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第1章-第9話 しゅひん

お読み頂きましてありがとうございます。

「それでは、ご来賓の方を代表しまして。英国王室王子。ケント・オブ・ウェールズ様よりご祝辞を頂きたいと存じます。」


 数々の大舞台を経験しているだけあって中田の司会は見ていて安心する。やはり、彼ひとりに任せるべきだったのじゃないだろうか。


 司会役の挨拶の際のお義父さんの喋りで砕けてしまった雰囲気を払拭している。


 披露宴の進行上、俺たち新郎新婦もそうだが来て頂いた方々は立ったまま聞いている状態だ。


「タダイマ、ご紹介にアズかりました。新郎の友人にアタリます。ケントとモウシます。」


 ケント王子が随分練習したのか、かなり流暢な日本語でスピーチを始める。同時通訳役だった隣の賢次さんは目を見開いている。


「トム、サツキ。結婚ベリーハッピーね。アンド、ゴンさんオメデト。」


 ケント王子が珍しくアメリカンイングリシュで会場の固くなった雰囲気を緩ませている。これを意図してやっているとしたら、凄いとしか言いようがない。


「こんなオメデタイ席に呼んでクレテアリガト。ヒトコト、お祝いのスピーチね。では皆座って聞いてね。」


 実はケント王子には招待状を出していない。賢次さんが日本に帰ってきたときについて来た。そして、さも当たり前のように王子は俺たちの結婚式に出席すると言い出したのだ。


 いまさら、席次など変えようが無いので本人の希望通り、新婦の親族席に座った賢次さんの隣に席を用意した。


 日本の披露宴の定番なのだが、司会者以外に主賓が進行上、座るように言うことがある。どんなに偉い方だといっても身分の違いなど無い日本人同士ならば、その言葉に従い素直に座るのだが、英国王室の王子が立っているのにいったい誰が座ることができるというのだろう。


 少なくとも俺たち新郎新婦は立って聞く必要がありそうだ。俺はコッソリ指環を『話』に変えると声には出さずに中田に座らせるように言った。今彼の耳元で俺の言葉が聞こえているはずだ。中田が一瞬キョロキョロと辺りを見渡すと俺と視線が合ったのでもう一度口を動かす。


「皆さん、お座りください。」


 司会役の中田がそう告げると、会場内の固まった雰囲気が砕けて皆が座る。だが俺とさつきは立ったままだ。後でどうやって誤魔化すか考えると胃が痛くなりそうだったが、会場の雰囲気が固まってしまうよりはいいだろうと思うことにした。


「皆さんは『割れ鍋に綴じ蓋』というコトバをシッテますよね。まさに彼らはそういうカップルです。」


 穏やかに成りつつあった会場の雰囲気が凍りつく。誰だ。この原稿を書いた人間は少なくとも日本に住んでいる日本人じゃないな。その人間は『忌み言葉』というものを知らないのかもしれない。


 『忌み言葉』とは別れを連想させる言葉や不吉な言葉、重ね言葉のことで結婚式では絶対に使ってはいけない言葉だとされている。それをいきなり使いだしたのだ。


 司会の位置にいたお義父さんが一瞬ギョっとした顔をしたが、すぐに孫を見るような穏やかな笑顔に変わる。相手は年少者で外国人だと思いなおしたのだろう。


「もちろん、鍋はトムで蓋はサツキね。」


 おいおい。普通は逆だろ。何か一瞬会場の女性たちが頷くのを見たような気がしたが気のせいだろう。


「新郎はおセッカイですぐに壊れる人ネ。新婦はフォロー大変。頑張ってネ。」


 そうなのかケント王子にはそう見られているんだ。まあ、最近キレやすい気がするのは確かだ。気をつけないといかないな。


「シカシ、美人のワイフと別れて何度も結婚式ができるトムは羨ましいネ。ボクたち、王室の人間には考えられないネ。」


 流石に『忌み言葉』も2度目なら、何回言われても、もういいやと思える。


 特に英国王室は、そもそも離婚が難しい。キリスト教でタブーとされているものは全て英国王室でもタブーだからだ。だからこそ、ちょっとしたことでも女性スキャンダルとして報じられてしまうのだろうけど。


「それに、大好きな人間と結婚デキルこともウラメシイな。サツキは絶対に離しちゃダメだよ。もうこれ以上、ボクの好きな人間がトムを大好きなのは耐えられない。絶対だよ。」


 そうなのか。ケント王子の交遊範囲の女性ってそんなにお会いしたことは無いと思ったんだけど。隣でサツキが力強く頷いているところを見ると本当のことなんだ。


「コレがボクからのお祝いのコトバね。トム、サツキ。本当にオメデト。」


「どうも、ありがとうございました。」


 司会役の幸子が言葉を添えると会場内は一気にホッとした雰囲気につつまれた。皆、緊張していたらしい。


 続いてケーキ入刀に移ったのだが、やっぱり、この身長差は辛いな。どう格好をつけても、ケーキを切っているのはサツキで添えているのが俺に見えてしまうからだ。


 しかも、ケーキを食べさせるのにサツキに屈んでもらわなきゃいけない。シークレットシューズでも履いてくるべきだったろうか。

主賓の挨拶の悪い例です。良い子は決してマネしないでください(笑)


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