第10章-第133話 しゅらば
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「なぜこんなことをしたんだ?」
松阪大学跡地にある通路を使いチバラギ国に出た。やはり、魔力の使用量が違う。『界渡り』魔法を使う場合と比較すると『移動』と扉に投入する魔力など微々たるものだ。
例の抜け道を使い、後宮に入りセイヤに挨拶に行く。いつもと同じ手順を踏む。勝手に出入りしても構わないのだが、行かないとセイヤが拗ねるので仕方なくだ。決してエトランジュ様を見たい訳ではない。
その場でセイヤにつげられたのだ。ツトムが後宮内に入り込もうとして捕まったと。相変わらず、こちらの世界の常識に疎いらしい。・・・まあ日本でも世間の常識に詳しかったかというと疑問なのだが。
理由はだいたい想像できる。鈴江に会いたかったのだろう。
初犯だが、後宮に侵入しようとした罪は重い。即刻、死罪となるべきところを俺が連れてきた人間ということで保留にしてくれたらしい。
おそらくモモエさんが泣きついたのだろう、その間にジロエ伯爵が動き、なんとか伯爵家が泥を被ることで国外退去で済む方向性で話が進んでいるのだという。
チバラギ国の人間としては甘いとしか言えないだろうが、日本人としては厳しい沙汰としか言いようがない。
「・・・・・・・・・。」
「黙ってちゃわからないだろうが・・・。」
先程まで牢屋に入っていたせいか口が重い。一応、伯爵家の子息として扱われているらしく上等な設備がついた牢獄だ。ここはそれに付随した面会室だ。
「遠くから見るだけで良かったんです。義父に相談しても一蹴され、母に泣きついても説得されて。それで仕方なく・・・。」
それで後宮に侵入しようとしたのか。例の動画をヨウツベにアップロードしたときも思ったが変なところで直情的な奴だ。
「俺に相談すればいいだけだろう? 全く皆に迷惑を掛けてどういうつもりなんだ。」
遠くから見るくらいだったら、なんとかしてやったのに・・・。まあ、見たら会いたくなるかもしれないが、そこは我慢してもらうしか無いが。
「相談なんてできません。相談なんて・・・。」
一応、コイツにも寝取ったという引け目が存在するらしい。まあそれが普通なんだけどな、人手不足だったとはいえ今までの俺たちが異常だったのかもしれん。
「とにかく、国外退去だからな。どうする? こちらの世界に残るか。日本に帰るか。俺としては日本に帰ることを勧める。勝手に連れてきておいてなんだけどな。」
「そんなこと・・・。」
「そうだなあ。こちらの世界に残って恩赦が出るのを待つのもありだ。俺の領地は端っこにあるから、比較的安全そうな国境付近に家を建ててやろう。モモエさんはどうしたいですかね。」
俺は、それまで黙って俺たちの話を聞いていたモモエさんに話を振る。
「社長は甘すぎます。ツトムがこうなったのも半分の責任は社長にあります。あなたは甘すぎるんですよ。」
モモエさんの言葉が胸に突き刺さる。
バシッ。
「お前! 王族に向かって何という口のききかたをするんだ。」
ジロエ伯爵が平手打ちでモモエさんの頬を叩いた。叩かれたモモエさんはその場で泣き崩れた。部屋中にモモエさんの泣き声が響き渡る。ツトムは一瞬呆然とするがキッと伯爵に威嚇するような視線を向けている。
普段は甘々な夫婦が修羅場を演じているのである。ツトムもそんな光景を目にするとは思ってなかったはずだ。
「とにかく、恩赦がでるまでは、その屋敷から出ることは叶わないと思え! わかったな。」
「1週間後に迎えにくるまでにどうするか決めておきなさい。わかったかな?」
俺は少しトーンを落として、理解できるようにゆっくりと言う。
ツトムは意気消沈したようでコクンと頷くと牢獄のある扉に歩いていく。
・・・・・・・
看守が戻ってきて、ツトムが牢獄に入ったことを聞いた途端、モモエさんの泣き声が止まった。
「これで立ち直ってくれると嬉しいが・・・。」
「全く、あなたって人は、本当に甘すぎますね。」
モモエさんは立ち上がるとそんなふうに言い出す。
「そうだ。侯爵。その性格は直さないと領民が誰もついて来なくなるぞ。」
ジロエ伯爵は、先程とは違いモモエさんに追随する。実はこの夫婦、本当に修羅場を演じていただけなのだ。
あの甘々な夫婦が崩壊寸前までいった原因が自分にあるという、カルチャーショックを与えてみようという試みだ。
因みにこのアイデアを出したのはモモエさんだ。初めはジロエ伯爵は出来ないとゴネていたのだが、モモエさんに押し切られた形だ。
もう早々に尻に敷かれているのがわかる。
「お前。大丈夫だったか。お前が思い切りやれって言うから、やったけどなあ。俺が本気でやったら怪我じゃすまんぞ。」
「大丈夫です。あのタイミングでくるのはわかっていましたから、勢いを殺すために少しだけ下がりましたから・・・。」
モモエさんは意外と反射神経は良いらしい。それでも結構腫れている。スッゴく痛そうだ。
「トム殿、すまなけど治してやってくれないか?」
「いいんですよ。これ以上に社長は心を痛めてくれてますから。」
モモエさんが男前な発言でジロエ伯爵の言葉を遮ると部屋を出て行った。
俺はジロエ伯爵と顔を見合わすと片眉を上げてみせる。
ジャンル再編成の必須キーワードの「異世界転移」について
作者は「異世界転移」でもあり「現代世界転移」でもあると認識していますが
メッセージで問い合わせ後QAの8「主人公が異世界人」と12「主な舞台は現代世界」の2箇所で
否定されたため、運営さまの意向に沿う形で設定致しました。
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