第12章-第159話 おてあげ
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「硬いな。」
「硬いですね。」
この階のラスボスに手こずっていたのだ。
タンタローネのダンジョンでも出会ったことがある。中央に耐久性の高い大きな敵が居て、周囲にぐるりと沢山の小さな敵が居るタイプのラスボスだ。
中央の敵はゴーレムだからいいのだが、周囲の敵が愛らしい姿をした小動物・・・生まれたばかりの子犬の形態を取っており、近寄っていくとお腹を撫でてとばかりにひっくり返り、無垢な瞳でくぅーんと鳴くのである。
とても攻撃することなんてできない。今回は渚佑子でも無理だった。全く敵意が感じられないそうだ。演技でもないらしい。
しかも、中央のゴーレムに対して、『ファイアボール』などの飛び道具で攻撃しても、周囲の子犬たちが一斉に悲しそうに鳴くのである。
ゴーレムに対して接近戦に持ち込もうと渚佑子が近寄っていくと子犬たちに群がられて止められてしまった。仕方が無いので子犬たちの下敷きにされた恍惚とした表情の渚佑子を引き出すと睨まれてしまった。
「思いっきり、モフモフを楽しんでいたのに・・・。」
「本当に楽しそうだな。」
あんな恍惚とした表情は見たことがない。前に犬を飼っていたと言っていたから、その子犬のころでも思い出しているのかもしれない。
「ふふふ。だって、ここなら痴女扱いされないでしょ。」
でも、返って来た言葉にとんでもない単語が入っていて驚く。
「痴女!!」
「ええ、獣人にモフモフすると痴漢扱いを受ける国があって、知らずにモフモフした親友が痴女扱いされたんですよ。」
心底、楽しそうに言う。凄く親しい友達だったんだろう。小馬鹿にした感じは全くない。
「その国に入るときに注意を受けなかったのか?」
「受けました・・・が、そのとき親友は情報収集のために席を外していたんですよ。」
「後で教えてあげなかったのか?」
「勇哉に止められて・・・獣人とはいえ、人間に触りまくって痴漢扱いされるのだから、普通しないだろう・・・って。」
前に聞いたときには、渚佑子はその世界で『勇者』として活躍していたはず。『勇者』なのに痴女か・・・超有名な痴女になってしまうだろう。俺ならその国に居られないな。
「それでどうしたんだ?」
「彼女はずっと男装して過ごしていましたよ。痴漢行為自体は反省せず、いつも触りたそうにしていましたが・・・。」
それはある種の自業自得かもしれない。
*
「これは、お手上げだな。」
「これは、お手上げですね。」
「渚佑子、ついてこい『フライ』」
俺は、ゴーレムの頭の上までくる。
「何か秘策があるんですね。」
「いや別に秘策ってわけでも無いんだがな。」
俺は、天井の壁をレイピアで切り裂くと、壁がゴーレムに落ちていく。こんなんでもダメージがあるらしいく。周囲の子犬たちが一斉に鳴く。
「いくぞ。渚佑子。」
例によって、天井の穴が収縮しだすが構わず、レイピアで切り裂いていくが広げていく。大人2人分の穴が開いたところで声をかけた。
もちろん、このラスボスをスキップするのである。大抵のダンジョンにおいて、ラスボスを倒すとラスボスの出現位置に階段が現れるので考えた荒業である。
「こんな手段があるなら、早く言ってくださいよ。」
次の階に降り立つと渚佑子が文句を言っていくる。
「うん、何か言ったか?」
俺は耳栓を外しながら、言葉を返すと、俺を指差しながらブルブルと震えている。
「な・・・な・・・なんで、そ・・・そんなもの・・・を?」
「ああ、これか? 自空間に放り込んであった100円ショップの在庫なんだが・・・何を怒っているんだ?」
天井から壁が落ちてくるのは分かっていたのだが、子犬たちの鳴き声を聞きながらでは上手く天井を切り裂けないし、渚佑子が耳栓をしていたら、合図を聞き逃すかもしれないので渡していなかったのだ。
「耳栓を私が付けて、ゴーレムを直接攻撃すればよかったんでは無いのでしょうか?」
「これはひとつしか無いんだぞ。その間中、俺はあの鳴き声を聞き続けなくてはならないのか? 嫌だ。嫌に決まってるじゃないか。俺にも『ファイアボール』くらい撃てるぞ。数百回の子犬たちの鳴き声を聞いてみるか?」
そもそも、この耳栓にしても完全に防げないしな。
「嫌です。嫌に決まっているじゃないですか。」
「だから、この方法を取ったんだが・・・。」
痴女扱いされた渚佑子の親友アレクサンドラが活躍した
蜘條ユリイ名義「オタクの悪役令嬢は復讐を果たせる?」完結しました。
http://ncode.syosetu.com/n8132dh/
もちろん痴女エピソードも収録されています(笑)




