第9章-第127話 じゅんび
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侍従長に王宮内にある後宮の門のところまで案内してもらう。そういえば、この門を正式に利用するのは初めてだ。内戦の際に突破したくらいでじっくり見る機会も無かった。
レンガ作りに高い壁に覆われて門から後宮の脇に設けられている応接間に到着するまでに同じくレンガで作られている雑草ひとつ生えていない道を進んでいく。
ここはS字カーブになっていて、知らずに芝生を突っ切ろうとすると随所に仕掛けられた罠が発動する仕掛けになっている。
「では、エトランジュ様。よろしくお願いします。」
応接間に入ったところで待っていたエトランジュ様に引き渡される。実は主不在のため、俺が入れるのはここまでだ。もちろん、エトランジュ様とは事前にスカイぺで調整済なので支障は無いのだ。
「じゃあ、マイヤー頼んだぞ。」
「あ、はい。」
じっと鈴江のほうを睨みつけていたマイヤーがワンテンポ遅れて返事をしてくる。
安定期に入ったマイヤーは、しばらくチバラギ国に滞在するという。どうも、俺以上に鈴江が信用出来ないようで、滞在中、監視して何かあれば知らせてくれるということだった。
松阪大学跡地の池まで戻ってくると、もう女神はいなくなっていた。用意しておいたプレハブを自空間から取り出して扉に隣接させて建てた。これで準備室の出来上がりだ。
松阪大学の跡地は幼稚園を残し、隣接する工業団地までが買収範囲だ。土地を所有する市の担当者の話では問題ないということだった。
・・・・・・・
「どうしたの? この身体、何でこんなに体形が変わっているのよ。」
翌日は、結婚式で着る衣裳合わせだ。もちろん、ロスの彼?の店でオーダーメイドなのだが、店に入るなり奥に引っ張り込まれた。
「1ヶ月でこんなに変わるなんてありえないわ。体重も増えているみたいだけど、ほとんど筋肉だわ。さあ脱いで頂戴。」
服の上から全身くまなく撫で回さ・・・触られただけでわかるらしい。あちらの世界でダンジョン攻略の合間に身体を鍛えていたのが功を奏したらしい。
言い訳をするのも面倒なので黙って脱いでいく。
「Oh!」
マジでウザイ。1枚脱ぐ度に感嘆の声が上がるのがウザイ。まあ、昔は貧弱な身体付きだったからなあ。
パンツ1枚の裸になると再び身体を撫で回し・・・触ってくる。彼は触りながらデザイン画を頭のなかに写し出しているということだったが本当だろうか。
「センセイ! 時間です。・・・また・・・好みのタイプだとこれだから・・・。」
そのとき、助手が駆け込んでくると彼の変わりに、ものの1分くらいで採寸を済ませてしまった。・・・まあいいけどね・・・減るものじゃ・・・心がすり減るけど。
次はさつきの番だ。ニューヨークにある店で数ヶ月前から、デザインを引き起こしていたというドレスを試着していく。
その嬉しそうな様子を見たら、いつから用意したのかとか、何回お色直しするつもりなんだとか突っ込むこともできず、ひとりファッションショーにただただ見い入るばかりだった。
「きれいだよ。」
そんなありきたりな一言で喜んでくれるから連発してしまった。もっと上手く言えたら良かったのに・・・。
・・・・・・・
「さつきさん? それ。いつまで続けるつもりだい?」
今夜愛し合うホテルに到着するなり、扉や部屋に何かが仕掛けられていないかチェックしだしたのだ。アメリカに到着したときから大統領から派遣されたSPが張り付いるようだから、任せておけば良いのに永年培った癖はそう簡単には直らないらしい。
さつきは、ひとりで扉の前で苦笑して見つめる俺の顔を見ると真っ赤になっていく。
「ほらおいで。君の場所はそこじゃない。」
そう言って俺が腕を広げる。まあ君の大きな身体を全て包み込んであげられないのだけどね。
改めて横抱きする形で部屋に入っていく。もちろん、指輪を『探』にして周囲1キロに危険物が無いのは確認してある。以前、MI6に見学に行った際にありとあらゆる危険物を技術部隊に見せて貰い指輪に登録済だ。
盗聴器などは年々進歩しているらしいから、あまり役にたたないがテロリストが使う危険物はわりと一般的なものが多いので1年に1回程度更新すれば十分なのだ。
「寝室では例の紐パンも無いから、心許ないのはわかるけど。君ひとりを守れない俺じゃ無いさ。」
再びさつきが真っ赤になって下を向いてしまった。
カッコ良くキメたつもりだったのに何か間違えたか俺。




