第10章-第131話 ふりこ
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「また失敗か。」
「これだけブレいてはどうしようも無いですね。」
今、宇宙エレベーターの要となるオリハルコンとミスリルを編みこんだワイヤーを宇宙ステーションから吊り下げているのだが、先端の磁石と海上に設置した電磁石の磁力で先端を捕まえようとしているのだがうまくいかないのだ。
俺が落胆の声を上げるとプロジェクトチームの技術者が説明してくれる。そんなことはわかっている。そんなことよりアイデアを出さんかいと言えないのがつらいところだ。
「じゃあ、第2作戦に移るか。」
理論上は磁力だけで引き合うはずなのだが、もうすでに2度の失敗を経験している俺としては、振り子の速度が自然環境に左右されるこれまでのやり方を繰り返すのは避けたかったのだ。
『エアーウォール』
先端が向こう側から、こちらに向かってくる速度が遅くなっているときに合わせて、風の壁を作り出してワイヤーにぶつけることで速度を落とそうという作戦だ。
「ダメです。速度が落ちません!」
「やはり、闇属性の俺の属性魔法に対する耐性もあるのか。」
「感心している場合ですか、どうするのですか。」
うるさいなあ。技術者なら自分で考えろ! 2度も失敗して泣きついてくるなよな。
「わかった。わかった。第3作戦に移る。」
俺は、乗っている空母の艦長室に赴き、報告するとあっさりと、F15戦闘機の使用許可がおりる。
できれば、使いたくなかったんだがなあ。操縦士付きの使用料だけで1000万円は高いんだよなあ。といって、衆人環視の中で『フライ』を使うわけにもいかない。
艦載機のドックに向かうと、ジョージが待っていた。できる限り人前で魔法を見せないほうがいいという大統領の配慮なのだろう。
「大丈夫なのか? 乗らなくなってから、5年くらい経っているのだろう?」
「7年であります。」
「落ちそうなら、『移動』でひとりで逃げ出すからな。」
「そんなあ。私も連れて行ってくださいよー。」
俺もジョージもF15操縦席のパラシュートが開かなかったところを間近で見ているのだ。十二分に整備されているのはわかっているのだが、緊急脱出システムを信用しろと言われてもなあ・・・。
「では、行くぞ。」
「待ってくださいよー。具体的にどうやって、アレを止めるんですか?」
「振り子を止める場合、ジョージならどうする?」
「そうですね。放っておく、っていうのはどうです? 時間が経てば止まるもんでしょう?」
「意外と賢いなあ、ジョージは。だがな、今の振りの状態だと完全に止まるのに10年掛かる計算なんだ。」
試作段階で10年も掛かってしまったらいくら資金があっても足らんわ。それにそれまで宇宙ステーションが持つとは思えない。
「それじゃあ、振り子の先端に何かをぶつけるというのは、どうですか?」
「それは今やっただろ。事前に説明したと思ったが何を聞いていたんだ。そうだ! この戦闘機をぶつければ止まるかもな。ジョージ行ってくれ。」
「じょ、冗談・・・で・す・・よね。」
「いいアイデアだったんだがな。」
「わかりません。降参です。教えてくださいよー。」
「例えば、ここに振り子があります。」
そう言って、ポケットから先に5円玉の付いた糸を取り出す。
「な、なんで、そんなものを・・・。」
「黙って聞け!」
「は、はい。」
実は、事前に艦長にはやり方を説明したのだ。その時の小道具がこれだ。
「この振れている糸の根元を指先で持つだろ。そして、こうやって下まで降ろす・・・さあ、止まったぞ。」
「えっ、なに。どういうことですか?」
意外とバカだな。艦長は一発で分かったのにこいつは分からなかったらしい。
「だから、振りがほとんど無い上空までF15イーグルで行くだろ。そこで遠隔魔法でワイヤーを掴む動作をするだろ。そのまま、F15イーグルで垂直降下するだけだ。この戦闘機だったら、楽勝だろ。」
「ははあ。なるほど。」
本当に分かったのかなぁ。不安だなぁ。
「ほら、行くぞ。」
梯子を使い、後部座席に乗り込む。シートベルトを装着する。ドックから直接上空に飛び出せるようにハッチが開き、滑走路が出来上がる。
くっ。
「ヒャッホー!! 楽しいねえー。」
ヘルメットに装着されたヘッドホンからジョージの声が届く。戦闘機乗りは、戦闘機に乗った途端、性格が変わるというのは本当だったんだ。
酷いGだ。いくら空母だから滑走路が短いからって、初速がこんなに速いとは・・・。
「トム。大丈夫ですか? 気絶してませんよね。」
任務を思い出したのか、気遣いの声が掛かる。
「ああ、大丈夫だ。」
念のため、指輪の『癒』で胸元辺りをさすっておく。肋骨にひびでも入っていたら困るからな。
ふう。
一息ついたと思ったら、そのまま急上昇する。おいおい、ストリーク・イーグルの記録を塗り替えるつもりか?
いくら最新機から爆弾を取り外した機体とはいえ、あんな改造機の記録。量産機で塗りかえれるはずが・・・。
うわーーーーー。や、やめてくれ! バカにしたのは、謝るから・・・・・・・・・・・・。




