第4章-第28話 らいばる
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「えっ、クララを雇うんですか。もしかして私はお払い箱ですか?」
「いや、そんなことはないよ。でも、5日に1日くらいは休みたいだろ。それに休憩時間も必要だし・・・だから・・・。なに、嫌なのか?」
「なら、わたくしが働きますわ。マイヤーはお払い箱ということで・・。」
「いや、マイヤーの空間魔法が無いと困るから・・・。」
「空間魔法なら、わたくしのほうが優秀ですわよ。なにせ、9999個のものを100種類まで収納できますわよ。」
利便性で言えばマイヤーだが、ことメッツバーガーならこっちのほうが・・・。それにしても、エミーさんが言っていたことと違うな。なんかライバル心剥きだしというか・・・。
「なによ。誰が教えてあげたと思っているのよ。それにこの子、子供の頃、足が不自由だったから身体のバランスがおかしいのよ。」
「なんですってぇ。もう丈夫になりました。ええ、おかげさまでね。」
「それは、私が治してあげたからでしょ。邪魔しないでよ。ここは私の大事な職場なんだから。」
「それは感謝しているけど。それはそれ、これはこれよ。負けるもんですか。」
「まあまあ。その辺で二人とも必要なんですから、マイヤーには、こちらの店にべったりではなくて交互にアキエの傍にも居てください。そのためには、クララさんの力が必要なんですから。」
「はあ。まあ、トム殿がそう仰るのでしたら。」
「わたくしも異存ありませんわ。」
「じゃ、これを着てください。」
実は、FCの倉庫から古い制服が出てきたので持ってきたのだ。やはり、メッツバーガーの売り子は、この格好じゃないとね。
・・・・・・・
「うわー、メッツのおねえさんだ。いいなぁ。アキエも大きくなったら、メッツのおねえさんになりたい!」
「なれるさ。俺の子供だもの、大きくなればアキエが店長さ。」
「うん、なる。アキエ店長になる。」
「わたしも着てみたいです。」
突然、エトランジュ様が飛んでもないことを言い出した。
「はあ、・・・陛下どうしましょう?」
「うん、別にかまわんぞ。」
エトランジュ様が裏で着替え終わって出てくる。うわー、他の二人とは違い胸とお尻のボリュームが・・・。むむむ、凄い色っぽい。他の二人が霞んでみえる。
とりあえず俺は腐敗しない袋から、ハンバーガーとポテトとドリンクコップを取り出しマイヤーに預ける。そしてドリンクの濃縮液も手渡す。注ぎ分けるのがめんどくさくなって、業者に無理を言って売ってもらったのだ、パーティーで使うと言って・・・。
ドリンク作りはエトランジュ様に軍配があがった。あんなに優雅なのにどうして、あのスピードがだせるのだろう。おっとりしているから、もっと、もたもたしているかと思ったのだが・・・。
よっぽど、マイヤーの方が下手だった。クララと大して変わらない。
あとは笑顔かスマイル0円だものな。俺は、笑顔を心がけるように言う。
ここでも、エトランジュ様に軍配があがった。なんで、そんな引きつった笑みなんだマイヤー。うそ臭いぞクララ。エトランジュ様の微笑みは、もう完敗ですと言いたいくらいだ。
これで、空間魔法が使えたら、エトランジュ様に任せたいくらいだ。
「使えますわよ。私のは専門家に比べると劣りますので、1999個で30種類ですけど。」
うわー、メッツバーガー7日分の売り上げで考えるとぴったりな量だ。考えない考えない、エトランジュ様に任せたいなんて・・・。相手は王妃様なんだから・・・。
でも売り子をする姿は、とても楽しそうだった。
「これは陛下、こんな下々までいらっしゃって。ちゃんと護衛はつれてきたのでしょうね。」
「ああ、大尉か。ああ、密かに近衛の中隊が控えておるぞ。それに、侍女も精鋭の方をつれてきたから大丈夫だ。」
「エトランジュまで、なにをしてるの?」
「フォリー、久しぶり。楽しいのよ。売り子というのをさせていただいているんだけど、貴女も買っていきなさいよ。」
「もちろん。買うために来たんだから買うわよ。よかったわ。今日は開いててエトランジュは余分だけど・・・。」
