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第9章-第119話 かのじょ

お読み頂きましてありがとうございます。

 再び、俺の前から消えろ! と言うつもりがうまく言葉に出来ない。


「いいのか? なりたかったんだろ。ヤオヘーの社長に。」


「いいのよ。今はアキエもあなたもいるもの。」


 それならば、何故、俺を裏切って出て行った!


 思わず首まで言葉が出掛かるが寸前で止められた。これでは、俺が負け犬じゃないか。俺は深呼吸をして言葉を繋ぐ。


「ああ、アキエに優しくしてやってくれ。」


 後半の言葉が聞こえなかったフリをするのが精一杯だった。


「それで終わり? 次は何処に行きましょうか。修さんを辿る旅のはずよね。その池に行ってみましょうか。」


「あっあああ。俺の知り合いが住んでいるから、連絡をとってみるよ。」


「その人、女性ね。」


「そんなこと関係ないだろ。セイヤ、以前持って行った肉を手配してくれたひとなんだ、覚えているか?」


「ああ、カレー味の肉。あれ旨かったぞ。」


 イロイロ間違って覚えているみたいだ。あのときは確か塩と胡椒を使ったはず、カレー味にしたのは黒毛和牛の方だったはず・・・。そこまで覚えてないか。


「トム! あの高級肉にカレー粉で味付けしたの? 信じられない!」


 そこで幸子が食らいついてくる。俺的にも有り得ないと思うが、幸子に取っては天と地が逆さまになっても有り得ないことだったらしい。


「幸子なら、どうするんだ?」


「もちろん、エ○ラ焼き肉のたれよ!」


 まあ、たしかにアレでも旨いと思うけど、高級肉を意識するなら、叙々□とか何か出ても良いだろうに・・・。


「すき焼きなら?」


「もちろん、エ○ラすき焼きのたれよ!」


 テレビCMに毒されているというか、主婦の知恵なのか。道理で食卓に上がる料理の味が均一なわけだ。


「えぇー。すき焼きって、パパが作るみたいに砂糖と醤油で味付けするんじゃないの?」


「アキエの言う通りだよな。牛脂を丹念に引いた鍋で焼いたお肉に直接砂糖をぶっこみ、醤油と昆布出しで味付けするのが正統派だぞ。」


 うっ。皆の視線が痛い。そういえば、昔鈴江に作ってやったときにも引かれた覚えがあるな。


 知らないのか?


 東京の高級店の割り下も砂糖と醤油と昆布出しで調合されているんだがなあ。それを鍋の中でやるだけだろ。


 あまりにも視線が痛かったので最終兵器を持ち出す。


「たしか、これから行く和□金っていう有名店でも、そのやり方で作るはずだぞ!」


・・・・・・・


 ゴン氏が手配してくれた近鉄特急しまかぜはなぜか松阪に到着した。どうやって、停めたんだ? 強引だなあ。まあ、アキエが喜んでいたし、いいことにするか。


「みなさん、ようこそ。いらっしゃいました。」


 閑散とした駅前に横付けされたマイクロバスの佇む女性が今日の案内人だ。


「阿坂由吏さんだ。俺の高校時代の恩人なんだ。」


「イヤだわ。私は別に何もしてないわよ。可愛い後輩が学校に来なくなったので、代表して見に行っただけじゃない。」


「親父の葬式が終わったら、何もする気がなくなったんだ。あの時は・・・。由吏姉が居なかったら、今頃、引きこもっていたかも・・・。」


 俺よりも小柄な由吏姉さんの顔を覗き込むように言うと僅かに頬を染めていて可愛い。


「あのときは、学校の王子様が来なくなって、女の子たちは牽制しあうばかりで見ていられなかったのよ。」


 皆でマイクロバスに乗り込むと運転席に座った由吏姉さんが座席の一番前に陣取った俺を見上げてくる。


 実は、彼女が俺の初めての女性だ。だがそのせいで彼女の自由気ままな高校生活を奪ってしまった。


 あのときは、俺が悪かったのだ。彼女とそういう関係になって、まるで金魚のフンのように彼女の跡をついて回りベッタリの生活を送っていた。


 だがそれが彼女の両親に伝わり引き離されてしまったのだ。彼女は、地元松阪の高校大学を卒業後、死んだご両親の跡を継いだ。


 彼女の家は、京都の東一条家の分家筋に当たり、京都、大阪からの仕事のまとめ役として、松阪経済界に君臨しているのだという。


 引き離されそうになったとき、逃げようという俺をひっぱたたいた彼女の寂しそうな顔が未だに忘れられない。


 あれから、大学に行き、会社に勤め、会社を経営するようになったが、未だ逃げ続けているのかもしれない。


 和□金の駐車場に到着する。


「以前、松阪牛の通販を紹介したとき私の名前を出したでしょ。あれが、うちの旦那にバレて大変だったのよ。今日も本当は旦那が挨拶に来なきゃいけなかったんだろうけど、スネちゃって。」


 そう言って微笑む。


「仕事、回してくれて、ありがとうね。あのいじけ虫のトムがあっという間に雲の上の人になっちゃったね。」


 そうなのだ。俺たちの付き合いを反対して引き離した彼女の両親が亡くなったのをチャンスとばかりにプロポーズしに行ったのだが、彼女には彼女の仕事があり、それを放り出せないという理由で断られたのだ。


 そのときに条件をつけられたのだ。資金を出してあげるから、それに配当を出しつつ、年商10億を超える経営者になれたら、結婚してあげるって。

 

ようやく、この話までたどり着きました。

私のペンネームは彼女から取りました。


うちのアキエが小学校の入学式・・・。異世界のアキエの入学式も見たい(笑)

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