第10章-第132話 はなれわざ
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おかしい。この会社はおかしい。
宇宙エレベーターのゴンドラの組み立て工程を六菱重工に発注するため、スミス金属から納入した3つの試作品に組み込みテストを実施させたところ、その一つから電気配線の断線が見つかったのだ。
しかも、作業ミスにより発生したものではなく、明らかにカッターナイフで複数のコードが1度に切断されていたのだ。
俺は即座に担当者を呼びつけるといつ誰がどのようにして行ったかを指示したのだが返ってきた答えは曖昧なまま、賠償金を支払うことで幕引きを図ろうとしてくるのだ。
俺はゴン氏からの伝手をたどり、六菱重工に発注している航空機メーカーのマグダラス・ボブイング社から同じようなことがなかったかと問い合わせると発注した尾翼の1つでおなじような断線を発見しているという。しかも、調査に対しては未回答のままだ。
対策として、マグダラス社の組み立て工程と他の製品と同じセキュリティーカードで入れないようにすることで決着をつけたようだった。
もしかすると、自衛隊のF15Jの整備を請け負う六菱重工に対するテロなのかとも思ったが、やり方が回りくどい。まあ、政治家を間に挟まないかぎり自衛隊に問い合わせても無視されるのがオチなのでわからないのだが・・・。
あとは従業員が意図して行っているとしか思えないのだ。流石に悪意を持つ人間が工場内にいないか歩き回るわけにもいかない。
さてどうしたものかと悩んでいたら、今度はグループ企業の六菱航空機でデータ改竄事件が持ち上がったのだ。
納入する各国の安全基準に合わせて、各種テストを実施しなければいけないところ、アメリカに対するテストデータを元にマグダラス社のテストデータと掛け合わせて、報告したデータを作っていたという。
「なんとか、ならんのか?」
「なんともなりませんね。」
どうやら出荷計画が直前になって頓挫した六菱航空機の支援を国交省を経由して、Ziphoneグループに持ち込まれたというのだ。あまりにも畑違いのため、俺のところまで回ってきたのだが、ゴン氏には悪いが断らさせて貰う。
経営陣を総取っ替えするというのなら、まだわかる。だが六菱航空機のトップが相談役に移動し、六菱商事の人間を据えただけなのだ。
こんな何も変わらない会社をどうやって動かそうというのだ。宇宙エレベーターの利益をただ食いつぶされるのがオチなのは目にみえている。
「自ら乗り込んで、経営陣の交代を行えばいいではないか。」
「資金支援をして、乗り込んで経営陣の交代をしたとしますよね。そして、出荷できるようになったとたん。株主総会でクビになるのがオチですね。」
「なぜだ? 旧経営陣から3割強の株式を買い取る条件で資金支援するのだろう。ある程度実績を立てれば、こちらにつく株主もいるはずだろう?」
「和義さん、いやにこだわりますね。そんなに六菱航空機の人材が欲しいのですか?」
「なんだ。わかっておったのか。こんな絶好の機会はめったにないからな。」
六菱航空機を立ち上げるときに、六菱重工のみならず、有名自動車メーカーやZiphoneのライバルであるドッコデモなど多種多様なメーカーから若い準エリートクラスの社員が入社しているのだ。
航空機の設計が終わり、不要になった人材がいつ放出されるかを手ぐすね引いて待っていたのだという。それをZiphoneグループが優先的に優秀な人材を公然と引き抜けるのだから、なにを置いても取りたいらしい。
「六菱航空機の立ち上げ時期から蓉芙グループの報告書を読んでいて気づいたのですが、六菱グループ企業が持ち合いで持っていた株式がポツリポツリと消えていくのですよ。そしていつのまにか、6割の株式を持ち合いで確保していたものが2割まで減っていたのですよ。」
「それは怪しいな。」
「ええ、殆どが1単位株で合計3000社余りにのぼる数です。そのうち、100社ほど追っかけてみたのですが、その大部分が時価で個人に売却されていました。」
「ほほう。」
「さらにその個人が問題なんです。売却した会社とは無関係の六菱グループ企業の経営者の親族でした。」
「なかなか、凝っておるのう。」
「ええ少なく見積もっても、5割以上を六菱グループが握っていると思われます。」
「なるほど、そんなカラクリが隠されていたのか。」
「ええ、騙されるところでしたよ。」
「わかった。じゃあ、国公省に第三者割当増資を条件として付け加えるように言ってみよう。」
「えっ、それじゃあ。連結子会社になってしまいますよ。」
「誰がZiphoneがそれを引き受けると言った。」
「というと。」
「そうじゃ。お主が引き受ければよいじゃないか。蓉芙次期当主の要望であれば関係改善を望んでいる、いなほ銀行グループもイヤとは言うまいて。僅かな利息くらい楽勝だろうが。」
「山田ホールディングスとZiphoneに資本関係が無いからできる離れ技ですね。」




