第12章-第153話 永遠
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「ティナ!」
「はい。あのですね。すぐに集まれる中で現役冒険者が15名でして・・・」
ダンジョンに入るには、前後左右に4人ずつ配置して攻略に当たるのがベストだ。指揮するのは俺と渚佑子だから、計算上あと1人足らない。しかし、渚佑子を遊撃と考えれば下手な人材を入れるよりもいいはずなのだが・・・どうしても、ティナ本人が同行したかったようだ。
「ティナは最後に入ったのはいつだ?」
「・・・半年前です。」
意外と最近まで現役だったんだな。
「退役の理由は?」
「・・・定年になったからであります。」
半官半民の攻略部隊は超国家的集団だったが、元々はアルテミス国所属の騎士団扱いだった関係上、組織はそれに準じた形になっている。攻略部隊を解散したのだから、1民間人として冒険者を何時まで続行するかは、本人の判断により自由に決めていいことだ。
だが俺は日頃から攻略部隊を抜けても定年になれば、必ず退役するように指導してきたのだ。自分では自分の衰えをなかなか自覚できない。甘い点数をつけがちになるのが常だ。
そういった教えをティナは覚えていたのだろう。
「全盛期とくらべるとどのくらいだと思う? 30%か? 50%か?」
ここで80%以上の数値を言ってくるようでは問題だ。衰えを自覚できていない。
「そうですね。60%といったところですね。」
微妙な数値だな。彼女の全盛期の60%の力が本当に残っていれば、十分な働きをすることができるに違いない。
「渚佑子。すまないが『鑑定』スキルで彼女を見てやってくれないか?」
加齢により最大HPや最大MPが落ちているはずだ。そこを目安にすれば判断することができるだろう。まあ、本当に足手まといならば、空間連結の『扉』を使用して、戻ってくればいい問題なのだが・・・。
「・・・30%減程度ですね。どうされます? 彼女が居なくても、私が遊撃に回れば十分補えると、思いますが・・・。」
2人とも採点は辛いらしい。
「うーん。よし、連れて行こう。渚佑子には傍に居て欲しいからな。」
俺は渚佑子に全幅の信頼を寄せているのと同時に自分の能力を疑っているのだ。特に精神的ダメージがどう影響がでているか分からないのが不安だ。いざとなれば、指揮権を譲れるだけの力量がある渚佑子か傍にいるのといないのでは随分違いがあるのだ。
だが、そんなことはカケラも見せずに指示する。皆を不安にさせることも無いからな。まあ、渚佑子はそんな状況も把握しているだろうけど・・・。
「待って!」
そこでローズ婆さんからクレームが付いた。
「彼・・・クリスJr・ヤーマダを同行させてやって。」
ヤーマダ姓を名乗るということは俺の子供らしい。
見た目は18歳くらいか。ということは・・・。
「クリスティーの子供か? 能力は?」
「もちろん、クリスティーの折り紙つきよ。私も保証するわ。」
ええっ・・・母親と祖母の保証じゃあな。世の中で一番採点が甘いと言わざるをえない・・・。
「渚佑子はどう思う?」
「・・・職業ステータス的には十分に能力があります。」
『鑑定』スキルで確認しつつ慎重な言葉で答えてくれる。
「だそうだが、ティナはどう思う?」
彼が入るとティナが抜けることになることは分かっているはずだが、返ってきた答は意外なものだった。
「そうですね。クリスティーに聞いていた話からすると、デビューするのには問題ないかと・・・。」
ふーん。母親としては、母親を思う子供を放っておけない。と、いうことかもしれないな。
「お前はどう思うんだ。行きたいのか? 行きたくないのか?」
彼は先ほどから、何も喋っていない。行きたいというのもローズ婆さんを通してだ。発言が出来ないような人間なら、連れて行くことは出来ない。
「行きたいさ。行きたいに決まっているだろ。だけど・・・あんたの指揮下に入りたくないだけだ。」
それは分かっていたことだ。彼の睨みつけるような視線が全てを物語っている。
「それなら・・・無理をするな。俺がさっさと救出してくるから・・・デビューはママに手伝って貰え・・・。」
攻略はチームワークが全てだ。指揮官に従えないのでは話にならない・・・。
「なんだと・・・。ふざけるな・・・なぜ、母の救出に俺が行けないんだ・・・そんなのアリかよ。」
「他の人間を危険に晒せないんだ。そんなこともわからんのか? デビューにはまだ早いんじゃないか?」
「・・・っ。」
ほう・・・。意外と我慢はできるらしい。これなら、まだ見込みはありそうだな。
「ローズさんも婆バカはいいかげんにしてください。俺は真剣に攻略を望んでいるんです・・・。」
「ローズさんは関係ないだろ・・・」
孫にまで、婆さん扱いしないように仕込んでいるらしい。昔ならまだしも、今のローズ婆さんの姿でとは恐れ入る。
「それで?」
俺は出来るだけ冷淡に言ってやる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。お願いします。連れて行ってください・・・この通りだ。」
相当な葛藤があったのだろう。唇から血が出ている・・・目の前で土下座してお願いされたのでは・・・仕方が無い・・・。
「というわけだ。ティナ。ティナはどうする?」
「・・・・・私は、彼のサポーターとして参加します・・・。」
ふふふ。考えたな・・・。デビューする冒険者にはサポーターがつくことが多い。いざというときに冒険者を引きずり倒してでも無理をさせず、身を挺して代役を務めなければならない難しい役割だ。
「お前! それでいいか?」
「・・・ぐぬぬ・・・。ああ、よろしくお願いします。」
本来サポーターはヨチヨチ歩きの新米冒険者に対するものでクリスティーがデビューしても良いと判断したレベルよりも随分下のはずだ。それでも我慢して挨拶ができるだけでもマシだろう。