第9章-第122話 きょうりょく
お読み頂きましてありがとうございます。
展示しなかった写真なのか。どうりであの娘、焼き増しはしていないということを繰り返していたはずだ。写真の展示の最中に由吏姉さんを失った俺は迂闊にも気づかなかったというわけだ。
「へえ。か・わ・い・い!」
幸子がわざとらしく強調する。その声に反応した女性陣がドカドカとやってくる。
「気持ち悪いだろ。由吏姉もサッサとしまってくれよ。」
「ダメよ。ねえ、トムの遊女姿見たいと思わない?」
「見たくねえって! 今はすね毛も生えているし、余計に気持ち悪いだけだって。」
あの頃は、体毛が薄かったので、あのあと、一生懸命にカミソリで剃って濃くしたなんて・・・言えない。なんで女って、あんなものを見たがるんだ。俺の抗議もむなしく、無理矢理連れて行かれる。
素早く逃げれは逃げられるのだが、後が怖いので素直に従っておく。
「大丈夫よ。脱毛用カミソリくらい誰かが持っているわよ。た・だ・し、誰が持っていたかなんて、追及しちゃだめよ。」
そう言って幸子が嫁たちの集団に入っていく。すね毛まで剃る気らしい。逃げるべきか・・・。やっぱり、後が怖い。嫁たちの笑顔を守るのも俺の責任だ。・・・と思うことにする。
カラフルな色使いの4枚刃のカミソリが出てくる。横滑り防止のワイヤーまで入っている。
「なんだ。少しだけじゃない。これなら、ちょちょいと剃れば終わりよ。よっぽど・・・。」
俺が必死に伸ばしたすね毛が剃られていく。泣きたくなってきたが必死に我慢する。泣いても喜ばせるだけだ。
「余程、幸子のほうが剛毛か?」
ついつい、イラナイことを言ってしまった。
「ほほう。なにかな。そんなに全身の毛を剃ってほしいとな。野郎共、一気に剥いてしまえー!」
どう考えても野郎なんか居ないが幸子が号令をかけると下着を残して、すべての服を脱がされてしまった。
「何よ、何よ、何よ、なんでこんなにスベスベなのよー! キー! ずるい。ずるいわよ。教えなさいよ、その魔法。」
なんでも魔法のせいにするなよ。そんな魔法があっても使うわけないだろ。
マッサージのときに併用して冷え症をおこさないようにして肌のかさつきを防止する水魔法は、あるとエトランジュ様から伺ったが使ってやらない。一生冷え症で困ればいいんだ。
それにしても、なぜかエトランジュ様は美容にいい魔法を伝授してくれる。いったいどういうことなんだろうな。
きっと、王妃として美しさを保つために努力しているのだろうが、爆発的に増えたカラーコンタクトレンズやつけまつげのせいで、その差が埋まってしまったことに対しての当てつけなのかもしれない。
どうやっても、あの天然の美しさには敵わないと思うけどなあ。
何を思ったのか40男に舞妓の格好をさせるなよ。ここまで着込んだらすね毛を剃った意味がないじゃないか。なんのために剃ったんだよー!
由吏姉さんは一通り、変身舞妓のサロンで着付けを習ってきたようでどんどんと着付けをしていく。ぐぇ。いったいどんだけ締め上げるんだよー。女の子じゃ無いんだから、ウエストはそんなに細くないんだよー。
帯まで締めると、次はカツラだ。毛先に鬢付け油をつけて、後れ毛が出ても大丈夫なようにするとか・・・。そんなところまでこだわっている。
「所作は、そうそうそんな感じかな。」
京都で接待を受けたときのことを思い出しながら、身の振り方を考えていく。俺、何、その気になってるんだ?
でも、指輪の『偽』で女性のフリをするときのクセで、やってしまうんだ。俺にそんな性癖は無い!
「ワンダフル! ビューティフル!」
どこかの似非外国人のセリフを言い放ったセイヤが近寄ってきて抱きついてくる。思わず『移動』で逃げる。
バシッ。
近くにいた由吏姉さんがセイヤの頭をスリッパでひっぱたく。あのー、そんなのでも一応国王なんで・・・。
余程、痛かったのか。うずくまったセイヤの後頭部めがけて、女性陣から容赦ない攻撃が続く。あれ、ほうっといても大丈夫かな。まあ、セイヤだし。
「本当に似合うわね。どう? このまま愛宕町を一周してこない? デモンストレーションに協力してよ。」
遊女の格好をしたうちの嫁たちを世間にさらすくらいなら、俺が恥をかけばいいのか。まあ、真っ白に塗られてどこの誰ともわからないんだ。嫁たちに凝視続けられるよりもまだましかも、それに協力するって言ったしな。
玄関口に出て行くとぽっくりと呼ばれる厚底の草履が用意されていた。しかも俺にピッタリのサイズだ。
うーん、どこまで計画的なんだ。松阪に行くと言ったのも昨日だし、由吏姉さんは初めから、俺にこの格好をさせて愛宕町を練り歩かせるつもりだったのだろう。
うわっ。
玄関を出ると人力車まで用意されていた。完全にはめられたようだ。
「ほう、アイツには、勿体ない美少女じゃないか。」
人力車の傍に立っていた男が吸っていたタバコを投げ捨てて言った。




