第1章-第1話 披露宴
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「5人で歌わないの? 解散以降あの4人が揃っていることなんて珍しいのに・・・。」
「そうだな。頼んでみるよ。」
それにしても、あんなことがあって、こちらの世界では1日しか過ぎて居ないはずなのに全然、落ち込んでいないじゃないか。もっと暗い顔で出迎えされると思っていただけに複雑な気分だ。
*
Motyはアイドルグループだ。キタ・シャニーズ事務所は、多くのアイドルグループを送り出していることで有名だが、このグループは異質だ。デビューは早かったのだが10年近く下積みに近い境遇だったのだが、各個人がそれぞれ固有の才能を発揮して、テレビ番組のレギュラーをもぎ取ったことでグループが注目され歌もヒットして一躍有名になったのだ。
北村多久実。愛称がキタムー。最後の正統派美男子と言われた彼は俳優に目覚め、その演技力は本職の俳優を凌ぐと言われている。その長身と甘いマスクは世の女性たちを魅了してやまないらしい。
世間では、考え方のしっかりした男と知られているらしいが、その実、高校時代から俺の真似をするのが得意だったりする。
男性アイドルとは世の女性たちにご奉仕するものだ。と言った俺の言葉を覚えていたらしくその通り実行してきたのだが、俺が結婚すると途端に宗旨替えをして、有名アイドルを口説き落とし結婚してしまったのだ。しかも、彼女の歌手生活を応援すると言っていたくせに、俺にアキエが授かると子供ももうけてしまった。といういい加減さだ。
「やっぱり無理か。」
「そうですね。事務所が厳しいので4人揃って舞台に立つのは無理そうです。それから、前回と同様にメンバーに対する写真撮影やビデオ撮影に関するアナウンスをお願いします。」
「本当に厳しいな。何かあったらキタ・シャニーズ芸能事務所の兄が経営する法律事務所がすぐ訴訟を興すとか聞いたぞ。」
「ヒロ・シャニーズ法律事務所ですね。流石は先輩。詳しいですね。」
「煽てたって何も出ないよ。今度、Ziphoneで広報を任せられることになったから色々と勉強しているんだ。」
「先輩がZiphoneの副社長ですか凄いですね。しかも、あのゴン氏の娘婿になるなんて。流石は先輩。」
この通り、高校時代から『流石は先輩』が口癖で褒められているのかバカにされているのかよく分からないんだよなコイツの場合。まあ、他のメンバーもそうだが有名になったのに俺が呼べば披露宴に来てくれるんだ良い風に考えておこう。
「それで4人揃ってなければ大丈夫なんだな。他のメンバーにも聞いてみるが、他の3人が結託してお前がひとりになったら、どうする。止めとくか?」
高校時代は、Motyメンバーの加藤千吾と良くツルんで居たのを覚えているが、解散当時の噂では、彼と仲違いをしたという噂だったんだよな。
他のメンバーの中田雅美は板垣吉右衛門と友達で俺の周囲に居たときから、コイツとは良く喧嘩してたから不思議じゃないんだけど、何があったんだろう。
「そんな勿体無い。先輩とデュエットできるチャンスを逃すはずが、ありませんよ。彼らに感謝したいくらいだ。」
「それを言うなら、デュオだろ。まだ、決まってないってーの。いかんいかん、どうもお前と居ると感覚が学生時代に戻ってしまう。」
「それは嬉しいです。先輩ならまだまだ高校生でもイケますって。」
「4・・・40のおっさんを捕まえて高校生は無いだろう。」
うっかり、44と言ってしまうところだった。異世界で4年も過ごして彼らよりも5歳も年上だというのに高校生はヤメテくれと言いたい。
「お前も30歳から変わらないな。やっぱり、腹は割れてるのか?」
そう言ってお腹の当たりを触ってみるとやはり固い。相当鍛えているみたいだ。まあ、これも俺がお腹が出ているアイドルなんて最低だ。と言ったせいみたいなんだよな。
コイツの前でアイドル論なんぞ言った俺が悪かったんだろうが・・・。
「・・・・・・・・・。」
「お前、何フニャけた顔をしているんだ。」
コイツいつもそうなんだよな。俺があんなことを言い出したせいで鍛えだして、俺が触ってやると突然目を閉じてだらしない顔をするのだ。まるで犬がお腹を撫でられているような顔だ。
「あっ・・・ごめんなさい。」
「何を謝っているんだか。どうだ。俺の腹も学生時代に戻ってきただろ。これなら、十分アイドルをやれそうだ。」
俺は彼の手をお腹に持ってくる。彼は恐る恐る触ってくるのだが・・・。
「そこは胸だ。・・・そこは太腿だ。・・・そこは・・・どこまで触る気だ?」
そのまま、足首に向かおうとする手を掴む。