第12章-第164話 こくはく
お読み頂きましてありがとうございます。
「気がついたか。アポロディーナ。」
周囲がうるさかったのだろうか。アポロディーナが目を覚ます。
「伯爵。私・・・私・・・わぁーーー!」
アポロディーナは俺の顔を確認すると俺に抱きつき大声を出して泣き出した。
「大丈夫だ。俺はここにいる。よしよし・・・。」
十分ほど経っただろうか。流石に涙が枯れたようで、少し恥ずかしげに顔を上げる。
「大変だったな。子供のことは何と言っていいかわからないが・・・。傍についててやれなくてすまなかった。」
「それはいいの。でも、私・・・私・・・沢山の人たちを・・・。」
どうやら、アポロとして行動していたときのことを覚えているようだ。やっかいだな。覚えていなければ、帰ってしまう俺たちを除けば、このことを知っているのはクリスティーだけだ。
クリスティーのことだ。このまま、墓場まで秘密を守り通すだろうことは想像できる。この先何百年だろうが・・・。そうすれば、このままハッピーエンドで良かったのだ。
「覚えているのか?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「伯爵を召喚するまでは、夢だと思っていたの・・・。
でも、皆の前にいるのが耐えられなくなって、この思い出の場所で生きようと・・・ダンジョンを作れば作るほど、伯爵に会いたくて会いたくて・・・会えないとわかっているのに・・・クリスティーが迎えにきてくれても、憎悪しかおぼえなくて、その自分に絶望したら、夢の中に捕らえられてしまったの。」
アポロディーナが一気に気持ちを吐露する。クリスなど他の女性の子供たちが居なければ違っていただろうが・・・。
「そうか。」
俺はバカみたいに相槌を打つしかできない。
「・・・でも、私のしたことだもの。皆の前で告白して裁いてもらわなければ・・・。」
そうだよな。アポロディーナの性格ではそうなってしまうよな。
「告白しても何も良いとは思えない。憎悪がアポロディーナに向かえばいいほうで、そこまで追い詰められていたことを放置していた自分たちを責めると思うぞ。」
俺は全く逆の側面の話を持ち出して説得を試みる。
「そうよ。私も伯爵に言われるまで、あの男が取り憑いていることを見破れなかったわ。」
クリスティーよ。それはそれで問題だと思うぞ。まあ惚れた弱みなのだろうが・・・。
「この迷宮のダンジョンマスターとしてアポロディーナの傍に居続けたクリスティーがこう言っているんだ。ここにいる皆が黙っていれば誰にもわからないさ。」
アポロディーナに成りすましたあの男に何かを言われたのだろう。今までどこのダンジョンも所有せず自由に生きてきたクリスティーがこの迷宮のダンジョンマスターとなっていた。
「そうよ。アポロディーナさんは悪くない。悪いのは取り憑いていたあの男。」
渚佑子が簡潔に物事をまとめる。まあ、確かにそうなんだけど・・・。
「渚佑子の言ったことが、皆の総意だ。告白したところで誰も幸せにならない。」
「それでも・・・このままじゃあ、生きていけないの!」
やっぱり説得は無理か・・・。
「わかった。それじゃあ、行こう。」