第9章-第125話 しょうめつ
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指輪の『移』を使い、50センチ先に到着する。なんと言っても神が作った通路なのだ。何百年経過していようとも、崩れているはずもない。
更に自空間から新たな扉を取り出すと真後ろに立て掛ける。そのまま、扉を押し開くと元の場所に出る。
「というわけだ。これならば問題ないだろう?」
そう、目の前の女神に問い掛ける。
あれ? 何か震えてらっしゃる。どうしたのだろう。
「・・・な・・なんてことをしてくれたのよ! これじゃあ。消えないじゃない。あと数年で自然消滅するはずだったのに! こんな空間と空間を結びつけるなんて!?」
どうやら怒りに震えていたらしい。
「この場所さえ消えてくれれば、天界に戻り産まれなおしてくることもできたのに!」
俺は大変なことをしでかしてしまったらしい。
「じゃあ、はずしてこようか?」
「もう遅いわよ。しっかりと痕跡が残っているもの。あの痕跡だけであと100年消えないわ。」
それでは、あの扉の寿命と同じくらいなのか。じゃあ、外しても意味が無いな。
「それに責任は取ってもらうからね。」
「責任?」
「そうよ。責任よ。これで3箇所目よね。」
3箇所? なんだろう。心当たりは無いんだがな。
「知らない振りしてもダメよ。これで日本国とチバラギ国は運命を共にすることになるわ。万が一、この日本国が消滅することになったら、チバラギ国にも多大な影響を与えることになるのよ。」
この日本が消滅・・・ありえないとは思うけど、核戦争とかで人が住めない状況になったりした場合らしい。
「それで責任って?」
俺はおそるおそる聞いてみる。
「この日本が消滅しないようにすることよ。」
「この先、日本が消滅するのか?」
「その質問には答えられないわ。」
答えられないと言いながらも、その真剣な目つきはそう言っているも同然だった。
ありえるとしたら、戦争だ。すぐ隣には、東洋の火薬庫と呼ばれる国もある。あの国が本気で戦争を吹っかけてくれば、当然戦うのは在日米軍だ。
自衛隊は後方で支援するのが関の山だ。
なにせ、防衛大を卒業しても入隊を強要できないお国柄なのだ。数々の優遇制度でお金の掛からない大学生活を送っておいて、卒業した途端手のひらを返して入隊拒否するのだ。しかも、奨学金さえ返金させることもできないらしい。
戦争が始まっても戦場に配備されるとなったら拒否する人間も多いに違いない。
在日米軍が守ってくれるにしても、日本も相当な被害を受ける可能性がある。何といっても、あちらの国側にある日本海側には、多くの原子力発電所があるのだ。
そこにミサイルが飛んできたら・・・と思うと、背中がゾクゾクと凍りついた。
誰だ! 隣国に戦争状態の国が存在するのに原子力発電所なんか、建設したやつは!!
福島原発の件では、真っ先に逃げようと言い出すような電力会社だ。戦争状態に突入したときのことなんか、考えたこともないのだろう。想定外の一言で真っ先にに海外に逃げ出してしまうかもしれない。
日本海側だけでない。太平洋側にも多くの原子力発電所がある。実際にアノ国のミサイルは楽々と太平洋側に届き、海に落ちているのだ。太平洋側の原子力発電所にミサイルが降り注いだら、日本が消滅すると言っても過言じゃないだろう。
「それくらい、あなたになら出来るでしょう?」
俺が? 一民間人である俺がか?
「わからない? 日本が消滅するようなことならば、あなたの大切な従業員の身に悲劇が振りかかるということよ。そうなったらどうする?」
「相手をぶっ殺す!!」
ふと、湯村さんのことを思い出す。結局、あのときはどうなった。俺一人の個人的感情でイギリスを、アメリカを巻き込んでしまった。
どうせ後悔するなら、先手を打ってもいいはずだ。俺の大切な人間に手をだそうというのであれば、相手を叩くまでだ。
「ほら、答えなんて出ているじゃない。」




