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第9章-第120話 ふおん

いつもお読み頂きましてありがとうございます。

 それも会社設立1年後の報告書を手にして彼女に会いに行ったら、すでに彼女には婚約者がいた。それでも、自分のプライドにかけて配当を払い続け必死に赤字だけは出すものかと頑張ってきて今の俺がある。


 だが今だからこそわかる。あのときの自分の甘さが彼女に不甲斐なく思われていたのだろうことを・・・。


 和□金の座敷に入るとそこは仲居さんの独壇場だ。客は手を出せない。出したら、怒られそうな雰囲気のなか、すき焼きが取り分けられていく。自由に鍋をつつくことすら制限されているようだ。


「だから、もう必要ないよね。そろそろ返して貰っていいよね。」


「それは、どういうこと・・・。」


「そろそろ、家の改築資金が必要なの。だから返して貰おうかなって。」


「ダメよ。」


 そのときにさつきから、ダメ出しがかかる。


「あなた、山田ホールディングスの総資産額を知っているの? とても、今の段階で簡単に10億単位のお金が用意できるわけ無いでしょう。」


「私は、原資さえ返して頂けるなら・・・。」


 現在、山田ホールディングスの資本金は1億円だ。そのうち、1千万円が彼女の出資額だ。始めは3百万円だったのだが配当金を全て出資してくれたので、そこまで膨れ上がっている。


 だが今年の配当は2千万円、数年後には株式公開してその価値は数億円になる予定だ。それを今、1千万円で手放すなんて有り得ない。


「ダメだ! それだけでは、今まで育ててもらった恩に報いることはできない。」


 いじけていて後ろ向きだった俺を立派な経営者に育ててくれた。毎年の報告の際には的確なアドバイスを貰った。あれが無ければ今の俺は無いだろう。


「いったい、何があったというのです?」


 さつきが俺を制するように由吏姉さんに訊ねる。


「本家のほうに知れてしまって。どうしても、譲ってくれって。私はもう売ってしまったと答えたのだけど、調べられたらわかってしまうでしょ。だから・・・。」


 まだ未公開株式にも関わらず、俺の会社の株式を欲しがる人間がいるとは、どういうことだ?


 金額的価値は殆ど無いも同然なのだ。今は由吏姉さんが持っているから配当を出しているが、これが他人に渡れば利益を全て投資に回せば配当は少なくてすむ。


 それとも、俺の会社の経営内容を知りたいのだろうか。株主にはかなりの部分を開示しなければならないから、面倒なことになるかもしれない。


「こうしましょう。10年間、この株式を5億円で貸してください。」


 さつきが由吏姉さんに提案している。たしかに他人の手に俺の会社の株式が渡るのは気持ち悪い。由吏姉さんは今手持ちに株式が無ければ、本家からの話は無くなるだろう。おそらく配当も10年後1億円くらいにはなっているかもしれない。


「いいのか? さつき。」


「いいの。それに、山田ホールディングスの専務取締役に専念するから、今持っている会社も手放すから、それくらいの資金の余裕はあるわよ。」


「えっ。」


「もちろん、これからも必要な会社は、山田ホールディングスの子会社にするし、要らない会社は父に押し付けるわよ。でも、経営には関わらない。」


「本当にいいのか?」


「約束したでしょ。だから決めたの。」


 彼女の命の次に大事な会社を手放すとは・・・。


「あんまり、油断していると乗っ取るわよ!」


 そう言って、さつきが笑いかけてくる。彼女には結婚後、かなりの業務を手伝わせることになっている。株式公開に向けた業務もその一つだ。


 株式公開時には一定数の株式の放出が義務づけられているから、公開と同時に買い占められたら、事前に渡す分も合わせてかなりの株式を手にすることができるだろう。


 なにせ、彼女のバックにはゴン氏がいるのだ。本気になれば、どう足掻こうが無駄かもしれない。


「なにマジな顔をしているの? 軽い冗談じゃない。」


「それもいいな。さっさと売り切って、さつきに全部押し付けて悠々自適・・・。・・・何、怒ってるんだ皆。」


 新しく来たジェミーは渚佑子から通訳され嬉しそうな顔をしているが、他の皆は怪訝な表情だ。


「ほら、良く言うじゃないか。会社は育てるのが面白いって・・・。冗談、冗談だって。」


「ん、もう。皆、心配してるってのに!」


 幸子が涙目で訴えてくる。


「でもそれくらい、軽いフットワークで動くぞ。なんせ、頼もしい専務取締役だからな。」


「ええ、ええ、身を持ってわかっているわよ。来月からアメリカか。本当に1ヶ月に1回は立ち寄ってよ。」


「わかった。わかった。」


 うーん。この分だと、色っぽい話だけでなく、愚痴も聞かされそうだ。

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