離れて行動することを条件に受け入れることにした。
草津温泉は群馬県にあるのだが、最寄り駅は長野県の軽井沢駅だ。北陸新幹線のグランクラスに乗り込む。
「グランクラス、グランクラスって。押し付けがましさは、飛行機のファーストクラスの比じゃないね。」
ケント王子の反応は良くない。確かに至る所にロゴが目立ち、高級感を前面に押し出し過ぎで、本来の静寂性や乗り心地の良さの邪魔になっている。でも、俺にそれを言われてもどうすることもできない。
「でも、こちらの車両に他の乗客が入って来られないだけでも使っている意味があるんじゃないでしょうか。」
グランクラスを利用した理由は、それだけだ。観光地に行く車両としてあの窓の小ささは頂けない。旅行を楽しむことより、電車を利用することを目的にしている気がしてならない。
グランクラスのロゴが入った軽食や飲み物が出てくるが、それでは旅の楽しみが無くなってしまう。駅弁が嫌なら、近隣のデパートの地下にはピンからキリまで各個人の好みに合ったものが買えるのだ。
実際に今回の旅行のメンバーは、そうやって買い物をしてきた。もちろん、飲み放題だからって酒をガバガバ何本も空けるなんて下品なことをするつもりもない。
およそ1時間の道中は皆でお喋りをして過ごせばあっという間だ。
軽井沢駅に到着する。駅前には既にZiphoneと英国大使館からの車が到着していた。
「やはり、涼しいな。さつきは、身体を冷やすなよ。」
ここから、車で約1時間半掛かる。日曜日の昼間ということもあって道は比較的空いていた。もちろん、土曜日の夜に宿泊した観光客が運転する車で反対車線は混んでいたが・・・。
*
ようやく、草津温泉に到着する。
草津温泉には、湯量豊富な6つの源泉と旅館独自が持つ10の源泉があるという。旅館は白旗の湯にほど近いところにあり、観光名所にもなっている湯畑にも近い。
この旅館は湯量豊富な白旗源泉から温泉を引く権利と自家源泉を持っている。
「お待ちしておりました。」
旅館の暖簾をくぐると元気な声に出迎えられた。