「なによ。みんな褒めてくださるのよ。」
「まあエトランジュほどの器量があればね。それに器用だもの、貴女は。」
「なに、同じ顔で言ってるの。」
「私はエトランジュほど、自然な笑顔っていうのが出せないのよ。まあ職業柄そのほうがいいんだけどね。エトランジュ、いくら楽しくてもダメよ。ここで勤めたいなんて思っては貴女の売り上げよりも護衛にかかる費用のほうが、高いんですからね。」
「わかっているわ。でもすこしくらい夢みてもいいじゃない。マイヤーも居るんだし。」
「解ってない。今日だって、どれだけの部隊が動いていると思っているのよ。」
「それは、陛下が・・・。」
「まあ、そのへんで許してやってくれないかのう。エトランジュも今日は特別だ。十分楽しみなさい。普段、外へ連れ出してやれないからな。」
「はい、ありがとうございます。」
・・・・・・・
エトランジュ様の笑顔のせいなのか。それとも、陛下に挨拶ついでに買う人が多かったせいなのか、それとも護衛部隊が買いにきていたのか。脅威的な売り上げを叩き出した。
マイヤーが休んでいた分どころか、今回持ってきた分の一部まですべて売り上げたのだ。もちろん、トップセールはエトランジュ様で2番手はマイヤーだった。
それぞれ、エトランジュ様とマイヤーには、売り上げの5%を渡した。クララには、100Gだ。マイヤーと売り上げが並んだら、歩合に切り替えることにした。
「こんなにも貰っていいのかしら。普通の日給は100Gくらいって聞いたことがあるわ。」
「もうエトランジュは世間しらずね。この短時間なら50Gくらいよ。100Gでも多すぎるわ。」
「まあまあ、受け取ってください。マイヤーとも、この契約をしているんですから、そのマイヤーより多く売り上げたのに、それ以下なんておかしいじゃないですか。」
・・・・・・・
帰りがけに100Gショップに顔を出す。相変わらず、侍女たちの視線が厳しい。
「まあ、君たちもその辺にしておいてくれないか?アキエにとってはやさしいお兄さんなんだから、なあアキエ。」
「うん、ツトムお兄ちゃんは好きよ。おばあちゃんも大好き。優しくしてくれたもん。」
「だからアキエにとっては、よく知っている人物なんだ。まあ将来、本当のことを知ったときにどうなるか解からないけど。今は必要な人間なんだから。大目にみてやってくれよ。」
「はい、わかりました。すみませんでした。」
「いや、とんでもない。アキエのために怒ってくれてうれしいよ。ありがとう。」
100Gショップを見てたエトランジュ様が商品を手に持ってきた。
「あなた、これ買ってもいい?」
「ああ沢山、給与貰ったんだろ。自分の働いたお金だ。好きに使ったらいい。それとも、わしに買って欲しいのか?それは、別に構わないが・・・。」
「そうね。自分で働いたお金で買うというのも、初めての経験よ。じゃあ、これください。」
あれっ、こんなところにUSB扇風機が・・・。エトランジュ様なら、俺のPCにつなげば使えないこともないか。ツトムの奴、何を出しているんだ。異世界にUSBポートが無いだろうが。
「100Gになります。」
侍女たちも、乾電池式の扇風機やピーラー、スライサー、キッチン鋏に園芸鋏、LED懐中電灯を買っている。こっちは経費なんだか個人なんだか。
「わしは、あれが欲しいのう。」
セイヤが指を指すところには、扇風機が動いていた。
「あなた、ズルいですわ。私がこの小さいので我慢しようと思っていたのに・・・。」
「そうですね。ギリギリ、執務室でなら使えると思いますが、ご入用ですか。」
「しかも、執務室で1人で使おうだなんて・・・。ズルいです。」
実は、アタッシュケース型太陽光発電機は大工さんにきてもらった時にアキエの部屋の窓に設置済みだし。扇風機も置いてある。
扇風機が必要なくらい暑くなれば、アキエの部屋に退避しようと考えていたのだ。まあ、ここは土地柄、エアコンが必要なところではないみたいだから、扇風機で十分だろう。
でもまあ、ここはセイヤがなじられるシーンだし、そっとしておこう。
いいですよね。扇風機だけでいい世界。