第12章-第157話 くぎょう
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「さて、腹ごしらえでもするか。」
久々に自空間からうな丼を取り出す。ガイ教皇用に多めに用意してきたのが無駄になってしまった。実は、あの後、渚佑子の『知識』スキルで調べてもらったら、この世界には鰻という生き物が居なかったのだ。
「のんきですね。少しくらい焦ったらどうですか?」
「わかった。わかった。渚佑子の分は無しということで・・・。」
俺は、渚佑子の分のうな丼をしまいながらいう。
「そんなことを言っていないじゃないですか! 私もカップサラダ付きでください。」
俺は自分のうな丼の隣に取り出したカップサラダを置き、改めてうな丼を取り出して、渚佑子に渡す。
「あれっ。俺のうな丼が無い。」
「私のカップサラダも無い。」
俺がうな丼とカップサラダを置いた空間には、ぽっかりと穴が開いていたのだ。
「うわああ『フライ』「掴まって!」」
その穴の広がり方が何か躊躇するように一瞬止まっていたが、そのまま俺たちの足元へ移動しようとしてきたのである。魔術師としての経験値の差がはっきりとでてしまった。悲鳴をあげて逃げる俺と魔法を唱えて浮かびあがる渚佑子にである。
情けないことにそのまま渚佑子に掴まる。
「ふふふ。」
「笑うなよ。自分で魔法を唱えるから、降ろしてくれ。」
「ダメよ。『探索』こっち。複数同時に唱えられないでしょ。何かがあったとき用に境渡り魔法の準備をしていて。」
そうなのだ。『勇者』だけの特権として、干渉しあわない魔法ならば、複数同時に起動することができるのである。
異世界に渡る魔法ならば、このダンジョンでも移動手段として使えるのだ。だがそれは最後の手段として残しておきたい。日本に渡ったのが10分としてもこちらでは数日経過するのはもったいない。
「俺はこのままなのか?」
どう見ても無様だ。俺よりもさらに小さい渚佑子と空中で抱き合っているのである。
「ええ。それともお姫様抱っこのほうがよかった? ふふふ。」
さらに無様な格好を想像する。なんてことを考えるんだ。恐ろしい・・・子。
「絶対に嫌だ。でも渚佑子は嫌じゃないのか?」
「なんで?」
「いや嫌じゃなければ、それでいいんだ。」
男性に対して潔癖症なのかと思ったんだが、そういうわけでもないのか。そういえば渚佑子と一緒にお風呂に入ったっけ。いやいやいや。俺は慌てて想像を打ち消す。
一瞬、下半身が反応しかけたのだ。流石にこの状況下で軽蔑されたくない。南無南無南無。
「レアのMPポーションをください。」
「・・・えっ・・・渡さなかったか?」
レアのMPポーションをアヤから渡されたとき1割ほど渚佑子に渡したはずなのだが・・・。
「・・・ちょうど、今切れていまして・・・アンコモンなら山ほどあるのですが・・・。」
「わかった。」
そして、自空間からレアのMPポーションを取り出してから気付く。二人の両手が塞がっていることを・・・。手探りで手渡せばできないことは無いのだが、下手なところを触って軽蔑されたくない。これは、何の罰ゲームだ?
「どうやって、渡せばいいんだ。」
「・・・く・ち・う・つ・し・で・・。」
流石に渚佑子の声が小さくなる。
口移し?
できないことは無いけれど、ポーションの量からして10回ほどかける必要がある。
この密着した状況下で10回も渚佑子の見ながら口移しで渡す。しかも、下半身が反応しないように慎重にだ。なんて苦行なんだ。
「もうすぐ、ボスの部屋です。早く・・・。」
「う・・・ん。わかった。」
俺はポーションを口に含み。僅かに身体をズラして渚佑子と見つめあう。相変わらず、綺麗な子だよな。この子とキス・・・それも濃いやつにしないと漏れてしまう。
渚佑子の僅かに開いた唇に自分の唇を重ねる。
「・・・ん・・・ふ・・・ぁ。」
鎮まれ・鎮まれ・・鎮まれ・・・鎮まれ・・・・これをあと9回もするのか?




