番外編 『守』
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相馬君と密かにはじめたプロジェクトがある。なんのことはない。牛丼チェーンのFCだ。
切っ掛けは相馬君が契約社員でも、他社のアルバイトをしてもいいかという問い合わせだった。
会社で100円ショップのほかいろいろと手は出しているのだが基本的に昼間働くところばかりで、遅くても10時までだ。深夜に残業ができるものはない。相馬君は子供が産まれるのにあわせて出費が多くなるので、深夜のアルバイトがしたいらしい。
契約社員の他社でのアルバイトは就業規則で禁止しているため、できない。このルールを変えると優秀な人材が他社で気に入られ、流出しかねないので禁止しているのだ。
相馬君の思いにも答えてあげたいということで、今回の牛丼チェーンのFCに応募した。いざ応募してみると人材不足で居抜き案件が多い。その中でも、3階建てアパートに併設されている物件に注目した。
そう社宅兼賃貸アパートとするのである。相馬君は、すでに引越しの準備に入っており他の住人も相馬君の知り合いに安く貸し出すつもりだ。
相馬君は大学で剣道をやっていた関係で後輩に入らないかと声を掛けてみたところ、こころよく入ってくれた。大学周辺のアパートより安い賃料だが、牛丼屋にアルバイトにどんな短時間でも入れば、まかないが付く。さらに深夜の3時から5時に2時間ほど、だれか1人は入ることを条件にした。
ある牛丼チェーンではワンオペで失敗したと聞く。俺がやりたいのは1.2オペレーションだ。1人では回せなくなってきたころに2時間だけ入ってもらう。
さらに、ワンオペで散々叩かれている強盗対策については警棒型スタンガンを2本常備し、社長の趣味という名目でクロスボウが飾ってあったりする。
実際に蔵王高原のクロスボウで有名な射撃場で指輪の『目』使い練習してある。うっかり、練習の最後にやった試合形式で講師を負かしてしまい。クロスボウ協会の理事を任された。
そのときの写真などを一緒に張ってある。少しでも威嚇になればOKだ。
それでも、強盗が来るときはくる。
偶々、相馬君が奥さんの両親との食事会で奥さんの実家に泊まることになった。急遽、俺が代理を務めることになった。FCの契約の際、一応講習は受けているので問題はないと思うが、念のため、牛丼、カレー以外のめんどくさいメニューは休止した。
「金をだせ!」
深夜2時を回ったときだった。おそらく、深夜3時からもう1人入るのを事前に調べてあったのだろう。客も従業員も少ない時間帯を狙われたようだ。相手はナイフを持っていたので、指輪は『守』にセットしスタンガン警棒を取り出しながら警報装置を押した。
その途端に外では回転灯がまわり、警報が鳴り響く目の前の犯人は舌打ちしながら、いきがけの駄賃とばかりに切りつけてくる。しかし、『守』はナイフ程度で破れるものではない。異世界の大型剣の一撃さえも弾くものなのだから。
一瞬にして、ナイフの刃先はボロボロになった。それと同時に、スタンガンで電気ショックを与える。短時間だが動けなくなった。そして、タイミングよく、2階で寝ていた剣道部の連中が木刀を片手に降りてきて犯人を取り囲む。
そこまでだった。質実剛健な男達に取り囲まれて、戦意を消失したようだ。
そこから、警察の事情聴取を終えると、今度はマスコミだ。ワンオペの時間帯に狙われたわけだから、マスコミに叩かれるかと思うと気が重くなったが、話を聞くと大学の剣道部の連中をヒーローに仕立て上げたいようだ。
剣道部の連中がインタビューに答えていくが、どの口からもでるのは俺への賛美の言葉ばかり、スタンガン警棒の常備や2階の住居に誰よりも早く駆けつけられる剣道部を優遇したこと1.2オペーレーションによる業務の効率化、そして、最後にはクロスボウのことまで触れてくれた。
「しかし、クロスボウは人に向けて撃ってはいけないのでしょう?」
わざわざ、俺にマイクを向けて質問したのはスタンガン警棒でも住居に剣道部を入れたことでも1.2オペレーションのことでもなかった。わざとマスコミは、当たり前の質問をしてくる。俺はあえて挑発気味の言葉をテレビカメラに向けて発する。
「ええ、人に向けません。あれは私の趣味ですから。まあ目の前で、私の大切な従業員がケガを負わせられたら、どうするかわからないですけどね。」
「警察では、どういっているんですか?」
「それは秘密です。」
実際には問題無いと言われているが、そこはノウハウの一部だ。簡単には明かせない。
・・・・・・・
当日の昼には、FC本部に出向いて説明した。ついでに、近隣の同様の物件を5店追加で契約した。あのTVが流れれば、きっと真似をする人間がでてくるに違いないからだ。
もちろん、必ずしも同一の建物にあるものだけではない。裏手や横にアパートが隣接されたものも対象とした。
元々強盗が1~2回入った店だったため、店舗自体も安く売り出されて居り、隣接されたアパートも売り物件として競売に掛けられていたため、アパートも比較的安く手に入った。
入居者のほうは相馬君の後輩のほか、意外なところからも手を上げてもらった。警察官だ。もともと、相馬君と剣道の関係で話はしてあったらしい。通常、警察官には安い官舎が与えられるのだが、ある程度年齢が上がってくると追い出されるらしい。
そういった関係で追い出された警察官は普通のアパートに住んでいるらしい。だが、それが原因で生活苦になっていると聞かされた。俺は是非とも住んでもらうつもりだ。公務員のアルバイトは禁止されているので、深夜のアルバイトは他の住人にまかせるつもりだ。
・・・・・・・
今、ネットで俺の発言に関したものと警棒型スタンガンを店舗に置くことへの賛否の発言が活発によせられている。スタンガンについては設置する際に警察に聞いたのだが、持ち歩くのは制限があるが店舗に設置するのは全く問題がないそうだ。
なぜ、他の深夜営業の店舗に設置しないのかはわからない。きっと、維持費などの問題での経営判断によるものなのだろう。
追加した5店舗にも全て警棒型スタンガンを設置し、クロスボウと木刀を解りやすい位置に飾ってある。時折、ネットで俺の店舗が話題になると木刀も置いてあったことや置いてあった店舗を書き込んだりしている。
これを見た強盗は、少なくとも俺の店舗を狙うことはないだろう。
・・・・・・・
「俺がヒーローになる予定が・・・。正社員への道が・・・。」
ここで呻いているのは相馬君である。それで毎日深夜勤務をしていたのか?
「ヒーローになったからと言ってすぐ正社員になれるもんでもないぞ!」
主人公はどちらにしろ、牛丼FC担当の正社員するつもりなのですが・・・当分、本人には内緒。
 




