第10章-第136話 だいえっと
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「ジェミーって、このコース知り尽くしてるんだね。」
今日はアルドバラン公爵領にやってきている。代々の当主が軍閥だったこともあり、ここには軽いアスレチックコースが備えられている。
「ええ、昔から使わせて頂いていましたから。でも手は抜いていませんよ。その私についてこれるなんていったい・・・。本当に初めてなんですか?」
1周回ったところで休憩を取る。リフレッシュを兼ねているから、タイムアタックをするつもりも無い。全力でさらに『フライ』とか使ったら、半分くらいの時間で回れそうである。
「うーん。初めてなんだけど・・・少し違うかも・・・ここのコースってSASに導入されているコースに似ているんだよね。」
「それはそうです。あそこのコースを設計したのは元公爵ですから・・・。」
「へえ。そうなんだ。」
「この何年かは、膝が悪いとかでお見かけしなかったのですが・・・。」
そう元公爵も遅れながらだが、ついてきている。まだまだ、お元気だ。件の怪我を治したときに一緒に治ったらしい。だがそれ故に筋力も衰えているはずなのだが・・・。
*
シャワーで汗を流し、食卓につく。ここはロンドンじゃないから正装しなくてもいいらしい。まあ自分の持ち物となったときから、どんなふうにルールを変えても良いと言われているんだけどね。
「うーん。美味いな、このマツサカウシのヒレステーキは。世の中にこんな美味いステーキがあるとは思わなかったぞ。」
食欲のほうも、なかなかの健啖ぶりを発揮している。毎日だと、くどいが偶にならいいだろう。
「ジェミーには油っぽかったか?」
ジェミーの皿のステーキはほとんど手を付けられていない。西洋人は霜降りよりも硬くてもいいから血の滴るようなステーキがいいという人間が多いのも確かなので気にしない。
「いえ、今ダイエット中なので。」
「その身体でか?」
ジェミーは太っているというよりは見えないところに筋肉がついているせいで重そうではある。さつきほど逆三角形の肉体をしているわけではないのでそんなに太っているようには見えない。
「ええ、油断するとすぐ太ってしまって・・・。」
「でも肉なら関係無いだろう。野菜もしっかり取っていれば・・・。」
「それが太っちゃうんですよね。砂糖は全面的にカロリーゼロのものに変えてはいるのですが・・・。」
ああ彼女もカロリー信者なんだ。
「いや、そんなことは無いはずだ。考えてもみろよ。カロリーゼロの甘味料入りの水とただの水を与えたモルモットがいるとするとどちらが長生きすると思う?」
「同じじゃあ無いですね。今までの苦労は何だったのかしら・・・。こんな単純なことなのになぜ気づかなかったのか・・・そう考えると恐ろしいですね。」
「他には、ケーキ。君たち女性は甘さ控えめのケーキを良く買うだろう? それに買うとしたら1個じゃないはずだ。家族がいなくても2個、3個とね。」
「まあそうですね。」
「だが実際食べてみると物足りないなんて経験はないかな? そんなとき、もう1個と手を伸ばしたり、違う食べ物を食べた経験があるんじゃないかな?」
「あります。あります。つい食べちゃうんですよね。」
「例えば甘さ控えめのケーキが400カロリーで普通の甘さのケーキが500カロリーだとすると2個食べれば800カロリーだろ。たかだか100カロリーを制限するつもりだったのが300カロリー余分に砂糖もおそらく1.5倍ほど摂取していることになるんだ。」
「そういえばそうですね。減るって部分しか捉えていないと酷い目にあいますね。」
「俺はいつも普通に甘いケーキを買ってきてってお願いするんだけど、誰に頼んでも甘さ控えめのやつで、酷いケーキになると全然甘くなくて、甘く無いクリームが気持ち悪くなっちゃうんだ。だから、今度からは甘いケーキを買ってきてくれると嬉しいな。」
食卓には行列ができるケーキショップのケーキが並んでいたのだ。こんなもの食事の前に食べたら、食事も出来なくなる。アキエに言うように食事の前にお菓子を食べてはダメですなんて言えないし、この国にはアフタヌーンティーなんて文化もあるし困っていたのだ。
最近、こっちに来る度、翌日絶食しなくてはならないくらい食べさせるんだものなあ。




