第10章-第128話 幸福
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「えっ。宣伝部門ですか?」
ゴン氏から結婚式後のことで話があると言われ、さつきを伴ってZiphone本社のCEO室に赴いた。
「そうだ。副社長兼広報担当だ。うちはグループ会社にCM製作からスマホの箱のパッケージ開発まで、すべて外注しているんだ。それを統括してもらう。おいおいは、新製品発表会でのMCも任せるから、そのつもりでな。」
結婚式で次期副社長としてお披露目されるそうだ。なんか、違う意味の披露宴になっている気がするが、さつきはそれで良いのだろうか?
「マジですか?」
プレスや業界人が多く集まるホールで商品を良く知ってもらうだけでなく。いかに大胆かつユーモアあふれる表現力で魅力的で将来性のある商品であるかを壇上に立ってやらなきゃならないなんて・・・。
「楽しいぞ!」
ゴン氏は確かにいつも楽しそうだ。プレゼンも少人数なら経験もあるし、自信を持ってできるだろうが、同じことを千人規模の人たちの前でなんて・・・。
「聞いたぞ! 向こうの世界では数千人規模の人たちの前で演説もしたそうじゃないか!」
俺は後ろのさつきを睨み付ける。ニューヨークで寝物語に向こうの世界でのことを話したら、筒抜けだったというわけだ。しかも、千人規模と言ったはずなのに誇張されているし・・・。
苦労話だったはずなのに半ば自慢話をしたかのようになっている。これからは気をつけよう。
向こうの世界では、召喚された勇者であり、国を救った人物として十分な信頼を得ていたから、話を聞いてくれたのだろう。
ポセイドロ国では議会制民主主義だったこともあり、国民皆が演説好きだったりするので、出だしでの掴みをいろいろと工夫したのだ。ある意味、良い経験だったと言えよう。
「新婚旅行から帰って来たら、早速CMの現場に入って貰うからそのつもりでいろ。」
「CMというと例の猫のお母さんのですか?」
Ziphoneのコマーシャルといえば、時代劇で有名な俳優のお父さんを白猫のお母さんが尻に敷いたアテレコで毎回、話題を攫っている。時代劇では超二枚目役の多い俳優さんをけちょんけちょんに尻に敷いているのだから、凄いギャップだ。
その有名なCMの陣頭指揮を取らなくてはならないらしい。
「そうだ。賢次のやつ・・・海外の仕事が面白いらしくて、押し付けてきやがった。」
どうやら、賢次さんが考えた企画だったようだ。なるほど、あの人らしいというか・・・。
「良く松木健なんか引っ張り出せましたね。」
「あれは、向こうから売り込んできたんだ。元々、賢次の知り合いだったらしい。どんな知り合いか知らんが、妙な知り合いが多くてな・・・まあ仕事に繋がっているのだから、いいんだがな。」
売れない俳優などのパトロンをしているらしい。ゴン氏が苦笑いしながら話してくれた。道理でいろんな業界に顔が利くわけだ。
「羨ましいですね。俺なんて、とんと業界には疎くて・・・。」
「それは仕方がないじゃろうて、あまり業界に染まらんでくれよ。賢次みたいに一般人とかけ離れた価値観を持つと大変だぞ。それにある程度は身持ちは堅くしておいてくれよ。どこかの女優と噂になったら、さつきが可哀想じゃからな。」
「そういう意味では、賢次さんも身持ちは堅いほうじゃあ。」
俺は慌てて話題を逸らす。賢次さんの女性関係で出てきたのは、例の俺とそっくりなバーのママさんくらいだからだ。
ゴン氏には、チバラギ国の奥さんたちもイギリスの婚約者も全て報告してある。いずれバレるのと自分からバラすのでは全く意味が違うからな。
娘の親としては頷けないのだろうが、自分自身のこともあり、本妻がマイヤーだということもあってか、黙認していただいているようだ。
「あれは病気だから、治らん。もう諦めておる。」
どんな病気だ。女性不信かな。
「そうですね。俺も一人しか知りませんね。」
「ひ・・・ひとりか? どんな女性なんじゃ。」
あ・あれっ。凄い食いつきだ。ゴン氏は知らなかったみたいだ。まずかったかな。まあそういう関係とは限らないんだし、喋っても問題ないだろう。
「新宿のバーのママさんです。」
「新宿というと例のアレかね。」
ゴン氏を勘違いさせてしまったようでがっくりとうなだれる。
「歌舞伎町2丁目の方たちじゃあ、ありません。正真正銘の女性です。流石にそういう関係かどうかまでは分かりませんが親しそうだったことは確かです。」
さすがに俺に顔がそっくりだということまでは言えない。
「そうか。そうか。あいつにも女性がね。」
ゴン氏は大変幸せそうだ。
「俺が言ったというのは内緒でお願いしますね。」
「わかっているとも、賢次のヤツを拗らせると面倒だからな。しばらくはソッとしておくさ。」




