第11章-第149話 かぞく
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「あ。トム。」
「やあ、ティナ。久しぶり。」
ティナは変わってなかった。普通に年齢を重ね、普通に貫禄ができ、普通に皺だらけの顔になっていた。もう還暦だものな。
「怒ってらっしゃいますよね。警告を無視して押し倒したこと。これは、罰ですか。こんな姿の私を笑いにいらっしゃったのですか。」
まあ確かにティナに押し倒されたあと、怒涛のごとく半ば強引に関係を持とうとする攻略者たちから逃げ回るのは大変だった。中には寝ている最中に裸にされ、文字通り押し倒されたケースもあり、夜眠れない日々を送り続けることになったのには参った。
「俺がそんな男だと思っているのか?」
「そんなはずは無いですよね。」
「母さん? その人が・・・。」
ティナの傍らに居た若い男がこちらを振り向き驚いた顔をしている。
「ええそうよ。失礼しました。息子のテオ・ヤーマダです。恐れながらヤーマダ姓を名乗らせております。あれから、皆で決めたのですよ。攻略部隊は皆が伯爵の家族なのだからと。」
「90人の家族か。それは嬉しいな。}
「ねえ母さん。嘘でしょ。どう見ても俺より若いぜ。若作りだとしても10歳は違わないはず。ということは、10歳の子供と関係を持ったのかよ?」
相変わらず若くみられるのは構わないが、自分の息子よりも若いと思われるなんて俺はローズ婆さんのような化け物じゃないんだがなぁ。
「違うのよ。伯爵の住んでらっしゃる世界は時間の進みが遅いのよ。だから、あれから1ヶ月も経っていないはず・・・そうですよね。伯爵。」
「俺って。言ってあったんだな。皆の前で話した覚えはなかったんだが・・・。」
「聞きましたわ。寝物語にですけどね。」
ティナは皺だらけの顔をくしゃくしゃにしながら笑う。
「良く覚えているな。君の人生からするとほんの一瞬だったろうに・・・。」
「もちろんです。あのときの言葉は一字一句忘れません。私が押し倒したことなど無かったことにように優しく語り掛けてくださったのを良く覚えています。」
まあ強引にベッドで主導権を奪い返したものの関係をもったことには変わりはないわけで・・・。恥ずかしかったんだろうな。俺のほうは、あれから大した時を経ていないというのに碌々覚えていない。脈絡もなくただただ話し続けたような覚えがある。
おそらくたった数時間の逢瀬とはいえ、関係を持ったあとそれから何十年と続く彼女の人生にプラスになればと必死にこれまで培った人生経験の全てをさらけ出したのかもしれない。
そのお陰なのか。ティナを含め彼女たちは一度で満足してくれたようで、二度と押し倒しにくるようなことは無かったのだから、それなりに効果はあったのかもしれない。
「じゃあ、今度代わりに君の人生で得たものを寝物語できかせてくれるかな。」
「えっ・・・こんなお婆ちゃんを抱いてくださるんですか?」
「もちろんだよ。君との逢瀬で話したことが本当に役にたったか知りたいからね。ただ、心配なのは君に既に相手が居るだろうということなんだけどな。」
「いませんよ。私を含め、攻略者全員、独身を貫き通しています。」
「そうなのか? もったいない。俺は話さなかっただろうか。俺のことを忘れてもかまわないから、素敵な男性と恋をしてくれって。」
「はい。お聞きしましたが・・・伯爵よりも素敵な男性なんて・・・どこにも居ませんよ。」
「そうなのか? 俺なんかよりも君だけを一生思い続けてくれる男性が居ると思ったんだがな・・・。」
「もちろん。そういう方もいらっしゃったけど、伯爵を想い続けるほうが私にとっては幸せでしたから・・・。」
そうか。こちらの世界では多くの女性を抱える男性が多い。日本のように1人の女性を一生想い続ける男性の希少価値は受け入れがたいのかもしれないな。
「クリスティーのことは聞いているか? クリスティーが向かったダンジョンへ行きたいと想うのだが、準備をお願いできないだろうか? アルテミス国内の範囲で同行できそうな人間の選別をしてもらいたい。」
「はい。わかりました。」
ティナが真剣な目つきで答えてくれる。
「一応言っておくが現役だけの構成だぞ。分かっているよな。ティナならば・・・。」
「えっ・・・私を連れて行ってはくださらないので?」
「ああ・・・酷い言い方だが足手まといは要らない。本気で攻略するともりなんだ。」
「そんな・・・命をかけて伯爵をお守りしたかったのに・・・。」
「それが困ると言うんだ。それでは共倒れになり兼ねない。俺はそう指導したはずだが・・・覚えていないのか?」
「申し訳ありません。感情が先走ってしまいました。わかりました。現役のみの構成で考えておきます。いつごろまでにご用意すればよろしいでしょうか?」
「そうだな。各国1日で回ると考えて最短で5日後には欲しいな。」




