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第11章-第144話 ことば

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

 入れ替わりにミンツが恐る恐る部屋に入ってくる。それも端っこのほうで佇んでいる。


「ほら、こっちにおいでミンツ。」


 俺が声をかけるとビクっとするとても意外そうな顔で近寄ってくる。俺が罵倒するとでも思ったのかもしれないな。前に聞いたときは、婚約者のヤンがそんなふうだったらしい。


「ツライ思いをさせてすまなかった。」


 俺がそう言うと黙って首を振る。そのまま、足早に去っていった。


「すまんがセイヤ、フォローしておいてくれるか・・・。思いつめてるといけないから・・・。」


 自分が追い詰められたからといって他人を追い詰めてはいけない。どこかで悪い連鎖を抜け出すなら、自分が少し我慢すればいいだけだ。ほら・・・なんとか我慢できた。


「トム・・・お前って奴は・・・ああわかったよ。」


 セイヤが了解してくれたので少し肩の力が抜ける。


 だが、それがいけなかったらしい。急に胸がこみ上げてくる。思わずその場で嘔吐く。気持ち悪い。背中をさすってくれるセイヤの手が本当に優しい。少し治まったのでそのままセイヤに抱きついているとなんとか立てるようになった。


「ごめんね。トム。私気付かなかった。自分がヤラレた立場だったのに、あれじゃあイジメだよね。精神的なリンチだよね。」


 ずっと悶々と考えていたのかもしれない。すっきりとした表情でそう言ってくる。だが少し違う。彼女には幸子という逃げ道があったが俺には無かった。


 いや今になって考えてみるとあったのかもしれない。セイヤに助けてとお願いしてもよかったのかもしれない。でも本当にあのときは逃げ道が塞がれていると思ったのだ。


 彼女が気が付いてくれるなら、もう二度とこんなことはないかもしれないな。いや無いと思いたい。


 思いやりなのか。返事は必要ないのか、そのまま部屋を出て行った。


「おい! 幸子・・・そこに居るんだろ。出てこいよ。」


 どうせやらなければいけない苦行ならば、いっぺんに済ませてしまったほうが楽だ。幸子やさつきは、まだ俺が変わらなくてはいけないと思っているかもしれない。


 だが彼女たちには、これから俺の会社で従業員たちを教育してもらう必要があるのだ。何が悪かったのかしっかりと感じ取ってもらい。将来に渡って同じ悲劇を二度と繰り返してほしくない。


「何よ! 私が私が・・・」


 本当に酷い顔だ。きっと俺もこんな顔をしているのかもしれない。


 いつもの厚化粧ぶりが嘘みたいにすっぴんで目の下に隈が出来ている。しかも・・・


「ほら額に3本の皺ができているぞ。俺の結婚式では司会を努めるんじゃなかったのか? ファンだというタレントにバッチリ見られてしまうぞ。」


 幸子は慌てて額を手で隠す。ゴン氏が呼んだと思われる招待客の名簿の中にみつけたタレントの名前にキャーキャー言っていたのが遠い昔のようだ。


「だって・・・。」


「ほら当日までに治せよな。これから毎日高級エステに通えるだけのお金は残っているんだろ。アメリカでも主役はお前なんだから、綺麗にしてもらわなくてはいけないぞ。」


 まあ東洋人は若く見られるらしいから、余り気にしていないんだけどな。そういえば大統領は20代と勘違いしていたっけ。いくらなんでもそれは無いだろ。幸子だぜ。


「分かっているわよ。」


 俺の言外に込めた褒め言葉に気を良くしたのか少し笑顔が出てきた。それが余計に目じりの皺やほうれい線を誘発して、顔じゅう皺だらけになっている。


「お前、着付けできるか・・・というか着物持っているか・・・そうか無いか。公式な席では着物が必須だぞ。大都市なら着付けができる人間も居るから、あとは着物だな。」


「えっ。買ってくれるの?」


「ああ。経費で落とせる範囲でなら何着でも・・・ここ一番の席の着物は、俺が買っていってやろう。」


「うれしい。じゃあ、帰り道に選んでおくね。松阪もめんがいいかな。伊勢もめんがいいかな。」


 さらに顔じゅう皺だらけにした笑顔が出てきた。まあ、暗い顔をされるよりはいい。そこは京都の西陣だろうとは言わない。西陣織りは青天井だからだ。


「着付けも少しずつでいいアメリカでも教えてくれるところがあるはずだ。難しかったら、ずっと他人の手を借りて着付けしてもらってもかまわないぞ。」


 俺がそう言うとハッとした顔になる。


「そっか。私って急ぎすぎたのね。そうだよね。変われって言われて直ぐに変われる人間なんていないもの・・・少しずつ頑張って・・・大丈夫、無理なら変わらなくていい・・・いつもの社長の口癖・・・。」


 ようやく気付いてくれたようだ。こうやって自分から気付けるように誘導することも大切な教育方法だが、それもおいおい仕込んでいく必要があるな。

 

その後、体調を崩したおかげで密室でのパワハラは無くなったものの

上司2人は私が辞めるまで変わらなくてはいけないと言いつづけてました。


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