第1章-第8話 しかい
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すみません、遅くなりました。
帝都ホテルの鳳凰の間は、収容人数4000人規模を誇る日本随一の宴会場だ。通常は東西南に仕切って使われるらしいのだが、俺たちの結婚式はこの部屋を全て使う。
この部屋の特徴としては高さだ。有名ホテルの宴会場でも6メートルがせいぜいなのに10メートルもあるのだ。
北面に備え付けられた舞台の上にさらに雛壇が備え付けられ、その上に俺たちの席があった。結婚式は良く見世物だと言われているが酷すぎじゃないかな。
主賓にはケント王子に来て頂いた。ゴン氏の知り合いだと政財界のお偉方なので誰を主賓につけるかで揉めそうだったからだ。まあ、アメリカ大統領が来たがって揉めてしまったが・・・。
ケント王子の隣には賢次さんを始め、新婦の家族が並んでいる。そして反対側にはセイヤやアキエを始め、名目上は従兄妹になっているが異世界の妻たちがズラズラっと並んでいる。
だが、ゴン氏の姿が無い。どこに居るのかというと・・・舞台の上に居る。いわゆる司会役だ。もちろん、ゴン氏だけじゃ暴走が恐いので新生Motyのメンバーとお目付け役の幸子が一緒だ。千吾が若干怯えているようだが、なんとかなるだろう。
「まさか。自分の娘の結婚式のMCができるとはのう。感無量なのじゃ。」
もちろん、ゴン氏の我がままだ。それを異世界から帰ってきてから聞かされた俺は、慌てて幸子を付けたのだが心許ない。普段でもふたりして暴走するきらいがあったからだ。
会議の進行を任せると進まない進まない。ゴン氏のボケに幸子がツッコミ、参加者が笑い、それに気をよくしたさらにゴン氏がボケるという悪循環が生まれてしまうのだ。
そして、新生Motyの結成だ。俺はこれ幸いと中田にふたりの暴走を抑えてくれるように頼んだのだが、千吾もやると言い出して、どうせならばメンバー全員でとなったので任せたのだが大丈夫だろうか。
何故、俺の周囲には暴走する奴らが多いのだろう。
まあ、俺の心配をよそに披露宴の進行は着々と進んでいく。
女性陣は佐藤さんがボケで幸子がツッコミ。男性陣はゴン氏と千吾がボケで中田がツッコミだ。板垣だけが真面目に進行させている。
「幸子って凄いわね。」
俺の隣で彼らのやり取りを笑いながら、さつきが感心している。
「そうか?」
「父はアレだけど、芸能人と対等に渡り合っているよね。」
「ああ、物怖じしないよな。ときどき、お義父さんと漫才コンビかよって思うときがあるぞ。」
まあ、佐藤さん以外のMotyのメンバーとは前回の結婚式で上下関係が作られているからだとは思うが・・・。
「そうね。父も良く漏らしているわ。新商品発表会で相方として使いたいって。」
うわー。もう暴走決定だ。
新商品発表会ではツッコミ役が客席に居るから、それなりに進行していくが隣に居たら・・・。ふう、くわばらくわばら。
「ここ見晴らしが良いのはいいが・・・誰も会いにこないな。一応、脇から上がってこれるようになっているんだが。」
「それは仕方が無いんじゃない。誰でも見世物になりたくないもの。まあ、そのうちお酒が入ってきたら誰か来てくれるって。何、寂しいの。」
やっぱり見世物だよな。幸子にサクラでもやらせるべきだっただろうか。
「ああ、うちの会社の人間はフレンドリーだから従業員がすぐ近くに居るのが普通だったんだが、やっぱり、同じ席に芸能人とか居るせいかな。」
俺が広報担当になったことで、ZiphoneでCM起用した芸能人やゴン氏の知り合いの芸能人に招待状を出しているのだ。逆にゴン氏の政財界の友人は少ない。
俺のほうは招待客の大部分が従業員でごく僅かに友人居るだけだ。気軽に来てもらえるように着席ビッフェ形式して、従業員にはお祝いも2万円以下にするように言ってある。
「まあ、大丈夫よ。新生Motyのお披露目で盛り上がったら、雰囲気も変わるわ。」
「今から緊張してきた。あのメンバーの中で俺だけ素人なんだぞ。」
「大丈夫よトムは、本番に強いじゃない。リハーサルでは上手くできたんでしょ。」
「そう言うがな。相手はプロなんだぞ。俺のドタバタ劇なんか見せて大丈夫かな。」
演出はメンバー全員で決めたとはいえ、俺ができる範囲内だ。
「大丈夫。芸能人が居るような結婚式は沢山出たけど、皆さん楽しむことにもプロなのよ。」




