第9章-第123話 おしつけ
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この男は、由吏姉さんの旦那だ。この地区から国会議員を代々輩出している三多村家の末っ子だ。
俺という存在が気に食わないらしい。まあ、自分の奥さんの前の男が気に食わないのはわかる。しかも、年に1回は会いに来ているし、鈴江と別れたときも泣きつきにきている。
まあ、そのときは由吏姉さんに追い返されたが、浮気を疑われているらしい。
三多村家は真日本土建という三重県では大手のゼネコンで有名だ。阿坂家とは関係が深く、先々代の阿坂家の当主が弁護士同士で戦後、国会議員に出馬する際には、三多村家に譲り、その代わりに国の事業の一部を阿坂家についていた企業に流したと言われている。
それが幾度かの政権交代で議員の持つ権力が弱体化すると反対に阿坂家に流れてくる仕事が必須となり、由吏姉さんと縁が必要であるため、頭が上がらないのだという。
そして、俺の後ろから、同じく舞妓姿のジェミーとマイヤーが現れた。最近は外国人コスプレイヤーも珍しくなく、お祭りのイベントなど積極的に参加する姿を目にするせいか、男は見向きもしないようだ。
「俺は、君がいい。なんともチャーミングだ。」
この末っ子は母親が違うせいか、なかなかのイケメンなのだが、その分、軽薄にみえてしまう。
俺が黙っていると気安く、俺の手を取って顔を近づけてくる。
パシッ。
キスをされるのは嫌なので、俺は、白塗りされた手を振り上げる。
しかし、俺の手が彼の顔に当たる寸前、手を掴まれたがそのまま、彼の身体を放り投げ出した。伊達に騎士レベルまで上げていない。相手が男なら手加減する必要もないからな。
「なっ・・・何をする。ぎゃ!」
今まで金と顔で世間を渡ってきたのだろう。女性に拒絶されたことが無いらしい。さらにジェミーから肘鉄を食らい。マイヤーが『ファイアボール』を撃とうとしたので慌てて止める。・・・膨れっ面も可愛いが流石に彼が可哀想だ。
代わりに蹴っ飛ばすと気絶してしまった。やりすぎたかも。
慌てて、他の人足姿の男たちも逃げていく。取り巻きだったのだろう。
「悪い。」
ここでやっと、声が出せる。外に出てきた由吏姉さんに謝る。
「・・・いいのよ。あの人も、アナタのことになると突っかかるのよね。それ以外は結構いい人なんだけど。」
悔しいがそれは本当のことらしく、彼が浮気をしたという話はとんと聞かない。
「浮気をしたら、言ってよね。奪いに来るから!」
「そんなことをいうから、彼が意識しちゃうのよ。」
俺が本気で言ったにも関わらず、鼻であしらわれてしまう。由吏姉さんは由吏姉さんなりに彼を愛しているらしい。
「さあ、行きましょう。・・・と言ってもいなくなっちゃったわね。困ったわ。」
しまった。これでは、由吏姉さんの立場が悪くなってしまう。俺は彼を引きずり起こすと頬を軽く叩く。
「ひっ! ドッペルゲンガー。」
そう指輪の『偽』を使ったのだが、そのまま卒倒してしまった。
「由吏姉さんなら曳けるだろ。」
高校時代、陸上部でパツパツの筋肉だった太股を思い出しながらいう。出来なければ、さつきに曳かせてもいいな。
・・・・・・・
翌日の地元紙にでかでかと三多村さんの顔をした俺の舞妓姿が掲載されたそうだ。それを見た彼は自宅に引きこもってしまったらしい。
だが、評判は上々で由吏姉さんの事業に彼が一肌脱いだことで家庭円満に見られ、外面のいい彼は徐々にだが社会復帰しているということだった。




