第11章-第143話 最後の別れ
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さつきと幸子は松阪大学跡の通路を使い、日本へ戻ってもらうことになった。
『治癒』魔法で元通りの身体になったとはいえ、俺は3日ほど寝込んだらしい。セイヤの話では彼女たちを初めその場に居た奥さんたちは憔悴しきった表情だったという。
俺がどうしてあんな行動に出てしまったのか自分でも分からないのに彼女たちに分かるはずもない・・・。ただあのときは、頭が真っ白になり思考速度が100倍くらい遅く感じており、あとの99%は逃げ出したいとばかり思いつめていたのだ。
特に幸子は酷いやつれ様だったらしい・・・今度会ったら優しくしてあげよう・・・。でも今は誰の顔を見たくないのが本音だ。
罰としてアルテミス国やポセイドロ国に生まれているかもしれない子供を引き取るように進言してくれたマイヤーに感謝しなくてはならないのだろうが・・・。今は何も考えたくはない・・・
昼までに体調が全回復した俺は召喚の間に急ぐ・・・。まずは日本に帰らないとあちらの世界に行けないのだ・・・
「じゃあ、世話になったセイヤ・・・ありがとう。」
「・・・そんな、今生の別れのようなセリフを吐かないでくれないか。2日後にはわしも通路を使って日本に行き、トムとさつきさんの結婚式に出席するつもりだ。またそこで会おう。」
セイヤ曰く、俺の親族として出るのだという・・・。父親であるゴン氏には花嫁のさつきをヴァージンロードまで手を引いてもらうという仕事があるが花婿には無いんだがなあ。なぜかいやに張り切っている。
まあ確かに俺の親族はセイヤしか居ないわけで・・・居れば心強いのかもしれないが・・・。今はそのことも考えたくは無い・・・。
「待って!」
そして、召喚の間で『境渡り』魔法を唱えようとした瞬間・・・後ろから声が掛かる。この声はマイヤーだ。
顔が強張る。一生懸命、笑顔を貼り付けようと頑張ってみるもの中々上手くいかず振り向けない。次第に近付いてくる気配と足音がするのに身体が言うことを利かない。気配は真後ろだ。
「絶対に帰ってきて。」
そう言って後ろから抱きついてくる。
「・・・・・・・。」
「向こうに骨を埋めてきちゃダメだからね。」
ああなるほど。向こうの世界は此方の世界の360倍だからこちらの数十日間を向こうで過ごせば、あっという間においぼれ爺だな。
自殺を図った俺が言うのもなんだが、日本の会社のこともあるそんなには長い間、向こうに居るつもりはない。せいぜい、こちらの時間で半日か1日のつもりだ。
「・・・・・・・・・。」
「これ餞別ね。」
そう言って、エルフの里印のベリーハイレアのポーションが差し出される。そこでようやく振り向くとそこにはアヤもミンツも静香も居た。
マイヤーとセイヤの気配が強すぎて感じられなかったらしい。思わず硬直してしまう。
ヤバイ。フラッシュバックが起こりそうだ。必死になって余所事を考えていると額から冷や汗が噴き出してくる。
「待て! お前たちは入ってくるなと言っただろう!!」
セイヤがそう言ってマイヤー以外を追い出してくれる。皆の心配そうな顔が頭に張り付いてはなれない。
「大丈夫かトム。・・・ひとりずつだと言ってあったんだがな。」
そう言ってセイヤが身体を支えてくれる。本当は立っているのも辛かったのだ。そのまま、身体を預ける。
マイヤーは必死に何かを堪えるような表情で俺にポーションを手渡す。
「マイヤー大好きだよ・・・。」
くるりと後ろを向いたマイヤーにそう声を掛けるのが精一杯だ。マイヤーは一瞬立ち止まりかけるがそのまま去っていった。
「アヤ・・・おいで。」
アヤは涙をポロポロと零しながら入ってくる。いつものお姉さんぶりが台無しだ。奥さんたちの中で一番精神年齢が高い彼女がこんなふうでは、あとの奥さんたちは推して知るべしといったところか・・・。
「私もこんなものしか思いつかなかったの。」
その場に出してきたのは、MPのレアポーションだ。但し、数が尋常じゃない。まるで国中からかき集めたかのようだ。実際そうなのかもしれない。
「うん。助かるよ。」
本当はセイヤに言って必要な数のポーションは王宮の保管庫から出してもらっているのだが・・・。むこうには碌なポーションが無いから、あり過ぎて困ることはないし問題ない問題ない。
俺がそう言ってアヤの頭を撫でるとその場から背を向けて声をあげて泣き出しながら部屋を出て行く。
ごめん。何も言葉を掛けてあげられなくて・・・本当にごめん。




