第11章-第148話 せいか
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「おおっ、アンドリュー・ディテオール・クリスチャン・アルバート・エドワード・アルテミス殿ではありませんか!」
アルテミス国の王都の地下迷宮にローズ婆さんの案内で潜ると懐かしい人と出会った。
「わしは、そんな長い名前の人間じゃないわい。小間物問屋エド屋の隠居じじいのアンドレじゃよ。」
今はそういう設定なのか?
しかし、生きておられた。よかったよかった。代がわりをされたと聞いたから、てっきりお亡くなりになったものとばかり思っていたのだが・・・。
「メルハンデス殿もご健在ですか?」
「そうじゃそうじゃ。トム殿じゃろ、あやつに要らない知恵を付けて長生きさせたのは・・・?」
実は今回もう一つ目的があったのである。前回、メルハンデス殿とガイ教皇にMPとHPを伸ばせば、長生きができると教えた結果を確認しにきたのである。
メルハンデス殿は若い頃、騎士として名をはせたそうで、HPが多く。MPが少ない。ガイ教皇は、魔術師としてばかり伸ばしたせいかHPが少なく、MPが多かったのである。
この両極端な2人がどこまで数値を伸ばせているかも、興味深いところだったのだが・・・。
「急に魔法が使えるようになって、わしの邪魔ばかりするようになってな。去年、亡くなるまでずっと付き纏いやがったわ。」
アンディ老は、さも楽しそうにメルハンデス殿の悪口を言っていた。
「ええっ。あの人の長生きの理由がそんなところにあったの? 私がそのことでどれだけ苦労したと思っているの。なんてことをしてくれるのよ!」
ローズ婆さんのほうは心底嫌そうに言う。誰が苦労してるんだか。きっと、苦労したのはメルハンデス殿のほうだろう。夫なんていないとばかりの浮気者っぷりは凄まじいとしか言いようがない。
そうか。メルハンデス殿は亡くなったか。それは残念だったな。だか、あれから26年も生きたとしたら、100歳は遥かに越えていただろう、大往生に違いない。
あの当時、既に先が見えていたメルハンデス殿は、まるで達観するかのようにローズ婆さんのやることをみつめていたからな。少しでもあがけたのならば、長生きできる方法を教えた甲斐があったというものだ。
「そういえば、アレを持ってきてくれたのでしょうね。」
「アレってなんだ?」
「えっ。持ってきてないの? 化粧品よ化粧品。」
「もちろん、持ってきてないさ。持ってくるわけないだろ。」
実は、異世界でまたしてもミンツに渡しそびれた化粧品セットがいくつか、自空間に入っているのだが、タダで渡すのも癪だからな。そんなに欲しいのなら、何かと引き換えでいいかな。
「まさか。ガイ教皇も亡くなったのか?」
ヤリ殺したんじゃないだろうな。ということは、ガイ教皇は、あの手段を使って長生きを試みなかったということか。まあ、ああいうズルは、あいつの『正義』スキルに反している気がしたんだ。仕方が無いよな。
「そうね。20年教皇を勤め上げて、次代に引き渡した途端亡くなったわよ。転生者って嫌ね。往生際が良すぎるわ。もっと、生きることにしがみ付いてもいいのにね。」
それは2回分の人生を味わっているからだろう。それも2回目がそこそこ満足できる結果となれば、そう未練は無いかもしれないな。
こちらも吐き捨てるように言い放つ。それでは『再生』魔法が自由に使えなくて、今の姿で我慢しているのも頷ける。
俺は、チラリと渚佑子のほうを見る。ローズ婆さんを睨んでいる姿をみると、とても彼女が『再生』魔法が使えることを言える雰囲気じゃなさそうだ。
潔癖症ぎみの彼女だから、ローズ婆さんは天敵と言っても過言じゃないだろう。薦んで『再生』魔法を使うとも思えないから、放っておいてもいいだろう。こちらも、何かの褒章としてローズ婆さんに使わせるのが無難なところかな。
できれば、帰る直前に!!
今の姿ならば、うっかり・・・なんてことはないからな。先ほど、抱きしめたときも肉体的にそういう対象から外れていることを確認したから、大丈夫だ。




